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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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千客万来 25-7

 7.エアフィアンセではなかった



 メーク・ハドウィンは博覧会の雰囲気を大いに楽しんでいる。

 産業博覧会というからお堅いイメージもあったが、それを払拭するような雰囲気がある。まるでテーマパークに来たようで楽しい。

 中央広場に行くと飲食店だけでなくお土産コーナーや物産館がある。

 覗いてみると、猫耳カチューシャとハートと大会マスコットの口先を模したフレームの眼鏡があり、ピンクを購入している。

 ディフォルメマスコットのポップコーン入れも買って胸元に下げながら中央広場のオープニングセレモニーと塔からの眺めを堪能する。

 他の広場には地元の水族館や遊園地があるという。

 だったらそれも堪能したい。

 一日ではすべてを回り切れないと聞いていたが、本当に楽しむのなら一週間は休みを取らないと難しい。

 二泊しか宿を取らなかったことを後悔してしまう。

 端末で時間を確認するとお昼を過ぎている。

 ランチは紹介があってTDFパビリオンでとることに決めていたので、ムービングロードに乗る。相方が予約をしてくれているそうなので楽しみだった。

「あいつもいるはずだし」


 クルス・パートン・フルクスは午前のシフトを終えてランチを取ろうと軽食コーナーに向かっている。

 TDFメンバーや関係者しか食べられないペリシア特製のランチである。

 美味すぎて外で食う気になれない。

 社員専用のエレベーターで第二層に向かうと、観光客や家族連れで賑わう軽食コーナーに足を踏み入れる。

 フェリウスとクリスが忙しそうに動き回っている。

 ワンオペのペリシアはもっと大変だろうと思ってしまう。ただ彼の視線は既婚者や婚約者かいるという彼女には興味が無かったので、自然とフェリウスへと目が行ってしまう。

 そのためにすぐに気付けた。

 真っ直ぐにフェリウスの背後に回ると、彼女に近づく痴漢が伸ばしていた手を寸前で掴んでいる。

「おいたはダメですよ」

 自然体で近づいていた痴漢の腕をクルスは捩じり上げている。

 冷や汗をダラダラ流している男を有無を言わせず警備担当者に引き渡している。そのまま銀河保安局行きだった。

 監視カメラが男の動きを捉えているので言い逃れは出来ない。

「クルス、ありがとう」

 給仕服のフェリウスはクリスに感謝する。

 そんなフェリウスの肩にクルスは馴れ馴れしく手を回している。

「だったら今夜付き合ってくれない?」

「えっ?」

 真顔でクルスは口説いてくる。

「今晩は……」

「分かっているから、それが終わったら抜け出そうよ」

 ナチュラルに口説いて来ていた。それが無ければ恰好よくて惚れ直されるはずなのに、彼は股間に正直すぎた。

「だから……」

 フェリウスは肩に置かれた腕を振り解こうとするが、肩から胸に腕が延びようとしていた。

 ガスっ!

 その時に鈍く響く大きな音がフェリウスの耳元でする。

 ねちっこかったクルスの腕が離れていて、彼は蹲り両手で頭を抱えて座り込んでいる。

「何やってんのよ!」

 女の子が右手にピンクのヒールを手にしながらクルスを睨む。

 愛くるしすぎる!

 自分の見せ方を分かっているのだろう女の子の容姿にフェリウスは見とれてしまう。

 テーセとは違うベクトルで可愛らしい。

 身長はフェリウスと同じくらいだが、年齢的には十五、六くらいだろうか。もしかするともっと幼いかもしれない。ブロンドの髪に猫耳カチューシャを付けているし、ハートとマスコットを使った可愛らしい眼鏡を掛けていて、オレンジの瞳が愛くるしい。

 テーマパークを楽しみに来た女の子にも見えて、抱きしめたくなるくらいである。

「痛てえょ。脳みそが出ちまうだろう」

「出しちまいなさい。その煩悩ただ漏れな頭が吹き飛んで無くなった方がいいのよ」

 少女に似合わない悪態が飛び出てくる。知り合いか?

「ひでえな」クルスは涙目だった。「もう来ていたのかよ」

 気にした様子もなく彼女はヒールを履いている。

「あんたがこの時間を指定したんでしょう」

「そうだけどさ。俺は痴漢を撃退したんだぜ」

「その行為自体は称賛に値します。ちゃんと見ていましたからね。よくやったと褒めてあげます」腕組して笑みを浮かべつつ頷いていた。「でも、そのあとがいけません」

 オレンジの瞳が糸のように細くなった。

「本能に従っただけだけれど」

「それがいけないのです。この阿保が」

「もっとましな罵倒にしてくれよ」

「誰がご褒美を上げますか。ボンクラ、スケベのロクデナシ。あんたがハラスメントをしているのに気付きなさい」

「俺はお誘いしていただけだよ。その権利はありますよね」

「だとしても触れ合う必要はありませんよね。どこを触ろうとしていたか、教えてくれるかしら」

「胸元をですね」

「だったら、フェリウスさんに謝りなさい」

「な、なぜ私の名前を?」初対面なはずだ。

 思わず彼女に訊ねてしまう。

「トラッティンの特集番組を見ていました。フェリウスさんでお間違いないですよね?」

「は、はい。間違いないです」

「でしたら、このクズを殴ってもかまいません。私が許可します」

 再び右足のヒールを脱ぐと踵を見せながらフェリウスに迫る。

「そこまでしなくても」

 ヒールの踵を使って殴ったのならあの音からも頭蓋骨が陥没していてもおかしくない。

 病院送りにはしたくなかった。

「ハラスメントを受けたフェリウスさんにはその権利があります。この人間の屑をこの世から消し去るべきです」

「俺に人権無いの?」

「あると思っているのですか! 本能だけで生きているくせに」

「それがいけないの?」

 再びゴスッという音がする。

 血が出ていないのが不思議なくらいだった。

「当然でしょう。生きる資格なんてありません」

「そこまで言わなくてもいいのではありませんか?」

 衆人環視の元での大きな声のやり取りだったので、先の痴漢行為から人垣は増える一方のようにも思えてしまう。

 だからこそこの場を納めようと、フェリウスは動こうとするのだが。

「お客様のお怒りは分かりますが、ここは」

「庇う必要はありません」

「あの……クルスとのご関係は」

「このボンクラは私の婚約者です」

 十代見えた女の子はきっぱりと宣言する。

 その言葉にフェリウスはクルスに首を向けるが、錆びついた音が聞こえてきそうなくらい動きが鈍かった。

 同い年の婚約者がいると聞いていたが……、絶対にエアだと思い込んでいた。

「こ・ん・や・く・しゃ?」

「彼女は俺のフィアンセです」クルスは晴れやかな笑みで頷いた。

 顎が外れたような音が聞こえた気がした。

 そうでなければ驚愕して叫んでいたことだろう。それだけ驚いていたのである。

「……本当にいたんだ……」

「すいません。うちの馬鹿クルスが、ご迷惑をお掛けしています」

 深々と彼女は頭を下げるのだった。

「……エアじゃなかったんだ……」


 メーク・ハドウィンはこんなロリが似合う見姿であったがクルス・パートン・フルクスと同い年である。太陽系レイズの生まれで、出身はクルス・ディ、テーセと同郷の第四惑星ローレライだ。大学卒業後の就職先も地元の大手銀行で、現在は若くして主任にも抜擢されていた。

 クルス曰く「ある一点で、とにかく優秀すぎる」ということだった。

 身長は百六十八センチとそこそこあったが、ジュニアを卒業する頃から成長が止まったのではと思われるほど童顔である。ハイスクールの頃はそれでも良かったが、大学に進学すると飛び級してきたのではと何度も子供扱いされたし、頭を撫でられてしまう。

 それが嫌でたまらないから、いつしかメイクの勉強を独自に始めている。

 メークとクルスの出会いは大学一年の頃からだった。

 学部が違っていたので本来会う機会はなかったはずなのだが、数合わせで工学部の友人に合コンに誘われた席で初遭遇する。

 メークのクルスに対する初対面の印象は、軽薄で節操無し、だった。

 女の子という女の子に節操もなく話し掛け、馴れ馴れしく触れていく。それが分かってしまっただけに、その席では無視して帰る。

 もう二度と会うことは無いと思っていたが、すぐに再会してしまった。

 彼女の珍しい特技を耳にして、クルスは彼の友人たちと興味本位でメークを観に来たのだった。

 メークは何となく得意というだけで、理学部数学科に進学している。目指すものもなかったので何となく選択して勉強していただけだったが、計算能力はたぐいまれなものがあり、コンピューターを使うことなく難しい計算式でさえ自前で演算してしまうのである。それが正確無比だから凄すぎた。

 本人にやる気があったのなら、難しい定理でも解き明かしていたんではないだろうかと噂されていたし、担当教授から期待もされていたが、大学四年間でついにその本領が発揮されることは無かった。大学院へ進むことも勧められたが、さっさと銀行へ就職してしまい才能の無駄遣いと残念がられてしまう。

 メーク本人が活かす気もなかったし、興味が湧かなかったというのが本音だった。

 二人が再会した時の言葉は「「げっ!」」と、息が合っていたという。

 容姿に関わらずクルスは女の子として扱ってくれたし、それいじように話が合ってしまう。これほど気心知れた相手は珍しいのではないかと思うほどだった。

 メークは本当に、なんとなく付き合いだした感じで、卒業までの四年間、クルスの女の子漁りは続いていたし、それで大喧嘩したこともある。しかししばらくすると仲直りしてダラダラと付き合いは続いていった。

 就活先は違っていたので、卒業すればお別れだろうと思っていたら、卒業式の謝恩会でプロポーズされた。

 ちゃんと心がこもっていたので、受けてしまう。

 それを後悔することもあった。日々の連絡ではナンパに失敗したと報告してくるのである。それでもたまに会えば居心地のいいこともあり、ズルズルと付き合いは続いて今に至るのであった。

 腐れ縁であると言ってもいいのかもしれない。


「ハリューリ課長」

 ショーウインドウ担当の部下が声を掛けてくる。

「手ぶらなんて珍しいですね?」

「見られていたのね」

「当然です。課長のセールスを参考にしていますから」

「ちゃんとコンパニオンをして下さいね」

「売れそうだったのに。なんでそのまま帰してしまったのですか?」

「あの少年なら、何でも売れそうだったから、遠慮したのよ」

「そうなのですか?」

「だって、ここにある商品全部買ってくれそうだったんですもの」

「本当ですか?」

「本当よ。企業用ですら、買ってくれそうな勢いなのよ」どれだけ借金しようとも有用であれば身銭を切ってでも配備したくなっているようにも見えたたから、憚られてしまう。

「うそ……ですよね」

 ハリューリ課長が躊躇してしまうなんて異常事態だった。

「研究室に設置するって言ってくれているわ」

「身銭を切ってですか?」

「どれだけ借金を抱えても買いそうなオーラを発していたから、止めたのよ」

「私だったらそのまま行ってそう」

「そうですよね。だから説明だけで止めました」

「良心の呵責があったのですか?」

「あなたは私を何だと思っているのでしょうね?」

「トップセールスマンだと思っています」

「貴女もそう言われるように頑張ってください。彼は両親に贈りたい物がある様なので、また来てくれるそうです。彼の両親が何を必要なのか分からないので、もう一度両親を伴って来てくれるそうです。あなたが担当するかもしれませんがお願いしますね」

 ハリューリは微笑んだ。


 ジュンは両親を案内していたヤマネ副社長と合流して、展示コーナーを再び訪れる。

 日用品コーナーに向かうとハリューリの姿を探し、彼女を見つけると手を振りながら笑顔で声を掛けている。

 ジュンは人との出会いに恵まれていると言ってもいい。良い出会いが縁を生むようなものではないかと考えてしまほどに。

 声を掛けようとしていたコーナーの担当者が追い付かないスピードでハリューリを見つけると声を掛けている。

 ハリューリに両親を任せながらジュンはシンゴと話をしている。

 母は新しいレンジとトースターを買っている。それをシンゴは両親に贈るのであった。


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