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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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秘書面接 26-5

 5.秘書の実態



 パーンは端末を上着の内ポケットにしまう。

 その二秒後にパーンの隣に女性が姿を現す。

「うおっ!」

 声は揚げたがその場から逃げなかったのは自分を誉めたい。

 突然目の前に女性が現れたのである。驚くよね。

『こんにちは』

 座っていても部長より頭ひとつ大きい。尺が間違っていなければ百八十センチはあるだろうか?

『ライリィさん、映像で失礼します。部長秘書をしていますナーブ・クリスタル・リクスフェンと申します』

「え、映像?」

『私自身はTDF本棟の事務室で仕事をしていました』

「い、忙しいところすいません」

「大丈夫です」パーンは屈託なく笑っていた。

 秘書だとしても仕事中だよ?

「テーブルの下から見て下さい。映像だと分かるでしょう」

 本当だ。部長さんの言葉に従って足元を覗き見るとタブレットからの3Dホログラムだと分かる。

 産業博覧会のCMからその技術力は理解していたが、実際にこうして目の当たりにするとノイズも向こう側が透けていることも無かったし、声がズレることもなかった。

 研究職連中には嫌悪感しかなかったが、これは凄すぎるだろう。

 椅子に腰を下ろしながら、まじまじと秘書を見るとスタイル的にはおかしいが安産型だと思ってしまう。それに同性でも胸に目が行ってしまうのである。

「変態ですね」率直にライリィは言葉にしてしまう。

「誉め言葉に取っておきますね」

「すいません」ライリィは恐縮していた。

『私は慣れましたが、傍から見るとそうでもないですよね』

 秘書も気を悪くした様子もない。大らかすぎた。

「個人的には仕事で引っ掻き回されているので、研究職の方々にはいいイメージはありません」

『TDFもある意味そう言うところがあますが、そういうものだと思えれば問題ないところだと思いますよ』

 本当に大らかだった。嫌味が通じないほどに。

「TDFでもそうなのですか?」必要なことなので訊ねている。

『私はプログラム班と近い位置にいますが、それでも離れていますのであまり煩わせられることはありませんね。ただ納期が近いと私も手伝いに駆り出されることはあります』

「大変じゃありませんか? 秘書と関係ない仕事に関わるのは」

『大変ですが、自分のスキルアップにつながると思えば苦になりません。私はプロクラムのことはTDFに来るまで全然分かりませんでしたが、いまではC級ライセンスに挑もうと思っています。まだまだ未熟ですが』

 それは顔を背けたくなるほど眩しい笑顔だった。

 希少種のような純朴で大らかな人種がいるのだなと思ってしまう。

「強制?」眩しくて抵抗を試みてしまうライリィだった。

『そのようなことはございません』テレビで見た時はずいぶんオドオドしていたように見えたのだが、今はスマートに応えてくれている。『必要だと感じたから取得しようとているのです。自分の為であります』

「分かりますが、本来の仕事が疎かになるのでは?」

『これもここでは部長秘書の仕事ですよ。私はパーンのスケジュール管理の他に、総務と経理の仕事もこなしています』

「それは業務外では?」

『そう思うのもごもっともです。私の前任の秘書官はパーンの面倒以外にもTDFの雑用をすべてこなしていました』

 誇らしくもあり凄いことだと胸を張っている。

「全部ですか? 酷くないですか?」

 いくら人が少ないとはいえ一人でカバーするのは無謀だ。一人に負担が掛かりすぎるだろう。

『そうですね。そんな話を私も友人にしましたら、超ブラックだと心配されました。でも皆さんの一生懸命な姿を見ていると、私自身やれることはすべてこなして、役に立ちたいと思ってしまうのです。大変ですが、そうしたくなるような職場なのです。非常に皆さんにはお世話になっていますから』

 眩しい。溶けてしまうほどに……善人過ぎるだろう。

 それにそう仕向けられているのでなければ、人としてはそう動くのかもしれない。

「それでも、それが過重労働になっているのは問題かも」

『大丈夫ですよ。休みもきちんとありますし、癒しもそれぞれありますから』

「信じられません」嘘は言っていないのは目を見れば分かるが……。

『こればかりは実際に見てもらわないと分からないかもしれませんね』部長秘書は微笑んでいた。

「い、いや決めた訳では……」確定事項のように言わないで欲しい。

『前任は強制的に出向させられたと聞いていますが、私の場合は考える時間をもらっていました。私でよければ色々とお答えしますので、お訊ねください』

「そうします」

 話をしてみただけでは言葉を飾られて分からないとは思う。こちらでそこから推測するのは骨が折れる。

『TDFは優秀な方々が揃っています。私の時にはロイス、ホーカルもいてくれましたし、その後はキャスティも加入してくれています。負担はかなり軽減されています。今後の採用状況を考えると秘書の仕事に専念できるようになるかもしれません』

「それでいいのですか?」

 捨て石になっているような気がしてしまう。自分がすり減るだけで良いことは無い。

 評価されない裏方の仕事すぎる。それで満足しているのが心配になる。

『部長秘書としては面倒事も多くありますが、丸一日忙しいわけではありません。それ以外では手も空いてしまうことがありますので、手持無沙汰にならないようにその間に私は総務関連の仕事をこなすようにしているという感覚でしょうか』

「それでも無償ですよね?」

 良い訳が無い。

「自主的に仕事を片付けてくれていて助かっていますよ」パーンは屈託ない笑顔でライリィを見る。

「労基に反しますよね?」

 組合に入っていないが、ライリィは言う。

『メンバーは誰も気にしていませんよ。好きでやっていることですから』

「ホーカルは頭を抱えているでしょうが」パーンは笑う。

 TDFには労働組合の担当者がいるようだ。「それでも無償残業は如何なものかと」ただ働きなのだ。

 今の職場と同じではないか。薄給のままこき使われてしまうのである。

「私は秘書という仕事をしたことはありませんから、私の感覚がおかしいのかもしれませんが、前任は仕事が手出来る方だったので、心配されましたが出来る範囲で仕事をカバーして欲しいと言われていました」

 あくまでも大らか過ぎる人だ。現状で満足してしまっている。前任の言葉を盲目的に信じてしまっているのか?

「仕事の範疇を超えています。給与に反映していませんよね?」ライリィはなおも突っ込んでいる。

 すると部長さんの方から話が出ている。

「評価はしています」

『オガワ部長代理からしか聞いていませんが?』クリスも慣れてきたのか突っ込みがうまくなってきている。素で天然だったがTDFに馴染んでいる証拠ともいえるだろう。

「給与でも反映させようとしていますが、月決めの残業時間を軽く超えるので」

 それは理解できたが、笑って誤魔化すな!

「問題ですよ」

『TDF環境にも問題があります』

「というと?」

『TDFは研究棟や事務室がある本棟と隣接して寮があります。そのために仕事と私生活のオンオフが曖昧になってしまうのです。私も寮にいますから呼び出されればすぐに仕事場に直行します』

「二十五時間常駐待機? 呼び出す方にも問題があるのでは?」秘書が呼び出される緊急性ってなんだろう?

「僕も含め皆、仕事熱心ですから」

 意味がなさそうだった。

『二徹三徹なんて普通に見慣れた光景になっています』

「良くないでしょう。苦情は出ていないの?」

『メンバーは好きでやっているので、苦情を言う人は出ていません。逆に自分以外のメンバーのことを心配する人の方が多いかな。止める方が大変ですし、それに部長代理や管理課長は定時で退社していますので、強制されているわけでもありませんから皆さん好きにやっていますよ』

「労組に訴えてもいい事案よね」

「それは困りますね」

 全然困っているように見えなかった。本当に気にならないのだろう。

 この子も姿を見せていないだけでどこかで潜伏しながら仕事をしているようだ。帰れと言いわれながら、それぞれに場所を変えて仕事を続けているのが見えてしまう……。

 そんな職場があるのか? 悪夢?

「部長秘書の範疇を超えているわ。ハードワーク過ぎない?」

『そうは思いません』

「傍から見ればおかしいことだらけよ。手当も出ないなんておかしいわ」

「そこですか」

「重要でしょう」

『それなら部長に対する危険回避手当というのを作りましょうか?』

「なにそれ?」ライリィは驚く。ネーミングが雑過ぎるだろう。

「面白いから許可します。それを残業手当超過分や休日出勤手当の支払い枠に当てて下さい」パーンは嬉しそうに言っていた。「ここはオフレコでお願いしますね」

 最後はウィンクしながらパーンはライリィに言っていた。

「信頼していただけるのはありがたいですが、なんでそれだけ明け透けなんですか?」

「僕が気にしていないだけです」

 名称とかはそうであっても、それ以外は嘘だろう。

『キャスティやフィオーレに進言してみますが、了承は可能かと』

「ありがとうございます」

 問題が解決したようなスッキリした表情を二人から向けられてしまう。

 それでいいのか?

 ……いいんだろうな……。

 ますますTDFや部長という存在の判断がつきにくくなってくる。もっとデータが必要だと思えてくる。



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