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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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開幕間近 ~行く人、来る人 23-8

 8.歓迎する人



「それではみなさんグラスは持ちましたか?」

 宴会の席での司会進行役のシンシマがリビングに集った人たちに声を掛けていく。

「それではみなさん。いつもの行きますよ♪」

 テンションの高いシンシマの言葉にオガワは、えぇぇっと言う顔をしていた。

「待ってました」「よっ、千両役者」「もったいぶらずにさっさと乾杯しろ」

 すでに酔っ払いが出ているような声もする。

「さあ皆で、酒を楽しもう!」

「「「「「いぇぇぇぇぃい」」」」」ノリの良い連中が気勢を上げている。

「酒は飲め! 飲んだらぁ?」シンシマがグラスを掲げた。

「「「「「飲まれるな!」」」」」

 全員が笑顔で声を上げ、グラスを掲げる。

 歓声を上げるもの。一気にグラスの麦酒を開けるもの様々だったが、その陽気な集まりはバッカスの酒宴のようにも見えてしまう。

 初めてのレイスィアとマリカは目を丸くしているが、ハリューリは慣れてきたのだろう。軽くグラスを掲げて周囲のものと軽くグラスを合わせている。

 リビングはイスとテーブルが片付けられて、中央と壁側にお酒と料理が各種用意されている。これらは軽食コーナー担当のペリシアとフェリウス、クリスが準備してくれていた。

 マリカとレイスィアの出身星に合わせた料理が多かったのは気を利かせてくれたのだろう。しかもフェリウスが言っていた通り本当に美味しい。

 このような雰囲気は初めてだった。

 マリカはワイングラスを持ち窓際の壁の花になりながらその様子を眺めている。これまで出席していたパーティとかではありえない始まり方であるからだ。

 騒々しすぎるし、礼儀になっていない。

「面白いよね」フェリウスは隣にいてくれた。

 ありがたい。

 レイスィアはグラスを片手にフィオーレとやり取りを始めていた。その表情を見れば形勢は悪いようである。

「初めてです。フェリは?」

「大学の時にこう言った感じの宴席に参加したことがあるから、マリカよりは慣れているかな」

「距離が測り辛いですし、声の掛け方も分かりません」

 全員の距離が近かったし、礼節などは無かった。

「格式ばったものでもないし、慣れれば楽しいよ」突っかかっているレイスィアを残念そうに見ながらフェリウスは苦笑する。「レイスィアさんはもう馴染んでいるようだし」

「完全に相手ペースに乗せられているわ」

「まあ好きにやってくれていいわ。酔いつぶれても運んでくれる人もいるしね」

 アリエーなら片手で部屋まで連れっていてくれるだろう。

 今日の宴席は部長とクリスがトラッティンに荷物を運んでいたこともあり、珍しくTDFのメンバーが全員揃っての宴席になっている。

「それでは喉も潤ったところで、皆さん秘書課から出向してくれましたお二人さんに挨拶していきますよ~。さあアピールタイムだ」シンシマのそれは合コンでもしているような話しかけ方だった。

 拍手の渦が巻き起こり、口笛を吹いているものもいる。

「トップバッターは俺、シンシマ・ケンマウから行かせてもらいます」

「聞き飽きたぞ」「お前さんの自慢話なんていらん」「知っているから挨拶だけにしろ」

 様々なヤジが飛ぶが、日常なのかシンシマもヤジを気にする様子もない。

「それでも言わせてもらいましょう」グラス片手にマイクを握りしめて陽気に応えている。「パビリオンではハード班のリーダーを務めていますシンシマ・ケンマウです。パビリオンのことだけではなくてジプコのことで聞きたいことがありましたらなんでも答えますので是非俺のところに来て下さいね~♪ 商品のことも詳しいからお役立ちです。便利ですよ~」

「彼は本社内でも有名な情報通なの」フェリウスはマリカに耳打ちする。「私たちのスリーサイズだって知っているかもしれないわ」

「えっ、そんなに?」

「部長のパーンなんか、私たちを見ただけで、身長から体重まで当ててしまうのよね。本当に変人の集まりだわ。マリカのコンパニオン服だって、採寸無しでピッタリサイズのものを用意しているわよ」

 そのパーンにシンシマからマイクが回る。

「パーン・ロス・ヘルメナスです。秘書課の皆さんには両親がお世話になっています」笑みを浮かべながらレイスィアとマリカに礼を言う。「部長をやっていますが、TDFの実権はフィオが握っていますので苦情などがありましたら、オガワさんにお申し付けください。あとフェリウスは大好きです。いじめてはいませんのでお許しくださいね」

「うそつけ~」「泣かせた原因が何言ってやがる」「一番お前が悪い」

「そこに直れ!」レイスィアがパーンに向かって声を上げる。

 剣で斬り付けそうな勢いで立ち上がったが、フィオーレに引き戻されソファに座らせられている。

「本当ですよ」パーンの言葉に呆れながらフェリウスが頷く。「捉え処が無い部長ですから、マリカも気を付けてください」

「原因なのは本当なのかしら?」

「私だけではなくTDF全員が振り回されていますよ」

 パーンから次にマイクが渡ったのはオガワだった。

「あ~、部長代理をしていますバーリー・リライアント・オガワです。あまりパーンの苦情は聞きたくありませんが、秘書課のお二人さんにも楽しんで頂けたらと思います。楽しんで飲みましょう」

「先ほどの乾杯の元ネタになった人です」マリカにフェリウスは言う。

「『仏』や『人徳』と呼ばれてイザン社長とは対極にいる方ですよね? 飲むと絡んでくるとか?」

「飲んだら飲まれるなと言いながら、飲まれてグデグデになって酔い潰れる人なのです。まあ仏なのは本当ですよ。何かあったら頼っていい方です」

「はあ……」

 マリカには理解できていないようだった。

 そんな感じで自己紹介が続いていき、全員が挨拶を終えると、秘書課の二人が無難に挨拶していく。

 それが終わるとマリカを連れてフェリウスがお世話になっている人たちを紹介していく。

 最初はアルベイラー夫妻だった。

「旦那さんは怖い方ですが、子煩悩で愛妻家な優しい人ですからね」

 紹介する前にマリカにそう説明する。

 挨拶するとシュルドの鋭い視線が突き刺さってきて、睨まれたようで、『毒舌家』という彼の俗称を思い出してしまう。

「ペリシアさんは私の料理の師匠で心の支えです。TDFに所属していた時はかなり助けていただいています」

「そんなことはありません」ペリシアは微笑んでいる。

「それからこちらがペリシアの旦那様のシュルドさんです。私のプログラムやコンピューターの師匠です。怖そうですが、面倒見がいい方ですので私もここまでプログラミングが出来るようになりました」

「誰が怖い。厳しいかもしれないが、それはフェリウスの為だ」

「目付きも口調も鋭いです」ひるまず陽気に返していた。

 それは酒のせいだけではないのだろう。マリカは驚いていた。

「本当ですよ」ペリシアがフェリウスの言葉に頷く。「もう少しカルランに言うように話したらいいのに」

 ペリシアは夫の手を取りながら言う。

「カルランはお二人の長子ね。今は部屋でお休み中。可愛いんだから」

 フェリウスがそうマリカに説明すると、シュルドがペリシアと息子の三人で映っている姿が映し出されている端末画面を見せてくれる。

 それは今よりも柔和な笑みだった。

「公私は分けているだけだ」

「今は私的な場所ですよ?」ペリシアは言う。

「善処する」

 顔を赤めながらシュルドは言う。照れているのだろうか?

「こういう方々ですからね。マリカもコンピューターに関して知りたいことがあればシュルドさんに教えを乞うといいですよ」

「生徒を増やすな」シュルドは苦笑する。

「こんなことを言う方ですが。面倒見は凄く良いですよ。素人同然だった私がプログラム班の手伝いも出来るようになりましたから」

「努力してくれたからですよ」フェリウスの努力する姿をずっと見ていたからペリシアは微笑み掛けてくれる。

「ああフェリウスは次の試験に申し込んでおいたからな。キャスティと一緒に受けるといい」

「えっ、本当ですか? 嬉しいですけれどC級受かれますか?」

「その実力はあると感じたから、申し込んでおいたんだよ」

「あ、ありがとうございます。期待に応えられるように頑張ります」

 フェリウスは勢い良く頭を下げていた。

 ペリシアにも励まされると、フェリウスはマリカを伴いながら次の場所へと向かう。

「嬉しいな」スキップしたい気分だった。

「プログラムライセンスC級を取得するの?」

「TDFでは誰でも持っているし、最低限なのよね。シュルドさんやフィオーレはSライクですから及びもつかないわ」照れたように笑った。「次に紹介するのはAランクの人たちね」

 苦手なエレナは傍にいないようなので、そのタイミングを見計らってノルディックに声を掛ける。

「よう。飲んでいるか?」

「飲んでいますよ」フェリウスは地麦酒の入ったグラスをノルディックに向けると、彼は優しくジョッキを合わせてくれる。

 それが硬質な音であってもマリカにも優しく響いてくるから不思議だった。

「マリカがノルディックを怖がっているようだったから連れてきました」

「そんなことはありません。彼は優しいです」

 ディがフェリウスの言葉に食い気味に声を出していた。

「そうだよ。お兄ちゃんは優しいし恰好いいんだからね」妹も援護して来る。

 彼女はノルディックの腕にしがみ付いていた。

 最近、サイバー空間で怖い目にあったとかでベッタリだとフェリウスが教えてくれた。

「まあノルディックは『キングコング』なんて言われているものね」

「仕方がないと思っているよ」同じ銀髪だったが、ボサボサの髪を掻きむしるよう言う。

 前髪が伸びすぎていた瞳の表情や目線がよく分からない。ただ口角は上がっているので笑っているのだろう。

「こんな巨漢だし怖がられても仕方がない。それにこの拳で人を殴って病院送りにしているからな」自嘲気味な声だった。

「そんなにことはありません。その手が私たちを守ってくれているのですから」

「そうだよ。安心できる手だからね。お兄ちゃん」

 テーセは強くノルディックの腕を握りしめている。

 茶番などではない。心底信じているのが言葉からも伺える。

「ねっ、マリカも分かるでしょう。彼が『狂犬』だって言われているのが誤解だって」

「まあ今は誰彼かまわず殴ることは無いがな。それでも過去は消えない」

「そんなことありませんよ」

 慈しみ愛おしそうにディはノルディックを見ている。

「彼女達の言葉からも分かるでしょう?」フェリウスはマリカに言う。

「そうね」

 考えを改めなければならない。噂が真実とは限らないのである。

 恋焦がれる姉妹を見てマリカはそう思う。

 粗野だとか言いながらも、懸命にマリカも見守ってくれているのが分かってしまうからである。


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