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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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217/226

トラッティン産業博覧会⑧開幕 24-2

 2.トラッティン時間 一時一分



 ラインオペレーションルームからの警告音が耳元だけでなくサイバー空間にも鳴り響く。

 耳障りな音は精神を逆なでする。

『何があったのかしら?』投げ掛けられた問いには棘があった。

 一秒かからずフィオーレが反応しオリエナに確認してくる。

 このレスポンスの速さがオリエナにとって今は有難い。

 すぐに状況を転送する。

 オリエナ・ヒルデルナはラインのオペレーションルームをフィオーレから任されている。ラインシステム構築や管理すべての責任者である。実質的なリーダーでもあってもプログラム班やハード班のような人員はいない。管理に関しては流石に一人で毎日常駐するのはいくらラインフェチであっても無理があるので、シンシマ、アリエー、ホーカル、レイスト、エレナらと三交代制で監視と管理にあたっている。

 ティーマTDF本棟電算室とトラッティンTDFパビリオン間の監視はTDFが独自に開発したサポートプログラムが常時行っているが、それでもその監視網を抜けてくるスパイシステムやプログラムは存在する。それらを潰すために二重三重に監視しているが、マニュアルでもサイバー空間に自分の意識を飛ばすことで警戒に当たる。

 まあ人が見ることが出来る範囲は物凄く狭いものであるが、それでも空間は無限でもあるがすぐに手が届く範囲にもなる。

 侵入者が見つかる時は見つかる。

 今回もオリエナ自身がシステムをすり抜けようとしていたプログラムを見つけている。

「監視網をすり抜けてきたプログラムを見つけたまで、結構大物だし警報を鳴らした」

 開幕直前で一番気が緩みやすいとでも思ったのだろうか?

 最も警戒が必要な時間帯だろう。自分が侵入を試みるならそうするので警戒にあたった。特に心臓部になるところを狙うだろうと。

『そちらで何とかなりそうかしら?』

「相棒が不在なので、手伝って欲しい」

 率直にオリエナは言う。

 ラインに近づくプログラムを可視化してみると、侵入したのは思った以上に超が付く大物だ。影のように蠢き荘厳なラインに取りつき食いつくそうとしているので、一人では手に余るというのが本音だった。

『エレナはまだ戻らないのかしら?』

「時間を過ぎているのにな」オリエナは声だけの相手に肩を竦める。「最近、バンドの方は調子がいいらしいから調子に乗っているんだろう。ハウスでの練習を延長させているんじゃないのか?」

 彼女に何があったかは知らないが、実際にエレナ・ホナミ・ヤジマは人当たりが良くなっているような感じがする。それもあってかここ数日はバンドでも演奏に加えられるようになってきているとか。

『そのようね』

 シンシマに確認したのだろう。

 日が替わる前まで練習に熱が入っていたようだ。

「そういう訳でフィオーレ様、ちょっくらお手伝いお願いします」

『分かったわ』フィオーレのため息が聞こえてきそうな声だった。『侵入してきたプログラムはこちらで引きつけますから、その隙にアンチプログラムを投入なさい』

 簡単に言ってくれる。

 タイミングなどお構いなしに言ってくるが、フィオーレの言葉通りライン直前まで近づいてきた進入プログラムは、突然現れたダミーのラインに一瞬動きを鈍らせる。

 ミラーシステムを使ったものだが、単純なプログラムには効果てきめんだったようで、進入プログラムは躊躇しているようにも見える。

 まあ、フィオーレのプログラムが精巧すぎたのか監視システムの方も困惑しているのが見て取れる。しかも秒でこんなプログラムを組むのだから、ラスボス様は変態だろう。

 秒で済むから許してな。

 こんなこと言っても仕方ないが、ラインと監視システムに謝ってしまう。

「了解~」

 オリエナは苦笑しながらフィオーレの指示に従う。

 これは例えるなら、猛獣に向かって麻酔銃を撃つようなものだろうか。いや麻酔じゃないな、麻痺性のある猛毒を注入するようなものだ。

 最初から消滅を狙っている。

 こういった類の輩は中途半端に機能不全に陥らせても、自己修復プログラムでの回復が可能な範囲だったら、復活して再度攻撃を仕掛けてくる場合もある。

 そういった事例もネットにはいくらでも落ちている。

 この場合、情けは無用。消滅させ徹底的に駆除することが大切だった。

 テーセの作ったアンチプログラムはえぐいくらい素晴らしい効き目を見せている。流石は爆弾魔だとオリエナは思ってしまう。

 コンマ三秒で霧散している。

 可視化しても侵入者の断末魔すら聞く暇もないくらいである。もしあのプログラムをサイバーダイバーが操作していたものであるのなら、延髄や神経組織に甚大な影響を及ぼしているだろう。まあ魔法や呪術で言うのなら呪った相手から呪い返された、呪詛返しのようなものかもしれない。

 使っただけのエネルギーがそのまま跳ね返ってくるのである。

 人間の神経は脆い。耐えきれるはずがない。

 相手が悪かった。

 ラスボス級のプログラマー、フィオーレと天才堕天使テーセを相手にするのだから、リスクを考えないのだろうか? どんな目にあうかネットで晒しているのにこういった事例が無くならないのは不思議だ。

 報酬に目がくらむのか、それとも名を上げたいのか? 腕試しのつもりか、好奇心か、それとも企業としての威信や意地もあるのだろうかと思えてくる。

 ただの嫌がらせは勘弁してほしい。犯罪者の心理は分かりづらいし面倒だ。

 精神年齢は幼いままとしか言いようがない。重度の馬鹿?

 オリエナがそう言う立場になったとしてもやりたくない。社会的に抹殺されるか、精神的な損傷が伴うのであるからなおさらである。

 ただまあ今のTDFはそれだけ目立つ存在になったのだろう。

 有名税だけでは片づけられたくないほど勢いがある。

 最初はユリウス・ドリスデンの新曲からだったが、メディアにパビリオンが露出するようになって今度はその技術力が評価されだしている。

 ただでこちらが蓄積してきた技術を何の断りもなく手に入れようとするのは如何なものなのだろう?

 そんな盗人猛々しい輩がいるのをTDFは最初から理解していたのだろう。敵の正体を分かりつつ備えている。敵に濡れ手で粟にするほどTDFは軟ではない。

 良い実験場であると、フィオーレは高笑いしていたな……。怖い、怖い。日進月歩な技術革新の中、現場でプログラマーは鍛えられていくのである。

 それにしても普段から、本社内でも嫌がらせされていたため、フィオーレも鬱憤がたまっていたのだろうか?

「処理完了」

 ラインに絡みつこうとしていたどす黒い影のようなプログラムは霧散した。

「ありがとうございました」感謝は忘れない。

 緊急事態から一分掛からずに終わってしまった。呆気ないと言えばそれまでだったが、フィオーレの対応力と指揮能力の高さに呆れてしまう。

『問題ありません。エレナが戻ったら私の元に来るように言いなさい』

「通信でなくて? しかも戻ってから? あたしが?」

『オリエナが直接です』当然だという言葉遣いである。

 エレナを見過ごしていた責任もあるのだろうが、彼女に猛省させる必要があると言うことだろうな……。ご愁傷様。

 オリエナは心の中で、この場にいないエレナに向かって手を合わせている。

 こちらへやって来ているエレナは上機嫌だろうが、地獄へ叩き落されることになる。それが物理なのか、精神的になのか分からない。

 いや両方もあり得る。

 ただ演奏に参加できる回数が増えたと喜んでいたエレナのステージ出演回数は確実に減らされるだろうと予測している。

 まあ社会人としてはシフトを守らないエレナが悪いのである。いくら調子がいいからと言って時間を忘れてしまうのは良くない。それこそ最近マシになってきたと思っていたが、子供っぽさが抜けていない証拠である。

 可哀そうなことをしたとは思うが、平和に一次防衛ラインでの攻防だけだったら、自分で対処して救援要請も出さなかった。フィオーレにチクることも無かっただろう。タイミング悪くラインが直接襲撃されていたのである。エレナと二人だったら対処は可能だっただろうが、一人では難しい状況だったのをエレナは理解してくれるだろうか?

 どうしてフィオーレの元に話が行くことになるか、説明しなくてはならないから面倒だ。絶対にエレナは食って掛かってくる。

 これがオリエナに与えられた罰であるのだろう。深くため息をつくと、作業に戻るのだった。

 あとのことは知ったことではない。フォローするまでアフターサービスは含まれていないはずだ。


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