秘書面接 26-1
1.新たな応募
「おや?」
予期していなかったメールがオガワの端末に届いていた。
驚きもあったが、中身を見るが怖い気もしてしまう。このために特別にフィオーレに作ってもらったメールアドレスだったが、これは面倒事も含まれているからだ。
内容が良いものであれと願うのみである。
バーリー・リライアント・オガワはパビリオンの機材の点検整備が終わり、端末を自分のパソコンに接続し本社からだけでなく内外からの公私にわたるメールのチェックをしていた時のことである。
TDFに部長というトップは存在しているが、現場の実質的なまとめ役はプログラム班のリーダー、フィオーレ・カティエスだった。彼女は前面にはほとんど出なかったために本社内では部長のパーン・ロス・ヘルメナスよりも対外的に信頼されTDFを取り仕切っていると見られているのが部長代理のオガワである。そのため彼のところに直接持ち込まれる案件も多かった。
現場への復帰が出来たのは良かったが、TDFへの異動は部長の補佐役として了承していたけれど、釈然としないものもあるオガワだった。
ただ人事関連に関しては、元人事部長であったこともあり、TDFのメンバー集めに関してはほぼ一任されているだけに諦めるしかなかった。こと部長秘書に関しては彼が勧めたこともあり責任がある。
銀河標準歴で今年五月に部長秘書であるクリスことナーブ・クリスタル・リクスフェンが帰省した際、向こうの支社の元同僚と結婚の約束をして戻ってきた。そのために地元に帰りたいという希望があったため、オガワは新しく部長秘書を探すことになってしまっている。
フェリウスを引き継いだクリスは予想以上に頑張ってくれていたため、長く続いてくれると思っていただけにショックは大きい。
それでもクリスの希望を叶えるために新しい秘書募集に頭を悩ませることになっている。
今は長続きしないということよりも、募集を掛けても応募が無いことの方が悩みである。クリスの時も彼女に辿り着くまで七ヶ月かかっている。今度はどれくらいの期間が必要になることやら……。
クリスが次の秘書が決まるまで部長秘書を続けてくれているのがせめてもの救いだった。
「オガワさん、どうしたんですか?」
珍しくオガワが声を上げていたのである。何かあったのがありありだったので興味津々にハード班リーダーのシンシマ・ケンマウは訊ねてくる。
シンシマ以外のハード班メンバーもオガワを注視ているようだった。
「ああまあ、部長秘書の応募があったんだよ」
「へぇぇ~、久しぶりですね」レイスト・ハイブルスが言う。
言葉以上に驚いているのが分かる。
部長秘書のクリスは普通にパーンとともに行動していたし、忙しさで募集していたことすら忘れかけていた。驚きよりも珍しさが先に来てしまうのだろうか。
オガワ自身もそうだったようにどんな奇特な奴だと思っているに違いない。
「クリスの婚約が正式に決まって募集を掛けて四度目でしたか?」
ホーカルが言うと隣にいるアリエーも頷いている。彼女も興味津々だった。
「今度はまともな応募だといいですね、オガワさん」
「大丈夫ですかねぇ」シンシマはレイストに同意する。「まあTDFも有名になったと言うことですかね」
オガワは今回の部長秘書の募集は本社内だけでなく各太陽系の支社にも募集広告を出している。クリス採用のいきさつからも本社だけでは無理だと思ったからだ。
部長秘書の募集を掛けた直後に二件続けて連絡がオガワに届いていた。
募集してきた二人はこれまでにないほど優秀な人材だった。
ただ背後関係を調べていくと、巧妙に隠そうとしていたが、それぞれ常務派と専務派から出された人選であることが分かってくる。
それが分かった時点でオガワは直接面談することなくお断りのメールを入れている。その後、もう一件あったがオガワが面接しようとしたらドタキャンされた。
何らかの圧が掛かっていたのかもしれない。それとも嫌がらせか?
それ以降、二ヶ月余り応募は無かったのである。
そのためクリスの好意に甘えようとしている気がしているオガワだった。
「『秘書潰し』とか『親の七光り』とか、当時は未成年でしたから散々な言われようでしたよね」
それを知って異動したての当時のアリエーは憤りを感じたほどである。パーンの本質を見ないで噂だけに踊らされている者達に怒りすら覚えている。
「『ごく潰し部長』なんて今も言われていますよね」レイストは苦笑している。「フィオーレやディがいるから『顔面偏差値』『女好き』とかまで言われているし」
「その前は『女嫌い』だったし、顔面偏差値に関しては否定できないからなぁ。どのフェチにも対応できるような面子が揃っている」
「そ、そうなの?」アリエーが驚いていた。
「ロリに対応しているテーセやキャスティ。熟女に見えるペリシアなんかいるし、健康的美女アリエーだろう」
「ええっ。嘘でしょう?」
「裏サイトを見て見ろよ、メガネ萌えやワイルド系好きに人気がある奴もいるし」
誰とは言わないが、フェチズムに対応しているとシンシマは力説していた。
「パーンはそんな基準で集めているわけではないと言いそうだけれど」オガワも呆れている。
「そうですけれど、標準以上の女性メンバーが集められているのは事実です」
「前の応募はそれに合わせたように美人揃いでしたよね」
「そこは査定に入らないのにね」オガワはため息をつく。
「常務派も専務派もそう思っていなようですけれどね」
「バレーボール大会の映像も悪意ありきで、出回っていましたもんね」
社内バレーボール大会決勝のパーンの出場シーンだけを切り抜き、ふざけているようにまとめたショートムービーが流されていた。
「フィオーレにすぐに消してもらっていたけど、思いのほか広がったよね」
「悪意があると思えるほど、瞬間のアクセス数がえぐかった」
「TDFへの嫌がらせよね」
「本人が気にしていないんだからいいんじゃないか」
「パーンは本当にマイペースすぎ」
「今回は良い応募だといいですね」
「そうだね」
オガワは安全確認が済むとメールを開くのであった。




