トラッティン産業博覧会⑧開幕 24-7
7.開幕直前~トラッティン時間 七時三十分過ぎ
『私たちは今、トラッティン産業博覧会の会場ゲート前に来ています』
ティーマの惑星時間では深夜にもかかわらずTBCのレポーターはゲートの会場側からアナウンスしている。
本来ならTDFのメンバーの中からレポーターを出して欲しかったが、開幕初日であったため、パビリオンの運営に専念させるからと断られているので、TBC専属アナウンサーが当日の様子をニュースの時間帯に合わせてレポートしている。
ゲート前では集まった観衆へのインタビューも行われ収録されていて、後ほど編集されてニュースや特番で放送される予定である。
各太陽系のマスコミや銀河系四大ネットワークもスタッフを派遣し、現在の模様を生中継とかで伝えている。
ゲート前のスペースは入場者で埋め尽くされていて、これからも増えそうな勢いだった。会場入場ゲート前にはホームにまで人が溢れかえり、立錐の余地が無くなってきている。この状況を踏まえ、博覧会運営は開場を一時間早めに繰り上げて会場内に来場者を受け入れられるように動きだしていた。
中央広場ステージでおこなわれるオープニングセレモニーも前倒しされるという通達が出ている。ただこれは前座的なもので本祭ステージは九時三十分から始まることに変わりはなかった。
運営からのアナウンスもあり、入場ゲート前では拍手が起きる。
各パビリオンには入場可能な状況であれば受け入れて欲しいと通達が来ている。
実際にトラッティン行政府が管理しているパビリオンと施設は開場し来訪者を受け入れることになっていた。
会場前に詰め掛けていた観衆が会場運営の情報とリンクさせていると、各パビリオンの開場時間が次々と変更されていくのが分かる。
それを見ながら詰めかけた人々はルートの選定をしていくのだった。
中央広場も塔も運営できる状況に持っていていたし、対応できる飲食店や土産物店はシャッターを上げて迎え入れられるように準備していた。
『この賑わいを見て下さい。盛り上がっていますよね』
レポーターは推進課のクロカワを迎えインタビューしている。
各太陽系から来ている放送局のレポーターやネット関係者がマイクをクロカワに向けていた。
『現在の状況は想定外でした。すでに概算で三万人の人々がゲートを目指して集結していますので、キャパシティオーバーになる前に開場するべく準備を整えています』
『パビリオンの見学もできるのでしょうか?』
『中央広場やトラッティンパビリオンなどの施設は開放出来ます。それ以外でも各太陽系と企業のパビリオンも現時点では半数のパビリオンから開場可能との連絡は受けていますので、お目当てのパビリオンもお待たせすることなく見学が可能になると私たちは見ています』
『大変なことでありますが、それだけ運営と各パビリオンの信頼関係があってのことですね』
『各太陽系行政府と企業の皆様の尽力に感謝いたします』
初日に間に合わなかったパビリオンもいくつかあったが、事前調査で人気上位のパビリオンはすべて前倒しの会場に対応してくれると連絡があった。
自信を持ってインタビューにクロカワも応えているのだった。
「ディを呼んでちょうだい」
フィオーレはタンバに言う。
各太陽系や地元放送ネットワークのニュースやライブ映像を確認しながら状況設定していく。
「パーン。いいかしら?」
パーンはOKのサインを送ってくる。
この辺りは二人の阿吽の呼吸とも言えただろう。
全てがオールグリーンだったが、シュルドはプログラムにバグは無いか最終チェックを繰り返している。映像的にはぶっつけ本番になるシーンもあるからだ。
ラインの向こう側、ティーマのもう一人のSランクプログラマーもチェックを入れている。このダブルチェックがあればエラーはほぼ防げるだろう。オリエナが管理するラインはスムーズにTDF本棟『電算室』を繋いでくれている。こちらも問題は起きていない。
仮想空間での最大倍率での映像にも乱れは出ていないのだから、本番もうまくいくはずだった。
「準備は出来たとディは言っているよ」
「さすがですね。タンバさんはそのままディのエスコートをお願いいたします」フィオーレは頷いている。「シュルドさんはどうですか?」
「ティーマ側とでバグは潰したつもりだ」
「それではディの準備が整い次第、観客に向けてのアピールを始めましょうか」
「早いけどいいの?」パーンは確認している。
「問題ありません。パビリオンにディが誘ってくれるような演出をして差し上げましょう」
想定倍率よりも更に大きく見せるように設定を変えている。
ゲートを超えて入場してくる観客にアピールしようとしていたが、ゲートからはミネルヴァやアマデウスからジプコTDFパビリオンは遠かったため、上位二強と言われた大企業に負けないように演出するつもりでオープニングアピールを考えてきた。
その結果が『天使』デュエルナ・ネルミス・ツイングを前面に出すことになっている。『ラッキースター』であれば人々を導いてくれるとノルディックが言っていたこともある。
「お待たせしました」
第三層管理室にディは入ってきた。
ギリシャ神話の神々を思わせるような白い衣装とともに現れる。セピアブロンドの髪はバイオチェンジ技術で腰よりも長い髪に戻している。サラサラと流れる髪は黄金を水面に漂わせているようで神々しさを増していた。
純朴ではあるが、ディの姿は誰よりも美しく輝いて見せている。
フィオーレは隅々まで見落とさぬようにディを見つめる。
「うん。ディらしいですね」上から目線であったが、フィオーレは満足そうだった。
「ありがとうございます」
「パビリオンの頂上にこれから出るようになります。現在上空の風速は一メートル未満ですが、命綱は付けてもらいます。気を付けて下さい」
「分かりました。でもタンバさんもいらっしゃいますし、問題ありません」
「頼むわね。ノルディックでなくて申し訳ないけれど」
「ノルディックにも励まされました。自信を持ってプラットホームに立ちますね」
「これは私たちが打ち上げる最初の花火です。盛大に開幕を飾りましょう」
タンバが付き添いながら頂上部プラットホームへのエレベーターに案内し、一緒に外殻頂点に出た。
パビリオン自体、高さがあるため対岸にあるモノレールの走る外壁の線路まで見渡せる。
風が微風であるのは助かるとタンバは思った。恐怖感を感じることは少ないだろうし、程よく髪がなびくからだ。陰ながら危険が無いように支えるつもりだが、ディも問題なくフィオーレの演出に応えられそうだった。
「大丈夫かい?」タンバは念を押すように訊ねている。
セットしているイヤホンには次々と指示が来ていた。ディも足位置を確認している。
「ええ、いつでも行けます」
耳の翡翠のようなイヤリングからフィオーレにもディの声が伝わっているようだ。
乗っていたエレベーターがディを隠すようにいったん下がる。
時間を確認しながら、フィオーレはパーンとともにカウントダウンを始める。
準備は各部署に確認しているが、軽食コーナー以外は受入れ体制が整っている。前日に準備がほぼ出来ていたのが功を奏していた。




