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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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219/226

トラッティン産業博覧会⑧開幕 24-4

 4.トラッティン時間 三時四十八分



 フェリウス・アーク・アウゼンは目覚ましが鳴る前に起きだしている。

 それが日常であるかのように、体内時計が反応するのである。

 昨夜の出来事を今さっき知って、彼女はフィオーレに確認のための連絡を入れている。

 あくまでも確認だ。

「おはようございます」

『よく寝れたかしら?』

 すぐに答えは返ってきた。察することが出来る範囲で彼女は訊ねている。

『大きなトラブルはありません』必要な答えはすぐに返ってくる。『予定通り全員出勤でパピオンの運営にあたります』

「分かりました。こちらも準備を進めてパビリオンに向かうようにします」

『期待しています』

 何か寝ている間にあったことは理解した。フェリウスは知っていそうなロイスやシンシマに訊ねようと心の中でメモを取った。

 洗面所で顔を洗いながら、フェリウスは髪を整えていく。

 リフレッシャーの調子がいいのだろうか、いつも以上にフワフワの髪がまとまっているように思えてくるのだった。


 ロイスはそのまま起きていた。

 襲撃があるとは再びある可能性があったからだ。

 睡眠時間は三時間ほどだろうか。キャスティを起こさないように気を配りながら珈琲を飲んでいる。

 フィオーレが手を回してくれていたおかげで、銀河保安局トラッティン支局とのやり取りは最低限で済んでいる。のちの聴取は多少あるだろうが、監視システムのデータは提出していた。それでかなりTDF側の状況は理解してくれるだろうと考えている。

 ノルディックもアリエーも犯人を捕らえていたが、こちらも過剰防衛であるとみなされる場合もあり、後日事情聴取の可能性もあったが……。それほど完膚なきまで瀕死におちいるまで侵入者を叩きのめしていたのである。外骨格を身につけた者達を病院送りだったからなおさらだろう。

 開幕直前であるのでこのまま推移して欲しいとロイスは願っている。直前で動揺を誘うのは最初から狙っていたのだろうか? 考えることは多々あったが、どのような事態になろうと対処出来るように警備システムも確認していく。

 それがハウス管理を任されたロイスの矜持でもあった。

 オガワに余計な負担を掛けないように彼は動いている。


 フェリウスが髪を整え化粧をしていると扉をノックする音が聞こえる。

「どうぞ」

 フェリウスがそう言うと扉は開く。

 パジャマ姿のマリカが入ってくる。

「早いのね。ちゃんと寝れたかしら?」

「ええ。普段から早寝早起きですからね」

「どうかしたの?」

「なにか起きたのかと思って」不安そうにマリカは言っている。「なんか一部だけれどピリピリした空気を感じたから」

 マリカは周囲の気配を敏感に感じている。

 そして怯えているようにも見える。

「ストーカーかしら?」

 ハウスの周辺を不審者がうろついていると言うという情報は耳に入ってくる。

「そうかもしれません。でも心配はいりませんよ」

「TDFの皆様は人気があるという証拠ですね」

「有名税の類かも知れませんが、嫌ですね」フェリウスは鷹揚にため息をつく。

「それでしたら止めてしまえばいいのに」

「宣伝効果は確実にあるのですから、手助けになるのでしたら私は出演しますよ。なんならマリカも一緒に出演してみる? 貴女もすぐに人気が出るはずよ」

「私にはクリスさんのような個性はありませんよ」さらりとデスっている。

「純朴さも強みですからね。それで観衆が親しみやすくなるのであれば、私はあのままのクリスでいて欲しいわ」

「昨日撮影だけでなくさらに出演依頼が来ていますものね」

「ハスガヤさんも含め三人でというところが、私には嬉しいですよ」

「私はフェリウス一人でも十分だと思えるけれど?」

「一人でも出来ますが、私にはない視点が新鮮です。マリカもやってみると分かりますよ。私達が狭い世界しか見ていなかったことに」

「そうでしょうか? 私の住む世界が狭いものだとは感じていませんが?」

「今見ている世界以外にも私たちが窺い知れなかった常識があるのです。視野は狭めない方がいいですよ」

「そうしているつもりですよ?」

「なら今見ているものにも裏側もあると言うことを理解して下さいね」

 フェリウスはマリカの心に訴えかけたつもりである。

 言葉が届いてくれるのかまでは分からなかったが……。彼女はいまだに上流階級という概念や家柄というものに縛られ過ぎていると感じてしまう。

「裏と言えば、今回の件はロイスとノルディック、アリエーが対処してくれたそうよ。安心していいわ」

 ロイスからの情報が回ってきたから、マリカにも伝えておく。

 このままいくと不毛な会話に陥ってしまう可能性があったからだ。

「三人で?」

「実質、ノルディックとアリエーがやってくれたみたいね。相変わらず凄いわ。テーセがノルディックを人類最強というのも分かる気がする」

「それは見たかったかも?」

 小首を傾げながらマリカは言う。

 フェリウスは化粧鏡の前にマリカを座らせると髪を梳いていく。

「どちらも瞬殺だったようですから、見ても分からないかもしれませんよ。私達は素人ですから」

「スロー再生が出来るのでしたら問題ないのでは? 解説してくれる人がいれば多少は理解できるかもしれませんよ」

「相手を病院送りにしていても? お勧めは出来ませんよ」

「そこまで問答無用だったのですか?」

「そうらしいわ」

「それでは見ない方がいいかもしれませんね」マリカは苦笑していた。「本当にTDFは凄いところのようですね」

「当然です」フェリウスは鏡に映るマリカに微笑む。

 素敵な笑顔だと思い嫉妬してしまうマリカだった。


「クリス、起きていますか?」

 マリカを伴いクリスの部屋をノックするフェリウスだった。

 防音対策が出来ているため部屋の中の様子は分からないが、まだベッドの中だったのだろう。ゆっくりと這い出してきているのが見えなくても分かる。二分後、寝ぼけた顔と寝癖のついた髪のままクリスは扉を開けている。

「おはようございます」

「いつもと変わりありませんね」それを見てフェリウスは苦笑している。「さあ、クリスのメイクを始めますよ」

「そこまでしなくても」ムニャムニャしながらクリスは背中を押され化粧鏡の前に座らされている。

「今日は結婚を約束した方もいらっしゃるのでしょう? だからちゃんとおめかししないといけませんね」

「はずかしいだ」

 寝ぼけているのか、本心か判断付かないところが、今のクリスの言葉からは感じられた。

「ちゃんとお化粧すれば、クリスは美人なんですから、もっと自信を持っていいわよ」

 スタイリストさんにお化粧の仕方を伝術してもらっている。

 これでいつもよりクリスを輝かせることが出来るはずだ。

「持っていいんだか?」

 クリスの顔はほてっていた。

「クリスは私の自慢の友人なのですよ。もっと誇って下さい」

「かたじけねぇだな」

「何を今更ですか」フェリウスは微笑みながらナチュラルなメイクをしていくのだった。

 クリスを引き立てるように。

「ちゃんと私たちに彼氏を紹介して下さいね」

「もちろんです」

 クリスは鏡に映るフェリウスに微笑みながら頷く。

 無防備に髪をフェリウスに預けているクリスをマリカはうらやましく思ってしまう。

 プライドとこれまで被り続けている仮面が甘えることを許さない。

 どれだけ蔑むような視線を向けようと、クリスはその大らかさから気にしていないように見えるから、嫉妬は増すばかりだった。


 ペリシア・マリー・アルベイラーは息子カムランを夫に任せると他の誰よりも早起きして、ハウスのキッチンで朝の準備を始めていた。

「手伝います」

 フェリウスに続いて、クリスとマリカがキッチンに入ってきた。

 パビリオンでも軽食コーナーを担当するメンバーが揃っていた。

「フェリウス。ありがとう。いつも悪いわね」

「ペリシアの役に立てるのでしたら、どんとこいです」フェリウスの目はキラキラしているようだった。拳を握りしめて力説しているし。

「今日も凄い量ですね」

 マリカは食材を見て今日も驚いていた。

「今日という日の打ち上げもあります。その下準備もしていきますよ」

 サルシッチャなど前の日から準備しているものもあった。

 メンバーのお腹を満たすのである。新鮮な食材であっても同じ料理は許されない。

 ペリシアは毎日、メンバーのために献立を考え続けている。

 ビュッフェ形式にもかかわらず、卵料理やソーセージといったような定番メニューだけでなく栄養を考えながら料理を出していた。

 それはTDFのキッチンの頃から変わっていない。

 そのレパートリーは驚愕に値すると思う。

 テラで地域ごとの料理をベースにしながら、太陽系国家ごとの郷土料理を参考にしながら日々の料理に反映させていくのである。そのバリエーションは無限大のようにも思えてくる。

 ペリシアの料理道は奥が深かった。


 リビングにメンバーが集まってきている。

 一人二人と思い思いに料理を取りながら席について行く。

 眠い目をこすらせているものもいれば、すでに準備万端なメンバーもいる。フェリウスにも見慣れた光景でもあったが、そこにも個性があった。

 ミリーのように大雑把に大盛りでトレーに取ってくるものもいれば、ディやシンシマのように綺麗にネットにも載せられるようなほどに丁寧に盛り付けしていき食べているものもいる。

 それぞれが取る料理も明らかに違っている。

 フェリウスがキチンから毎日みていても飽きないくらいメンバーの性格が出ていた。

「このソーセージ、美味しいよ」

 ソーセージにフォークを刺し、それを頬張りながらテーセは言う。

「今日はシャウエッセンですね」

「そうなのか? 色は違ったりしているが同じかと思っていた」

「色々と種類がありますよ。先日ドイツ料理を食べに行きましたでしょう」

「そういやそうだったな」

 隣のディは落ち着きのない妹を気にしながらモーニングを食べている。口の周りをソースでベタベタにすることがあるからだった。向かいに座るノルディックはレタスとトマトをメインに人参や玉葱のスライスも乗せてサラダを山盛りにしてまずは食べる。

 それが終わると米をメインに丼に川魚の刺身を乗せてタレを掛けて戻ってきた。さらにトラッティン牛を中心とした肉丼も作っていて、人の倍以上食べている。

 マリカは朝から胸やけを起こしそうな感じでノルディックの丼を見ているが、ディはその食欲を見て微笑んでいた。

 彼女は焼きたてのパンを中心にスープとともに食べている。因みにテーセは野菜が少なく好きなものばかりトレーに乗せていたので、姉に注意されながらヨーグルトや果物を食べているのだった。

 食が細いのかレイストは珈琲と卵サンドだけだった。

 緊張しているのだろうか?

 メンバーがそろっているのをオガワは確認するとフィオーレに報告しているのだった。


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