秘書面接 26-9
9.ライリィ、TDFへ
パーンの話し方からクリスはTDFに向かうことはあの場で理解した。
一応、クリスはフィオーレに報告を入れていたし、キャスティには申し訳ないが、決済が必要なデータをラインで送っている。
本当に済まないと思いつつ。
静かに仕事ができるかと思っていたら、突然振り回されている。
相変わらずパーンらし過ぎて、応募してきた人も大丈夫かと思っていたが、フェリウス以上にうまく対応しているように感じられた。
クリスは理解できなかったが、二人の間には何か通じるものがあるのだろうか? 大らかな彼女にも通じ合えるようなものがあると感じてしまう。
クリスはパソコンを閉じると端末で時間を確認しながらTDF本棟入口へと向かう。
あの時のフェリウスと同じことがしたかった。
きっと彼女は秘書になってくれると感じていた。
クリスはフェリウスに迎えいれられたように応募者を招こうと思っていたのである。お茶はペリシアがいないので、用意はクリスがするしかない。
パーンの動きが読めないが、茶菓子はここに来ると話したところ、ペリシアが持たせてくれたクッキーで間に合いそうだった。
本棟入口に出ると丁度パーンのセダンタイプの赤いエアカーが停まる。
中からはパーンとライリィさんが降りてくる。
モニター越しで見ていたのとは印象が直接見ると違っている。より精悍であると印象がある。
髪は長いがパーンと同じ色でブルーパープルだった。スーツの色合いも同系色で目付きの鋭さからもアイカラーが違っても姉弟に見なくもない。
身長もだが年齢的にもライリィの方が姉らしくと思えるクリスだった。
「ようこそTDFへ。リョウ・ミヤノ・ライリィさん」
クリスはフェリウスに教えられたとおりにお腹の辺りで両手を合わせて背筋を伸ばし丁寧に挨拶するのだった。
「クリス。ご苦労様です」
パーンは微笑んでいた。
「ええとお招きいただきありがとうございます」ライリィはクリスに慌てて頭を下げる。
本社で流れているトラッティン産業博覧会の広報映像と彼女は違って見えてしまう。
「改めまして、TDF部長秘書をしていますナーブ・クリスタル・リクスフェンです。呼びにくいでしょうからクリスでお願いします」
「こ、こちらこそ。よろしくお願いします。リョウ・ミヤノ・ライリィです。ライリィでもリョウでもどちらも名前なので好きな方でお呼びください」
秘書ってこんなに優雅でバカ丁寧なんだろうかと思ってしまう。
「これは前任のフェリウスから教えてもらった作法です。秘書として必要なことではありませんが、教えてもらいました。私は背筋が丸くなりやすいので、前任からは背筋を伸ばせと教えられ続けています」
「は、はあ……」
「ライリィさんなら直ぐにできますよ」
「因みにお幾つですか?」
「銀河標準時間に換算しますと今年で二十一歳になります。ライリィさんとあまり変わりありません。太陽系マルダのハイスクールを卒業して五年目で本社TDF秘書に採用されて、TDF部長秘書に採用されました」
話をしていると本当に大らかな人だと分かってしまう。不仕付けな質問にも顔色を変えずに答えてくれていた。
「失礼ですが、ジプコの産業博覧会広報で出ていた方ですよね?」
「やっぱり観ていますよね」照れくさそうにクリスは笑う。「あれが私の本来の姿に近いです。挙動不審になったり方言が出たりで、フェリウスには本当に助けられています」
彼女の言葉からも二人の信頼関係が伺える。
「今は堂々していますから、別人ではないかと」
「先日、トラッティン全放送局合同の開幕直前情報の撮影会が行われました。まだ慣れませんが、それでも最初の頃よりはうまく立ち回れたかと思っています。それに私は部長がトラッティンにいる間は軽食コーナーのウェイトレス兼案内役もメインで勤めているのですよ」
「秘書以外で、ですか?」
「コンパニオン以外にもショールームの案内役なんかもしています」
「役割は固定ではなくすべてを担当できるようにするというのが、現場責任者の意向ですから」パーンが付け加えている。
「激務でしょう!」
「少人数で回すので、どうしても必要な処置です」
「いいんですか?」ライリィはクリスを見る。
「スキルアップになりますよ。おかげである程度のことでは動揺しなくなりました」
「本当ですか?」パーンが突っ込んでくる。
いたずらっ子の目だった。
「申しわれねえだな」拗ねているのだろうか。わざとらしく方言で話してくれた。
「クリスらしくていいなと」パーンは笑っていた。
おい。揶揄いすぎだろう。
それでも部長秘書さんは大らかだった。
「それで、どこへ案内してくれるのですか?」
背筋を伸ばすと百八十九センチの身長は破壊力がありすぎる。頭ひとつ分違うのでパーンもだが目の前に圧倒されるような大きな胸があるのだからなおさらだろう。
アンバランスのように見えたけれど小顔だし腰が括れていてよくよく見ると均整がとれている。広報映像で人気が出るのも分かる気がしている。
テレビのよう普段から化粧すればいいのに。服装もそうだ。
普段からテレビ出演のように気を遣えばもっともてるだろう。
「TDFの地下へ」
「何があるのですか?」パーンの言葉に興味を持ったライリィは思わず訊ねている。
「TDFの心臓部と言える場所です」部長秘書は言う。
「心して見てください」パーンは微笑んでいた。「理解出来ればTDFがどのような場所なのか分かるはずです」
「そうであればいいですね」
ライリィは素っ気無く言いエレベーターに乗り込んだ。機密扱いのものを見せる気だと分かってしまう。
私は技術職でも研究職でもないのだから理解できないと思っているのだろうか?
馬鹿だと思われているわけではなさそうだけれど。




