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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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220/225

トラッティン産業博覧会⑧開幕 24-5

 5.トラッティン時間 六時三十分



 パビリオン第二層大樹のコーナーにスタッフ全員が集まり整列している。

 フィオーレ・カテイエスはライブ用ステージの一番前に立つ。そのすぐ後ろには部長パーン・ロス・ヘルメナスと部長代理のバーリー・リライアント・オガワがいる。

「全員揃っていますね」

 フィオーレは満足そうに極上の笑みを浮かべ頷く。

 ただ彼女が纏っている雰囲気は、そんな生易しい感じではなかった。

 短鞭か鞭を手にして制帽を被っていたら、着ているのが華やかなパビリオンのコンパニオン服であってもサティスティックな軍司令官にでも見えたかもしれないほどだった。

 そのためもあってか三列に並ぶTDFメンバーや助っ人たち三十三名は姿勢を正し、フィオーレを注視している。

 緊張感がありすぎる。

 そのプレッシャーにオリエナは背筋が凍る。さっきまで腑抜けた顔だったエレナでさえ手先までピンと指先を伸ばしていた。

 朝のミーティングとは思えなかった。

「ついにこの日を迎えることになりました」

 マイクは手にしていなかった良く通る声だった。

 フィオーレの後ろでパーンは笑みを浮かべ何度か頷いている。

 白々しく見えるのはなぜだろうかとオリエナは思ってしまう。相変わらず胡散臭い。

「今日は始まりの日ではありますが、これが到達点ではありません。私達の進歩に終わりはなくここからさらにスタートすることになるでしょう」

 フィオーレは言葉を切り、全員を見つめる。

「我々の力を存分に世界に知らしめましょう」彼女は長々と話すつもりは無いのだろう。「皆、よく頑張ってくれました。全員で勝ち得た力と無駄にしないように」

 その言葉に全員が頷いていた。

 程度の差こそあれ銀河標準時間で一年と三ヶ月余りの間、全力で関わってきた企画である。様々な事件にも巻き込まれながらここまでたどり着いている。

 想うものはあるだろう。

「パーン、何か言うことがあるかしら?」

 フィオーレは部長に声を掛ける。

「え~と、ここまで夢物語だったものを具現化できました。全員の力です。ありがとうございます」パーンは一礼する。「長丁場になり、大変なこともあるでしょうでしょうが、全員で楽しんでいきましょう」

「オガワさんは?」

「特にないかな。パーンとフィオーレが言ってくれている」簡潔にだ。「良い酒を飲めるようにしましょう」

 それだけ言うと後ろに下がった。

「掛け声はいりますか?」フィオーレは言う。

「それは今晩にしよう」

 オガワが照れたよう言うに言うと、笑いが漏れる。

「それでは本日の持ち場で最終チェックをして下さい。会場が早まる可能性もありますので、リーダーは想定時刻の一時間前には報告をよこすように」

 フィオーレの言葉と共に軽く二度手を叩くと全員が動き出すのだった。


 ハリューリ・ヴィクトラムは第一層商品展示室の担当リーダーを閉幕まで務めることになる。フィオーレとホーカルが止めなければ毎日、出勤していたかもしれないほどやる気に満ちている。

 休みの日でさえ、観客に交じって展示室を見て回っていたほどである。担当者から言えば視察みたいなもので彼女の反応に怯えものもいたくらいである。

 初日の担当はショールームの部下五人とジプコ・トラッティン支店の営業十人の助っ人たちと、秘書課からの援軍レイスィアとマリカ、メンバーからはミリーことミュウリエイ・パティスとレイスト・ハイブルスの二十名体制で回すことになる。

 初日は広いスペースを五つのブロックに分けて担当していた。

 裏方志望だったレイストは人付き合いが苦手だったのでこの配置は異を唱えたかったが、直接フィオーレに言う勇気は無かった。簡単に一蹴されてしまうので、シンシマにそれとなく話してみたが、彼女でも見つけるつもりで行って来いと背中を押されてしまっていた。多かれ少なかれ、全員が展示室シフトには組み込まれている。あのシュルドさんでさえ抗えないのである。覚悟するしかなかった。

 シュルドだけでなくエレナもハリューリの研修を受けて接客の何たるかを教わり、お客様対応を仕込まれていたのである。

 開幕直前のミーティングで、まずハリューリは全員の服装のチェックをしていく。

 スカーフの位置やネクタイなど少しでも気に入らなければほんのわずかのズレであっても直していたし、ズボンやスカートに皺が無いかまでチェックすると言う拘りかたであった。

 彼女が満足するまで一時間ほど時間がかかってしまう。

 特にミリー自身の化粧は気に入らなかったのだろう入念に彼女はメイクを施していく。

「どうかしら、マリカさん?」

 少し離れたところでハリューリとミリーを見ているマリカ・ミズキに声を掛けた。

「第一層のライティングを考えれば、掘りが深くくっきり見えるメイクであることは重要だと思います」

 彼女は微笑んでいるようだが口調にあまり抑揚は無かった。

 ミリーはマリカとは会話が出来ていても、その雰囲気からマリカが苦手だった。こちらが親しくなろうと声を掛けようと大きな壁がそこにはあったからだ。どんなに親し気に声を掛けようと本能的に相いれないものがあるようだった。

 フィオーレやフェリウスからは感じられない。侮蔑の意味が込められているのが大人のミリーには分かってしまう。

「さあ今日も気合を入れまして、営業していきましょう。お客様の満足する笑顔が見ることが出来ますように努めていきましょう。それが我々の仕事であります」スマイルを絶やさずに彼女は全員を見回す。「今日だけではありませんが、実績は本社支社に報告されますので頑張ってください」

 笑顔の圧が凄かった。

 すべて見ています。そう言わんばかりの話しぶりである。

 だからこそマリカもレイスィアもプライドなどを全て投げ捨ててハリューリにしたがっているのだろう。

「では展示室に移動します」

 ガイドでもするかのように全員を従えてエスカレーターに向かい一層へと向かうのであった。

 カメラ越しではあったが、フィオーレはそれを満足げに見送っている。


 オリエナはライン制御室に入るとエレナの肩を叩く。

 フィオーレのプレッシャーから解放されると今日の相棒エレナ・ホナミ・ヤジマの背中は丸まっていた。

 オリエナ自身、ハリューリの研修は受けていたし、展示室の担当日も営業をしていたということで多く割り振られていた。「営業を割り振られなかっただけ良しとしようや。相棒」彼女もコンパニオン服を着るのは苦手意識があるが、フィオーレからは逃げられなかった。

 ラインオペレーター室のリーダーであっても開催期間中はすべての部門で対応を迫られている。気が重かったが、ラスボスの決定には抗えない。

 フィオーレはメインの受け持ちは決めているが、少数精鋭であったので全員がすべての部門に対応できるようにすることを求めてきた。

 例外は許していない。

 あのタンバさんでさえだ。

 だからこそ展示室で固定されたショールーム担当やジプコ・トラッティン支社営業の面々以外はTDFの極秘事項である第二層の技術を敵から守るために動かざるを得なかった。

「ドンマイ」

「慰めなんていらない」

 肩に置かれた手を払いのけながらエレナは言う。

「自業自得だからな。慰めるつもりはないよ。コンパニオン服、着なくて良かったじゃないか」

 初日のライブメンバーから外されたのは彼女にとって相当ショックのようだ。エレナの代わりにパーンがダブルキーボードの一人として演奏に加わるらしい。

 TDFバントのライブ演奏は不定期だった。

 固定されているディ、アリエー、トモカネ、タンバ、シンシマの五人以外はフィオーレの判断でライブに加わっているし、その五人の誰かが休みの日の演奏は無かった。

 それに中央広場で行われるステージへの出演もある。エレナはそれにようやく加えてもらえることになり、ベース演奏に光が差した頃のことだった。

 初日ということもあり、この日は午前、昼間、夕方に演奏することがフィオーレから通達されているし、パビリオンのイベントとしてネットでも告知されていた。エレナは仕事を終えた直後の昼と夕方に演奏に加われることになっていた。

 それが自分の不始末から叶わなくなっている。

 何をしでかしたか理解できているから悔しかった。

「オリエナが、フィオーレにばらさなければ……」

「あたしのせいにしないでくれるかな。エレナがここを担当する時間に一時間以上遅れて来るのが悪いんだよ。仕方がないだろう。あたし一人で誰も補助してくれるものがいなかったんだからさ」

「何であたしが遅れた時に限って、そんな事態になるんだよ」悔しさをにじませている。「だからってフィオーレに助けを求めるな」

 余程悔しいのだろう。大きな声を張り上げていた。

 後悔役立たず、だった。

 社会人なら時間にルーズではいけないし、約束していた時間は厳守しなければならない。夜のシフトなら人員は少なく迷惑かける場合もあるからなおさらだ。

 悔しがっているが遅れたことは事実だったし、オリエナが抱えてしまっていた事態はフィオーレから骨に染みわたるほどねちっこく説明され、執拗に怒られた。

 また始末書である。

 それも昼間でオガワさんに提出しなければならない。

「パビリオンにはフィオーレしかいないと思ったから仕方がない。間が悪かったとしか言い様がない」

 含み笑いしているオリエナに腹が立った。

「ようやく上手くいくようになったのに……」

「調子に乗っているからだ。楽しくて嬉しくなりすぎて、周囲の迷惑も考えず何度も追加で演奏を繰り返そうとしていたんだろう。時間には絶対に間に合うとか言いながらさ」

「ソノトオリデゴザイマス」図星だったようだ。

「少しはマシになって来たかと感心していたのに、我を忘れ過ぎ。気を付けないと演奏全てに出られなくなるぞ」

「そ、それは困る」

「だったら今日は大人しくして、明日以降ライブに加えてもらえるようにお得意の土下座でもするんだな」

「得意じゃねぇよ」

「じゃあ必殺技か。効果は薄いけれどな」

「余計なお世話だ」

「余計なことも言わないし、お世話もしない。今日はここで大人しく仕事をして信頼回復に勤めなさい」

「お前はお母さんかよ」

「そんなつもりはないが、ペリシアからは朝食をもらってきている。珈琲もオニオンスープもあるから、ペリシアさんの料理を満喫して、仕事をしようぜ」

 少しは背筋も真っ直ぐになってきたようだ。

 良い傾向だとオリエナは思うのだった。



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