秘書面接 26-7
7.どちらが面接官?
トラッティンで休憩時間であったというフェリウスは三十分ほどでパーンの左隣から消えていた。
彼女は延々、パーンに関しての思うところを話し続けている。秘書からストップがかかる歩とで、申し訳ないことをしたとライリィは思ってしまう。
「貴女はどこかの派閥に属していますか?」
パーンは唐突に訊ねている。
「派閥?」
確かに本社裏サイトを調べていると、専務派とか常務派の単語はあったが、それが何なのか認識できていなかった。
採用されて一年しか経っていないので派閥抗争には巻き込まれていない。
「派閥がどういうものか分かりません」質問の意図を計りかねて素直にライリィは答えていた。体験したことは話すことが出来るが、そうでなければ憶測だけで話すのはおかしかった。
「では、それがどういう弊害があるか分かりますか?」
「私自身の体験に置き換えて言わせてもらえれば、それは仕事をする上では不要なものであると思います。意思疎通が出来なくなるし、壁が出来て仕事がやり辛いでしょう」
「ありがとうございます」
「それでいいの?」思わすあっさりとした口調にライリィは唖然としていた。
感覚的にもっとしつこく聞かれると思っていた事柄だったからだ。
「自分を見失わないのであればそれでいいと僕は思っています」
面白い子だった。
阿吽の呼吸が存在していると思えるほどに。
「なんか尋問されていみたいね」
「かつ丼を用意しましょうか?」
「無駄は必要ないわ。あんパンも牛乳もいりません」
「よく古いドラマを知っていましたね」
「見なければいけない感じがして、見て言いました」
「気が合いますね」
「それで」ライリィは流れで突っ込んでいる。「部長は『女好き』なのでしょうか?」
これまでの言動から分かっているが、身構えながら訊ねていた。
「来てくれる人たちの能力を見ているだけですが、そう思われても仕方のない人材が集まっていると思います」
「採用基準ではないと?」
『私は初顔合わせで、骨格が美しいと言われましたよ』
「はあ?」安産型だとは思っても、それはない。
「そんなこと言いました?」
『はい。しっかり覚えています。そのようなこと言われたことがありませんから』クリスは大らかだった。『いやな感じはしませんでしたけれどね』
「普通、そんなこと言いませんよ」
『そうですよね。アリエーは筋肉が美しい、でしたか?』
「風だったような」
『ライリィさんは、何か言われましたか?』
「何もなかったですね。ただ見つめ合っていただけのような?」
「そうですね」
「どうやら男性が来ると思っていたみたいよね」
『部長。オガワさんが作ってくれた資料は?』
「読んでいませんでした」パーンはあっさり白状する。
『オガワさんにもライリィさんにも失礼ですよ』
「すいません」
「あの。TDFはどんなところなんでしょう?」
『そうですね。一言で説明するのは難しいですね。個性的で素晴らしくて、凄くて……』ここで秘書は言葉を切った。『何言っているか分かりませんね』
少し照れ臭そうに笑っていた。こちらの方が地なのだろう。
「いえ、なんとなく伝わってきます」一生懸命なのが。
そして、裏サイトで流れていた異名からも、個性というか癖の強さが伺われてくるのだった。『狂犬』『毒舌』『野猿』といったのが目立つが『仏』『天使』『英雄』とか表裏がありすぎた。『吹き溜まり』だとは思えない。
それを纏めているのだから、どれだけ切れ者の部署なのかと思ったら、つかみどころが無さ過ぎて逆に困惑してしまう。
ただの『道楽』『脛かじり』ではないのは分かるのだが……。
どう反応すればいいのだろうか。
「あとはそうですね。バレーボール大会の映像は見ましたか? 僕のではなくてね」
「観ました。とんでもない試合でした」
身長差で劣っているのにパワーとテクニックで圧倒している。プロリーグの試合でもあり得ない。
「部長さんの動きもふざけているように見えますが、きちんとリベロの方の動きを見ていてすぐにカバーしてもらえるようにしていましたよね?」
ライリィの言葉にパーンはただ微笑むだけだった。
『なるほどそんな意味があったのですね』クリスは感嘆している。
「えっ? 気付かなかったんですか?」
『誰も指摘してくれませんでしたので』苦笑いしているクリスだ。
「まあメンバーを集めていたら、それだけの人材が集まってくれたと僕は思っています。これはオガワさんやメンバーの力かあってのことです。アリエーはホーカルとオガワさんがいなければスカウトできなかったでしょうし、オリエナもオガワさんが目を付けてくれなければTDFに来てくれていなかったはずです。それにテーセもです」
資料を示されると、友人関係だけでなく夫婦や婚約関係な人もいる。
様々なつながりがあって、メンバーは構築されているようだった。
「それにしてもプロジェクトを推進するうえでも、十七名は少なすぎませんか?」
『他に三名の出向者だけでなく多くの人たちの手助けがありましたから、何とかなりました』裏事情は知らなくても、クリスは朗らかだった。
「それでももっと増やすべきだったのでは?」
「ちょっかいを出してくる勢力もありましたので、万全を期しています」
パーンは軽く言っていた。それでなんとなく裏事情は見えてきた。
他にもありそうだが、常務派と専務派か。TDFのノウハウを狙うところは多いのだろう。
「警備会社とかシステムを使っているのですか?」
『TDFオリジナルです。それですべて賄っています。それだけのシステムを組める人がいますから』
部長に代わり秘書が答えている。
言いにくいことなのだろうか?
「異次元ですね」
「普通ですよ」部長は微笑んでいた。胡散臭いがメンバーを信頼しているのが分かるから不思議だ。
「『狂犬』は?」代表例を出して訊ねている。
「ノルディックのことですか? 彼は僕のいい話し相手ですよ。ノリもいいし付き合い易いですよ。怖くありません。色々と噂があと思いますか、額面通りではないことは会えば分かることです」
『有名ですよね。『天使』と言われる方と仲がいいのでやっかみもあると思います』
秘書も不思議そうな顔でライリィを見ている。
「それは良かったです」
「毒舌は本当ですよ」パーンは笑う。
『本人と夫人に嫌われますよ』
「黙ってくれれば大丈夫です。ライリィさんも付き合ってみれば分かりますが、面倒見のいい方ですので問題ありません。どうでしょう?」
「理解出来ました」
「それは良かったです。他に訊きたいことはありますか?」
「だいたい分かりました」これ以上人間関係など質問しても同じ答えが返ってくるのは目に見えている。
あとはライリィ次第になってくる。
「部長さんも質問はありますか?」
「ありません」パーンはまたも微笑んでいた。答えが分かっている?「それをオガワさんに伝えていただけると助かります」
「了知しました」ライリィはパーンに頭を下げた。
簡潔なやり取りだけで理解し合っているようなので、なんか二人だの世界が出来ているのではクリスは思ってしまう。そのやり取りについて行けずクリスは二人を交互に見つめるしかなかった。




