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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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224/226

トラッティン産業博覧会⑧開幕 24-9

 9.トラッティン時間 八時丁度



『TDFパビリオン開場です』フィオーレがパビリオン内に向けてアナウンスする。『さあ我々の時間がここから開幕いたしますよ』

 今までにない優しく母性溢れる声がする。

 フィオーレ故なのか、それが心に浸透していくのがメンバーには分かる。

 その想いと同時にパビリオンゲートのシャッターが開いた。無人のゲートには多くのスパイダーとドローンが控えている。

 それらは警戒もあるが、入場者の案内を端末に届けるためでもある。

「TDFのショータイム開始かよ」

 シンシマは大げさだと苦笑していたが、フィオーレは真剣に言っていたようであることがこれからも分かってくるのだった。

「確かに」テーセは声を上げて笑っている。「ディ姉、本当に女神様みたい」

「元々美人だけれど、髪毛の演出と背景とか狙っているとしか思えないな」しかも隣のトモカネの様子を見てシンシマは呆れている。「トモカネ、お前あまりの神々しさに悶え苦しんでいるぞ」

「気持ち悪いよ」トモカネの腰がクネクネしている。「ディ姉はあげないよ」

「ノルディックが見惚れてくれるといいな」シンシマはテーセの頭を撫でる。「トモカネもライブ演奏までには戻って来いよ~」

「桃源郷に行ったままでいいよ~」

 シンシマとテーセは二人でトモカネを奥のコンソールまで引っ張っていき、来場者から隠すように座らせるのだった。

「これだからお兄ちゃんだって見惚れるはずよ」テーセは自信満々だった。「観るように言ってるし、無視したとしても録画したものをわたしが絶対に見せ付けてやるんだから」


 展示ルームのハリューリら数人がフィオーレの言葉に拍手していた。

「課長は自信に溢れていますね。それに楽しそうです」

 部下の一人は鼻歌を歌いそうなくらいリラックスしている課長が羨ましそうだ。それだけ彼女は緊張していて膝が笑っている。最初にショールームに一人で立った時以上に身体が固まっていて動かないし、思考がまとまらず空回りしているのだった。

「私も緊張していますよ」ハリューリは彼女に微笑む。「でもね。それ以上にこのような状況を楽しめる機会なんて人生で二度とないかもしれない。そうだとしたらこの場を楽しめないなんて、もったいないじゃないですか。そう思いませんか?」

「晴れの舞台のような?」

「そうです。どんなに緊張しようともこれが私だけではなくて、あなたの経験にもなります。失敗も成功もすべてがここから生まれていきます。だからこそすべてをあなたも楽しんでください」

 ゆっくりと彼女の心に染みわたるようにハリューリは声を掛けている。

 自分自身を鼓舞するように。

「は、はい」

 パーンが作曲していた館内曲がパビリオン全体を満たしていく。リラックス効果があるだろうか、ゆったりとした雰囲気を生み出し、さらにその音楽とともに現場の気分が徐々に盛り上がっていくのだった。

 緊張感とともにゆっくりと。


 端末からは会場正門のゲートが開き、人々が次々と入場してく姿を各放送局のカメラがとらえていた。

 全てではない。一部であっても多くの人々がTDFパビリオンを目指してくれているのがメンバーの励みになるし嬉しかった。

 それぞれの理由で。

 先頭集団のほとんどはムービングロードを駆け足か急ぎ足で歩いていく。お目当てがあるのだろう。ダッシュしていくものもいて警備の運営ドローンに警告されている。

 人という障害が多いから密集している中で走れば当人だけでなく周囲にも危険が及ぶためだった。あまりにも危険な行為があれば警備の人が来て取り押さえられるという一幕もあったようである。そういった人々にペナルティが与えられる。

 一時間の警備詰め所で拘束だった。目当てがあるものにはきつい罰則だろう。

 各パビリオンへの一番乗りを目指している人々もいるのか、走ったりしている人もいれば早速エレカーを借りで走路へと出ているものもいた。

 どこにも先頭を目指したい人はいるようである。


 TDFパビリオンゲートの前ではTBCとトラッティンの放送各社のレポーターが来場者の話を聞こうと待ち構えていた。

 TBCはTDFの地元だからであるが、トラッティン放送各社は産業博覧会での特集番組で縁があったため、トラッティン行政府パビリオンと合わせて三班体勢で開幕直後の取材を行っている。

 開場の知らせから数分後、小走りに一番手がゲートを目指してきていた。

「どのような目的でパビリオンへ?」

 差し出されたマイクを無視するように端末パスをかざしながらゲートに飛び込んでいく。

 それを追いかけるようにTBCレポーターとカメラマンが会場内に飛び込んでいった。

「バンドライブを最前列で見るためですよ!」

 第二層へのエスカレーター前で警備の者に走るのを停められた時、彼はインタビューにそれだけ応え神樹ゾーンへと向かうのだった。

 続く若者のグループからもライブという反応が返ってきた。

「誰がお目当てですか?」

「ツイングさんとファムカさんですよ」

 当然のことのようにエスカレーターに乗るとカメラから消えていった。

 三番目も個人だった。

 お目当ては軽食コーナーで、営業開始まで二時間もあったので肩を落としていた。

 それでもその場で予約可能だったので注文を入れている。

 彼は予約の確認票を手に取ると、手渡ししてくれるのがフェリウスであることを軽食コーナーの奥をシャッターの隙間から覗き込みながら祈っていた。

 トラッティンに彼は住んでいて、民放の特集番組を見てフェリウスのファンになっている。彼女がTDFパビリオンのコンパニオンであると知り、サインをもらうべくいの一番に軽食コーナー目指したのである。

 そのまま彼は軽食コーナーに時間まで並び続けるのである。

 開場から十分も経つと、家族連れやカップル、夫婦がパビリオンを訪れ始める。

 放送局のインタビューは続いていた。

「レイズから来ました」

「産業博覧会の特番を見て神樹コーナーが気になっていました」

「ねっ、楽しみだよね」夫婦は手を繋いでいた子供達に話しかけていた。

「宇宙船を操縦したい」男の子が楽しそうに言う。

 すると、女の子は「お姉さんが木をよじ登るところが見たい」

 どちらも瞳がキラキラしている。

 ミネルヴァもアマデウスも観客数を伸ばしていて、それを追うようにTDFは続いているようだった。パビリオンゲートは気が付くと長蛇の列が出来ている。

 オープニングイベントを楽しみしていた人々は中央広場に集まり始め、合間に飲食店お土産物屋を覗きこんで行く。

 それ以外の観客も塔へのエレベーターに列をなしていた。展望室から会場を一望するつもりなのだろう。カップルやファミリーは楽しそうな顔をしている。

 開始から一時間の間に二万人の入場者があったと運営は各パビリオンに報告している。


 開幕初日に行われるステージパフォーマンスにTDFメンバーの出演は無かった。そのためにメンバーのライブ演奏がこの日三回にわたって神樹コーナーのステージに行われることを知るや彼らのことを認知したファンが良い場所確保しようとペンライトを両手に握りしめ待ち構えている。

 彼らはアマチュアバンドなはずだったので、それは異様な光景でもあった。

 フィオーレはステージをオープンにして準備させている。ライブ演奏時間に変更はない。

「人気が凄いですね」

 神樹コーナーの現在のライブ映像を覗き込みながらタンバは唸る。

「本当ですね」女神衣装のままディも頷いていた。

 屋上でのパフォーマンスを終え二人は管制室に戻ろうとしている。

「フィオーレがこれまで行ってきた宣伝の成果なのだろうけれど信じられないね」

「そうですね。バンドを組むというだけでも異例でしたから。それにこれほどのお客様が来て下さるなんて」

「思いもしないよね」言葉を受け取りながらタンバは話しをしている。

「期待に応えられるように、頑張りましょうね」

 ディは軽く拳を握りしめて、気を入れているようだった。

 表情には出ていなかったが、緊張しているのかもしれない。タンバも心臓がバクバク鳴っているのが分かるほどである。

 それぞれの体験コーナーにも多くの人々が訪れていた。特に神樹コーナーは異様な雰囲気に包まれているようにも見える。

 二十分余りのフォーマンスを終えて、タンバはフィオーレ達がいる場所へ戻ってきていた。

 TDFパビリオンの映像はインパクトを与えていたのだろう。多くの取材申し込みが来ている。

 ディのお色直しを見送ると、それらの対応を任されていたタンバは現在、共同会見場など設けられないので、その一つ一つに丁寧に答えていくことになる。

 もちろん行政府からの問い合わせもあった。それには代表であるフィオーレが応えていた。

 存在感を示せたことは広報担当として満足だった。


「「「いらっしゃいませ」」」

 最初の展示室来場者にハリューリが中央に右にレイスィア、左にマリカが姿勢を正し観客を迎えている。

 両サイドの二人の笑顔も口調もかなり柔和になり、ハリューリによって仕上げられていると感じられるほどだった。

「ようこそTDFパビリオン展示室へようこそ」両手を軽く広げながら四人のファミリーに近づいて行き、案内を始めるのだった。

 子供達の希望は宇宙船体験コーナーだった。館内に入ることで予約を済ませている。その時間潰しのために展示室を訪れただけのようだったが、ハリューリもそれを感じていたのだろう。子供が喜びそうなコーナーへと最初は案内していくのだった。

 兄妹に声を掛け、運営から支給してもらったグッズを渡しながら、両親の関心も引き出していく。大型通信を子供達に触らせながら満足してもらうと、日常品コーナーへとファミリー連れて行くことに成功している。


 マリカが相手したのは背広姿の四十代に見えるバイヤーだった。

 一目で商品を見に来ていると感じられた。

 緊張を感じながら表情を崩さないように微笑み、彼が希望する通信機器コーナーへと案内していく。

「可愛らしい方ですね」

 マリカは小柄な方だったので、そう見えてしまうのかもしれない。

「ありがとうございます」冷静な口調を崩さぬように、見下した感じにならないよう心掛けている。

 はにかむ様な笑みにバイヤーはマリカのガイドに少し不安になっていたのが見て取れる。

「ではこちらがご希望の映像システムになります」

 事務所などで使われる投影機と本体を前にする。

「スペックを教えてくださいますか?」

 様子見をするように突っ込んでくる。

 手にしている端末にもデータは届いていたが、どれほど詳しく説明してくれるのかを見ているようだ。

 マリカはハリューリに指導を受けていた通り、スペックを頭の中に入れている。

 ただし説明するのであれば数値の羅列だけではだめになると教え込まされた。たとえ話やユーモアを交えながら伝わる様に話さなければならない。

 あとは固い口調を修正して商品をアピール出来るか、だ。

 マリカは心の中で拳を握り締めながら解説していき、商品アピールを進めていくのである。展示室入口右横に控えているトラッティン支社の営業担当者へ話を回せるかが鍵になっている。こうなれば一番を取り、自慢したかった。

 わざわざミネルヴァやアマデウスパビリオンよりも先にジプコTDFパビリオンへ来てくれたのだから、営業に繋げたい。

 ハリューリやフェリウスの期待に応えたいとマリカは思っていた。


 レイスィアは苦手なファミリー客にあたっている。

 言葉が堅苦しくて何度も子供だけでなく大人も威圧し怖がらせると苦言を呈されている。

 来場者三組目まではハリューリ、レイスィア、マリカが相手して、その後は来場者の要望者に従ってドローンがそれぞれの担当の元に案内する手順になっていた。

 表情は硬くならず、口調はきつくならないようにしなければならない。動揺していたが、冷静さはまだ失っていないはずだ。

 十歳前後の女の子が両親よりも長身なレイスィアに憧れのような目を向けている。

 恰好がいいと思われているのかもしれない。それが分かるだけに怖がらせるような口調はご法度だった。

 何を見て見たいのか分からぬまま、娘がいるのであるならと日常品コーナーに案内している。

 視線や口調から求めているものを感じて欲しいとハリューリは言っていたが、それが分からないだけにレイスィアは手探り状態が続く。

「ジプコ製は壊れやすいですよね?」

 レイスィアの機先を制する言葉だった。

「今そのようなことは無くなっています」手近にあった電子ポットを掴みレイスィアはその危惧を払拭するように話を始めている。「これなど五千回の試行を繰り返していまして、耐久試験にもクリアしています」

 腰の保冷ポットからポケットの紙コップを取り出して冷水であることを母親に確認してもらう。残りを湯沸かしポッドに注ぎスイッチを入れる。

 熱量を感じさせない時間で瞬時に熱湯を作り出してみせる。

「このように沸かす時間も当社比で三割短縮しています。さらに消費電力も同程度抑えることに成功いたしました」

「確かに早いですね」母親も頷いていた。

「それにデザインも刷新して可愛らしいものに仕上げています」

 娘さんに笑顔で商品を向けている。

「それ好き」

 喜んでもらえたようで、レイスィアは少し嬉しかった。

 それだけに気を抜かぬように話を進めていく。


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