千客万来 25-2
2.心から言葉を届けたい
ジュン山根はワクワクしていた。
あまりにも興奮していていたのだろう。前の晩はなかなか寝付けなかったし、今朝も早くに目が覚めた。
開幕日には両親も来る予定だったが、開幕してすぐにイベントの参加することになっていたので、一人、早く会場を目指すことにした。
借りているアパートメントを早朝に出て、ミニエアバイクで産業博覧会会場を目指した。
初日の人出は想像以上だった。
会場ゲートから少し離れたところでミニエアバイクを畳むと、予約していたレンタルスペースへと収納する。
そしてゲートへと向かう。
入場ゲート前は半分以上人で埋まっている。
想定外の人出なのだろうゲート前で警備の人や運営スタッフが不満も出ていたが、大慌てで列を形成し誘導しようとしていた。
普段は見ることが出来ない風景をジュンは観察する。
惑星の土地面積と人口比率から言えば、トラッティンでは混雑などというものは味わうことは出来なかった。田舎暮らしではあっても人に酔うことは無かったのでなおさらだ。
放送関係者も出てきていて、列が出来たところでインタビューを始めていた。
「早く来てよかった」
そうでなければ、時間に遅れていたかもしれない。
端末を取り出すと、画面を確認しながら彼は列の最後尾を求めて並び始めることにするのだった。
彼、ジュン山根は生真面目な性格である。
他から見れば真面目過ぎて引くほど人を信じて疑わない。人の裏側を知らない訳ではないが、他人を害することにならない限りは自分が不利益になろうとも、悪人であっても人の言葉を信頼し聞き入れようとすることであろう。
性善説をどんなに裏切られても信じる人間だった。
いまだに幼馴染に言われた地底の王国や山の神と精霊の存在を信じ続けているほどだ。詐欺にあい騙されないように、悪の道に引きずり込まれないように、家族だけでなく親族や友人は彼を気に掛け守っている。
彼は人たらしではないが、愛されているし人に恵まれていると思っている。
家族からの愛は絶大だったし、人生の岐路に立つときは彼を導いてくれた人がいた。運がいいと言ってもいいだろう。
だからこそ純粋に感謝の念を直接臆面もなく伝えるのがジュン山根である。
開拓民なのに教育を受けられたのは、両親のおかげだったし、大学で通信工学を学べているのはハイスクール時代の恩師の指導があってのことだと彼は考えている。
ジプコTDFパビリオンの内装を手かけているミタグラ社副社長のシンゴ・山根氏の末の弟で、彼から是非見に来るようにと一年程前から連絡を受けている。学びになるからと。
それに実家でTDF所員であるアリエー・ファムカとの出会いは、彼が信じる精霊の存在を証明してくれていた。だからこそ俄然TDFに興味が湧くのであった。
トラッティン産業博覧会開幕当日も人の波に流されることなく、一本の道が見えているようにジュンは歩いていた。
そのため本来の開幕時間であるトラッティン時間、午前九時にはジプコTDFパビリオンに入場ゲート前に到着し館内に入っている。
端末を確認し、第一層の特設通信スペースの受付前に並んでいたのだった。
他の人が見れば何かに導かれていたというかもしれないほど、自然な流れに見えてしまうのだが、彼が無垢ゆえに成せる業であると思ってしまうことだろう。
純真な性格だからこそ、神様に愛されるのだと。
ジプコの商品が並ぶ展示室もジュンは興味があった。
特設コーナーで体験が終わったら覗いてみたいと思っている。絶対に得るものがあるからだ。
それでも彼の勘が体験コーナーでの通話が終わったら、第二層へと向かうべきだと言っていた。兄が手掛けた音響建築物にも興味があったし、シンゴ兄が気付きは絶対あると言ってくれている。楽しみだった。
端末に当選画面を示しながら体験コーナーの待合室に中に入る。
本人確認が取れなかったと、入口で止められた人が大声で文句を言っているが、中年風の穏やかな男性が納得してもらえるようにとつとつと説明していた。
ジュンは残念そうにそれを見ている。
「それでは皆様、私からこの体験コーナーにつきまして説明をさせていただきます」
ピンクの髪をした小柄な眼鏡を掛けた女性が、落ち着いた表情で案内を始めている。
ジュンはまじめにその言葉を耳にして、順守しようと心掛ける。
「もしこの場で違法な端末をお使いの方がいらっしゃるのでしたら、電源を切って下さい」キャスティ・カインズはそう言う。「耳を澄ませてください」
その言葉に従ってジュンは耳を傾ける。
時折、油の跳ねるようなパチパチとした音が微かに聞こえてきた。
「ゲートを通過しようとするスパイシステムの音です」キャスティは肩口まで伸びているピンクの髪を揺らしながら足元に転がっている極小のスパイシステムを摘まんで見せる。「どのようにシステムを守ろうと異常が検知されれば、このように機能不全に端末もなります。純粋にこの体験コーナーを楽しんでいただきたいと思いますので、違法行為は行わないでくださいますようお願いいたします」
動揺した表情を浮かべたものが二人ほどいた。
不思議そうにそれを見ながら、ジュンは端末に転送されてきた同意書にサインしている。
ジュンは体験コーナーの入口で、ピンクの髪の女性に貴重品を預けると体験コーナーに入るのだった。
ジュン山根は個室に入ると用意されたマイク付きのヘッドセットを被る。
ワクワクしている気持ちを前面に出しながら、目を閉じた。想像を掻き立てるように彼は魂を解き放つとTDFの用意した通信空間へと身を預けるのだった。
身体から魂を切り離したような感覚になる。
精霊はこんな感じなのだろうかと思いながら身を預けていた。
「こんにちは僕はジュン・ヤマネです」




