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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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F38ホークネイル失踪事件 27-2

 2.謎解きの始まり



「レイスト」

 シンシマは勢いよく休憩室に入ってきた。

 その場でそれぞれくつろいでいた三人は一斉にシンシマを見る。

 レイストからすると彼の表情は楽しんでいるというよりは面白がっているという感じが見て取れた。何かあったのかと身構えてしまう。

 ショールーム担当のハリューリやプログラム班ノルディックも休憩中だったので二人もシンシマとレイストを交互に興味深げに見つめていた。

「何かあったんですか?」

 銀河系四大ネットワークのニュースサイトを検索していた時のことで、シンシマが飛び込んできたことから何かしら機材メンテナンスに問題があったのかと、今日の仕事を思い返しながらレイスト考えてしまう。

「レイスト、トラッティンの地元ニュースを見たか?」

「見ていませんが?」

 ハード班で一緒に行動することが多かったため、レイストはシンシマが色々と話題を振られることが多くそれについて行くために銀河系の情勢などを逐一調べるようにはしていたけれど、意外な方向から話が来たなと思ってしまう。

「遅い」

「何かあったのか?」ノルディックが訊ねてくる。

「お前さんには興味が無い分野だよ」シンシマは素っ気無くバッサリと切ってくる。

「そっち系の話か」一瞬で興味が失せたようだ。

 ノルディックはロボットなどのメカ物のアニメやゲームが好きなくせに軍事産業には興味が無いというか、毛嫌いしていた。

「そういうこった。レイスト、F38の機体が消えたってよ」

「消えた?」レイストはその言葉の意味を計りかねた。

 それでもシンシマの表情はその話題に面白味を感じていることが分かってしまう。

「トラッティン行政府からの公式発表だ」

 レイストの端末にニュースを転送する。

「へえ」食い入るようにレイストは記事を読み、記者会見の映像を見ている。

 行政府の公式記者会見から五分も経っていない。

 公表直後からこのニュースを掴んでいたのだろう。シンシマの情報収集力には舌をまくしかなかった。

「もっと驚けよ。俺たちがあの時見た機体のことだぞ」

「時間帯的にはあっていますね」レイストは情報を理解しようとニュースを読み解こうとしていた。「それにしても消えたって……」

 これだけ衛星軌道上から成層圏内の監視体制が確立されている今の情報網からすれば色々とおかしいだろう。

 それに個人的には単なる事故のように思えて重大なものであるようには考えられない。

「エンジン音も上昇にも異常は見られなかった。それなのに消えたんだぞ」

 シンシマはなぜか嬉しそうだった。その意味が分からない。

「爆散したのでは?」レイストは軽く返してみた。

「異常がないように見えたのに、なぜ?」

「機器類のトラブルとかあるじゃないですか」

「そうだとしても、宇宙空間まで到達していたはずだぞ」

「それはシンシマの推測ですよね? 成層圏を離脱直後に何かあったのでは?」

「これまでの試験飛行でブースターのエンジントラブルはなかったし、訓練飛行を何度も繰り返していたのにか?」

「試作機だったらエンジンにトラブルがあってもおかしくありません」

「機体設計は新規だったが、F38のエンジンはそれまでの改良型で新規開発では無かったはずだぞ」

「改良は加えられていますが、熟成されつつあるエンジンでしたね。だったらバードストライクの可能性は?」

「俺たちが見ていた感覚からすると、成層圏は抜けてそうな感じだったが? それに雲間に消えていったとすれば、あの高度で飛べる鳥の可能性は薄いだろう」

「じゃあ、スターダストの可能性もあるのでは?」

「宇宙ゴミか? それだったら記者会見でそうだったと触れていても良い様な気がするな。わざわざロストしていると言っているんだから、機体を見失ったと考えた方がよさそうに思える」

「そうですね……」公式会見を見終えてレイストは唸る。

「スターダスト対策はメーカーだけでなくトラッティン宇宙軍も対処しているはずだぞ。それに民間、公共ともに掃除屋だっているだろう」

「ですよねぇ……。機体にだってダスト対策は施されているはずですし」

「そういうこった。それに宇宙空間なのか成層圏なのかの発表もない」

「そこがおかしいですよね。ロストしたという発表なんですから、どこでロストしたか公表してもいいはずです」

「もし爆散していたら機体の落下の危険もあるしな」

「成層圏を超えていたのなら爆散した機体は燃え尽きている可能性もあります」

「こだわるねぇ」

「だって機体をロストするなんてありえない」

「レーダー網に穴があるのかもよ?」

「シンシマは微塵も思っていないでしょう?」レイストは試されているようで鼻を鳴らした。

「防空、防宙網に穴があったとしたら、防衛の致命的な問題になりかねないからな」

「隕石落下などに備えてサテライトステーションや監視衛星が存在しているし、侵入者を許さないように網の目のように防空監視網を強化しているのが軍の常ですからね。そのために地上に設置されたレーダー網だって隙が無いように建設されているはずです」

 今日も銀河系では太陽系ウルジミルやロンドスケーでの星間衝突や太陽系ナザルの内戦のニュースが流れている。

 銀河連邦政府も何とかそれらの衝突国家への介入を試みているが、調停は上手くいっていないのが現状である。火種は絶えずそこかしこに存在している。

 平和国家を歌おうとも防衛費の増額はどこの太陽系も避けられない状況だった。不安材料はどこにでも転がっているのが、現在の銀河連邦である。太陽系テラ、アレクサンドリア、ルージュ間でのイニシアチブの取り合いは今も昔も変わりない。

 古参太陽系国家としてのプライドがあるのだろう。

 トラッティンはどこの太陽系からも離れていて紛争の危機は少ないとしても経済的な圧力もあるだろう。そのための防衛網は必須となっている。

 辺境惑星国家であるティーマも例外ではない。

 自衛のための軍事力はどこの太陽系国家でも備えている。

 それに食いついてくる軍需産業も多かった。不安を煽らないで欲しいと思うレイストであった。

「ロストから六時間以上経っても機体の破片すら見つかっていないのがおかしい」

「そうですね。レーダーがロストしていない限り、すぐに事故現場が特定されるはずですからね」

「そういうこった」シンシマは嬉しそうに頷く。

 ノルディックはシンシマの表情を見て、彼が面白おかしく騒ぎ立てたいんだろうと思ってしまう。その相手がレイストであったのはその方面への知識があり興味を示すのが分かっていたからだろう。聞きたくなくても耳に入ってくるのでレイスト本人がどう認識するかだが彼らの会話の推移を見守るしかないと思っていた。

「シンシマは何か思うところがあるんですか?」レイストは訊ねる。

 この分野でシンシマと同等の会話が出来るのはレイストしかいない。

「色々と問題がある」謎掛けのようにシンシマは言う。

「何でしょう?」

「F38は試験機だ、実践的な試験飛行にしろ、性能テストにしろパイロットの状況も含めトレースしているのが普通だろう?」

「そうですね。すでに試験機は五機配備されているのに単機運用はおかしい」

「いい着眼点だ」シンシマは弟子にでも言うような上から目線で言う。「あの時の運用は色々とおかしな点が多い」

「シンシマは何らかの見解があるようだな」

 シンシマとレイストのやり取りをただ聞いていたノルディックが口を挟んでくる。

 さっさと答えが欲しい感覚なのだろう。

「どうしてなのぉ?」

 シンシマとレイストの会話を聞いていたのだろうハリューリも訊ねてくる。

 ソファーに寝転がっている姿は気だるげだった。

 ショールームでコンパニオン服をピシッと着ている時のような清楚で整然とした姿は微塵も感じられない。

 熟女が若いものを誘っているようにも見えてしまう色気があった。

 どちらが本当の姿なのだろうと疑いたくもなる。

 ハリューリはオンオフがはっきりとしている性格だった。

 休む時は身体も心も休ませるようにしていたため、休憩中の彼女はかなりリラックスしている。普段の仕事ぶりから想像もできないあられもない姿であった。

「なぜって? 試験機が五機も配備されているのです。通常の運用は三機編成になっています」

「どうして~?」

「死角を無くすためです。F38単体ではさばききれない事象に遭遇したとしても、三機編成で死角を無くせばすべての方向での迎撃が可能になります」

「ひとつ目では追いきれないものを三つの目で追うことでカバーしあい全方位を見回せると言うことね?」

「そういうことです」

 シンシマはハリューリにも分かるように丁寧に説明している。

 専門的な知識が無いためにきちんと説明しているのは分かるが、レイストとの会話とは偉い違いである。

「三機よりも多い数で来られたら?」

 ハリューリの問い掛けはタラレバの話にもなるが、絶対にあり得ない訳ではない。

 もし破壊が難しい隕石のようなものとかが高速で飛来したらとか、頑丈な装甲艦が衛星軌道上にまで到達して、そこから無数の子機が発進したとしたらと、問題や戦略が無数に考えられているのである。

 ここまで来ると攻める側と守る側の無限のイタチごっこにもなってしまう。

「そこまで侵入するとなると防衛網の問題にもなりますが、他の基地からもさらに迎撃機を出しますし、他の場所の宇宙艦もいるでしょうからカバーしてくれると思いますよ」

「迎撃衛星もありますしね」レイストは追加する。

「なるほど。なるほど。色々と考えられているのね」

 ハリューリも納得したようだった。


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