秘書面接 26-11
11.ライリィ、感じる
柱の根元近くまで来た刹那、目の前に巨木が現れる。
「何?」
今が夜なのだろう。星空が辺りを包み、枝葉の間から見える月明かりが綺麗だ。
遥か遠くに地平線が見える。
「ここは?」
大きく首を回しながら夜空を見上げていた。ティーマの星空では無いことは分かる。
ジプコ産業博覧会CMで見た光景にも似ていたが、ここはどこだ? TDF本棟地下にいたはずなのにどこに飛ばされたのだろう?
「何?」
夜風すら感じられるのである。信じられないが一瞬外に出てしまったかと思えるほどだ。
「今の景色はトラッティンのTDFパビリオンと連動しています。星空はトラッティンの星座と連動しています。あと一時間ほどで夜が明ける予定です。お楽しみください」
「連動?」観客に向けての笑みだろうが、「意味が分からない」
「パーンパイプがパビリオンのメインシステムだからです」
この子は何を言っているのだろう?
「驚きませんね」
「十分驚いているわよ。そんな機密扱いに触れていいのかしら?」
「大丈夫だと判断しました」
「いいの?」ライリィはクリスを見て訊ねる。「部外者よ?」
「パーンがそう判断したのであれば問題は無いようです」
トラッティン側ではフィオーレやオリエナが監視しているはずだ。それが何も言ってこないのであれば黙認していると言うことだろう。
「メンバーは全員トラッティンです。直接、会わせることは出来ませんので、こうしてTDFの活動と成果をお見せしています」
「それはどうも」
本当に映像とは思えない程リアルだ。
「それにしても連動している? なんで二つも同様なシステムを作る必要があったのかしら?」
「無駄遣いですか?」
「そう言うことよ。産業博覧会への参加が遅れたとはいえ、パビリオンで作ればいいんじゃないのかな」
「メインシステムはこのパーンパイプなのです」パーンは言う。「パビリオンにももしものサブシステムは置いていますが、パビリオン自体の管理はすべてここで行っています」
「どういうこと?」
理解が追い付かない。
「最後まで機密扱いにするつもりです」
「向こうに置けば機材は解体。盗まれる可能性があるということ?」
「そういうことです。向こうの神樹はスラスターなど普通の機材しか設置していません。我々のシステムはその特殊性から常に企業スパイに狙われています」
「そうだと現場担当は言っています」クリスも頷いていた。
「それでもこの映像を維持するのは距離からすると大変なんでしょうね」
理由が理解できると脱力感を覚えてしまう。
「システムやプログラムのこと、それから通信システムのことなど、それらを理解できないと本当の凄さは分からないですよね」
そう言うクリスだって理解はまだ及んでいない部分は多すぎる。
「面談のときのトラッティンとティーマを繋ぐ通信状態も凄いと思ったけれど、ここから映像などを管理しているんでしょう?」
リアルな映像や風もだけれど、タイムラグもノイズも無しに深淵な宇宙を通信維持出来るなんて信じられない。
このシステムは他企業から狙われるほど最先端を行っている。それだけは理解できた。
しかも警備会社を通さずに独自に守っているのがおかし過ぎる。
今この時もデータの蓄積が出来ていたとしてもだ。
「そう言うことです」パーンはさも当然のことのように淡々としていた。「無駄と思えることが技術の発展には必要なことなのです」
「普通なら考え付かないことなのですから、呆れるしかないわ」
「誉め言葉と取っておきますね。無駄な様に見えても、傍から見れば遊んでいるように見えても、それがTDFらしさであり強みであると思います。僕は少人数であっても巨大な部署にも対抗しうる場所だとTDFを信じていますから」
「それが貴方の信念?」
「TDFらしさです」
自分だけの成果であるとは言わないんだろうな。
理由はよく分からないが、成果と結果ありの社会では珍しい。出世を望んでいるわけでもないようで、少年部長は表に出ないつもりらしい。
あれだけ目立っているのにおかしいだろう。
「鳥の囀りも聞こえるのね」ため息を漏らすライリィだった。
耳を澄ませば動物の声も風で揺れる葉のこすれ合う音も聞こえてくる。
どれだけの情報が詰まっているのか、想像がつかない。
お金と時間をつぎ込んでいても何の成果を得られるのか全然分からなかった。
ただ優劣も差も本当は無いのだろうが、目に見えて分かることは良い事だ。
たった一人の観客の拍手がパーンパイプに響く。
それでパーンは満足しているようだった。
「パビリオンの音響はもっといいですよ」
「それは楽しそうね」
ライリィも微笑んでいた。




