開幕間近 ~行く人、来る人 23-4
4.考える人
ショールーム課長のハリューリは自他ともに認める『変』な存在である。
人が増えていったため所長以外のまとめ役的な役職が必要になり課長職としてハリューリが指名されている。所長はチームや係を決めてショールームを運営しようとしていたが、ハリューリは全員が全ての商品を理解できるようにして全体全てを案内できるように教育していく。ハリューリは所長にそう宣言する。
ある程度の得意不得意が出ることは致し方ないことであったが、ハリューリ自身、自ら実践していて、全ての商品を隅々まで勉強し説明し案内していたのである。
現在、ショールーム所属担当は十七名である。
訪れる人が多くないので少人数でも広いショールームを回せているのだと思われる。
バイヤーや訪れる数少ない観光客を相手にしながら、彼らはショールームが廃止されないように営業成績を伸ばしていた。
これはハリューリからの発案でもあった。
本社で経費節減議論が出るたびにやり玉にあがるのがショールームであったが、有用性を示すことで不要論を蹴散らしていたと言えよう。
所員間での競争意識を高めながら、自らの存在意義を求めようとしていたと思われる。
彼女は自分の居場所を確保しようとしていただけなのかもしれないが。
ハリューリは本社ショールームの推進役である。所長がその可能姓を見てスカウトした様にショールーム担当者を鼓舞している。
ショールームを立ち上げた所長としては、彼女はたまたまスカウトしたのではあったとしてももこの頃には得難い存在になっていたといえるのではないだろうか。
この時もハリューリ・ヴィクトラムは笑みを浮かべながら推進課の二人に独自の視点から話を進めていく。
彼女はどのような存在だったのであろう。
ショールームにハリューリが所属して以来、長らくお世話になっていというTDF部長のパーンはジプコに就職してすぐショールームに入り浸っていることがあった。
「面白いお姉さんですよ」
嘘くさい笑みを浮かべながら彼は答えている。
「人と自分が幸せになれるように努力する人です」
事も無げにパーンは言う。
「ハリューリ課長は素敵な方です。話をしていると幸せになれますよ」
少年らしからぬ持ち上げ方であった。
ショールームが設置されて以来可愛がってもらっているのである。彼にとっては素敵な居場所であったようだ。
「TDFにお誘いしたかったのですが、天職から遠ざけるわけにはいきませんでしたので、本当に残念です」
ショールームに所属する所員に訊ねると彼らはこう言う。
「優しくて穏やかな方ですよ」
「お話ししていると元気をもらえますね。励まされます」
「言葉遣いも笑みも素敵です」
おおむねこのような良い感想が返ってくる。
「トークは本当に勉強になります」
「隣にいてくれるだけでも心強いです」
新人担当者こうも言ってハリューリを評する。
ただ良いことばかりでもないらしい。
「かなり好き勝手やっていて、所長以上に現場を取り仕切っている気がします」
「観察眼があり鋭いのですが、突っ込みすぎていて冷や冷やしてしまいます」
「ハラスメントに発展しないか怖いです」
「棚卸や決算期には大変です。細かい指示が多すぎて……」
「そうミリ単位のバランスを求めてきて、商品ディスプレイさせられますから」
「違いが分からないのであの感性にはついて行けません」
うんざりしているものも多いようだ。
「所長に禁止され、厳命されているからやりませんが、毎日模様替えしたいんじゃないですかね」
「模様替えの時は帰れないと覚悟しています……」
女性が八割の職場である。
浮いた話は無いようである。
「所長と恋仲ではという噂もありましたが、あれは腐れ縁のような関係ではないかと思います」
「もしくは盟友?」
「仕事一途なのかもしれません」
「人と話すことが本当に好きなのかもしれません。お客様を見つけたなら率先して話しかけていますよね」
「どんなに小物であっても売り上げに繋げていているが凄いです」
「一日一件販売・契約という営業目標がありますが、課長がいる時は必ず実践していますね」
「ちょっと強引かなと思うところはありますが……」
「月ごとの売上金額で負けることはあっても、販売した件数だけなら課長に叶う人はいません」
「課長と話をして逃れた人はいないのではないでしょうか」
「会話から情報を得ているとあとで話してくれますが、それでもそこまで立ち入っていいものかと」
「あれは怖いですね。買わないといけないのではと洗脳されてしまっているのでは思う時もありますよ。情報量が多すぎて判断できなくなってしまうようなものかもしれません」
「本当に『変』な人ですよ。ハリューリ課長は」
所員全員がそう言う認識らしい。
「『変』だからショールームに所属させたわけではない」
ショールーム所長ミレルドは砕けた表情で言う。
「ただ根性はあったし、営業が好きなのだと感じたから、それを活かしたいと思っているからショールームに所属させた」
性格は表情で隠せる。
凶悪そうな顔付きであっても懇切丁寧に話すことが出来れば、営業に繋がるのだとミレルドは真顔で言う。
ショールーム担当は所長自ら面接し、必要だと判断したものを集めている。そのため新人採用者がいない年すらあり、所員を落胆させる時があるらしい。
トークが苦手だと言い切り尻込みする新人もいたが、それでもミレルドやハリューリの指導を受け楽しさを知ると営業にのめり込んでいくようだ。
手応えと嬉しさを感じているようにもみえる。
「良いことばかりではありません。むしろきついことが多い気がします。それでも感謝されたりすればやはり励みになります」
ハリューリはしみじみと語った時がある。
「声を掛けた全員が契約してくれるわけではありません。十人声を掛けて一人やっと興味を示してくれればいいのではないのでしょうか」
「だから最初から断られても、あきらめずに声を掛けてみることです。きっと耳を傾けてくれる人はいるのですから」
それがハリューリの信念でもあるようだった。
「彼女は感覚で展示内容を変えたがる子でしたね。頻繁に展示内容を変えたがっていて、毎日でもそうしていたがっていましたから、おかげで止めるのに本当に苦労させられました」
ミレルドは苦笑いする。許可を出したら最後、一人ででも徹夜で変更してしまうのです。
「自分が納得するまでやるのはいつものことでしたね」ミレルドは苦笑しながら話をしてくれる。「パビリオンのショールームを任されて彼女は嬉々として打ち込んでいますよ」
「ここまで最初から空間を与えられて自由にできたのは初めてでしょうからね」
「抑圧されてきたものから解き放たれた彼女がパビリオンをどのような方向に向かわせるのか楽しみであり、怖いですね。最後まで足掻き続けるのではないでしょうか? ハリューリ君が目指したあるべきパビリオンの姿を求めてね。それが今は本当に楽しいのでしょう」
「彼女をスカウトした意味があったというものです。私もパビリオンにコンパニオンとして参加するつもりでいますので、楽しみにしています」
負けないようにしたいと所長は笑った。




