開幕間近 ~行く人、来る人 23-3
3.来ている人
惑星ティーマの宇宙への玄関口正面に設置された巨大なショールームは本社の所属であり、ジプコの取り扱っている製品全部を展示していて、最先端のジプコの技術を紹介している。
通信分野だけでなく総合商社を目指し家電や雑貨などの日用品や嗜好品、ゲーム分野に進出しているジプコの製品をアピールする場でもあった。
ただティーマは観光惑星ではないので、訪れる人は多くなかったが。
そのショールームで課長をしているハリューリ・ヴィクトラムはTDF部長から乞われたこともあり所長の許可も得てパビリオン常駐になっていた。
案内役としてだけではなく営業面でも常にトップを走る優秀な人材である彼女の年齢は銀河標準暦で四十代に入ったばかりだが、若々しく緑色の瞳は優し気で深い緑髪は肩口で切りそろえていて挨拶を交わすたびにフワフワと揺れ動く。
現在、彼女は本社ショールームの制服である薄ピンクの制服を着こなし、気を引き締めながら作業を進めていていた。
彼女や今もパビリオンで活動研修に訪れているショールーム担当者用のコンパニオン服は用意されているが、それは開幕までの楽しみに取って置こうとしている。
彼らも期待を込めながら研修を受けて、本番を待ち構えているようだった。
「ハリューリ課長。これはここでいいですか?」
ショールーム担当で現場パビリオンの現場で陳列作業をしている所員の一人がハリューリに訊ねてくる。作業指示用のタブレットと手に持つ電子ポットを見比べながら訊ねてくるのだった。
「そうね。赤、青、緑の順に並べてちょうだい」
後ろから腕組しながらそれを見ている。実際に置いてみてイメージとの違いを確認しているようにも見える。
「いいけど隣に何か欲しいわね」
「そうですか?」
タブレットでライティングの光量や角度を調整しながらハリューリは考え込む。
「そうだ」端末を取り出し電話を掛ける。
必要なものの調達などで何かあればフェリウスに連絡を入れている。彼女は出向者のハブ役を担ってくれていて、ショールームのコンパニオンも担当してくれていて熱心だったし、話が通しやすい。
年下なはずなのにショールームの同年代の若手よりも頼もしいと思える。心配事は沢山あったので、現場にいない所長以上に頼らせてもらっている。
産業博覧会の開催期間中はどれほど忙しくなるか分からなかったので、ハリューリ的には本社宇宙港前のショールームをパビリオンの開催期間中閉めて担当所員全員でパビリオンの応援に来たかったが、所長はそれを許してはくれなかった。
ティーマでの本業を疎かにしないで、手伝うという方針は変わらない。
開催期間中パビリオンに常駐するのは課長のハリューリのみだった。
そのため二週間おきに代わるがわる五名の所員が派遣されることになってしまった。それはそれで不満だったが、この大舞台を一人で取り仕切れるのは震えるほどの喜びだった。
「ああフェリウス。産業博覧会のマスコットを使いたいのよ。承諾とかいるのかな? そうディフォルメのクリッケンの方。愛らしいから商品と一緒に並べて見たくてさ。許諾は必要でしょう? 使っていいかどうか聞いておいてくれるかな? うん。よろしくね」
今日も本社から大量の商品が届いていた。
今までは逆風でパピリオンというよりはTDFへの風当たりは酷いものだったが、風向きが変わったことで、ジプコで扱っている研究中や開発中の電化製品まで展示できることが出来て、それらを存分に紹介できることが楽しすぎたし期待してしまう。
それらをコーナーごとに分けて、展示見本と販売用に分けて、販売用はバックヤードに保管するように指示を出している。
当初第一層用のバックヤードも休憩コーナーもなかったが、それもフェリウスのおかげで準備できたし、パーンが気を利かせてくれて、ショールーム並みに展示が可能になっている。
感謝しかない。
それに一から色付けできることがこんなに楽しいことだと思わなかった。元々展示スペースの変更をすることが好きだったが、それ以上にやりがいがあった。
ここではトップだったので、好き勝手出来ることが楽しすぎる。
所長からも生き生きしていると言われ(呆れられた)ほどである。自覚はないがウキウキした顔付きになっているので、研修出張に来ていた部下たちからもそう言われていたな。
見せ方をライティングなどで工夫しながら、注意を引きやすいように調整していく。それもほとんど目途が付きつつあるからさらに喜びが増してくる。ハリューリのイメージに近く仕上がりつつあるのだから、指示の出し甲斐もあった。
細かすぎて、まだやるのかと部下たちに呆れられていたが、気にしない。
小型の家電、ポットやカップ。さらに調理器具やマルチなオーブンレンジに皿洗い器はキッチンをイメージしながらペリシアにも監修してもらい陳列している。さらにテレビやオーディオ機器にデジタルカメラ、通信端末は小型なものから大型ものまで、パーソナルコンピューターも各種様々に取りそえて、ジャンルごとにそれを花開かせるように個性的に見せていく。
とはいえ通信会社が前身である。電化製品類は後発もいいところで、当初出したばかりの頃は凡庸なデザインと安さばかり目立ってしまい使い易さや耐久性などに問題があり、そればかりが悪めだちしてしまった。
ハリューリの手元にある保温保冷カップも今みたいに洗練されたデザインではなく切り替えスイッチの場所のせいか使い勝手悪いと評判は悪かった。そんなことが続いたこともあり、アイディアは悪くないのだが、いいイメージもなかったので世間一般の評価としては安売り商品のメーカーとしてしか見てくれなかった。
そのイメージを払拭するためにハリューリは頑張らなければならない。
彼女は使命感に燃えている。
「やあフェリウス」端末が鳴りハリューリは答える。「もう許可が下りたの? 話が早くて助かります。早速取り入れてみます」
タブレットを使い投影されたクリッケンのデフォルメキャラを置いてみて確認してみる。
「いい具合よ。それで推進課の人たちがここを見学したい? 本当に? 大丈夫かって私にそれを訊くの? 問題ないわよ。マスコットグッズも持って来てくれるのでしたら、隅から隅まで丁寧にご案内させていただくわ。なんなら大型通信機を導入させてみましょうか? 難しい? そうかしら。お手柔らかに? 分かったわ。お待ちしていますとお伝えください」
相当自信があるのか営業スマイルを浮かべながらハリューリは笑うのだった。
ジプコTDFパビリオン内の公開は展示スペースも設営準備の遅れもあって第二層の中心にメディア展開していた。
TDFメンバーだけでも可能ではあったかもしれないが、手助けがあった方がパビリオン運営もうまく回るはずである。
特に本社ショールームの手助けは重要だった。部長のパーンがショールーム所長との約束を早い段階で取り付けていたが、それでも本社総務部の邪魔も入り彼らの派遣は延び延びになってしまっていた。
これだけスムーズに動けるようになったのは、業を煮やしたフィオーレが動いたのかもしれない。
こうして第四宙域ASCや本社商品開発課からの助っ人が得られるようになったのは本当に風向きが変わったのであろうと思われる。
こうして最新や開発中の商品が送られて来て展示できるのがその証拠だったし、ショールーム担当者が自由にトラッティンとティーマの間を大手を振って行き来できるようになったのである。
「パビリオンショールームにお越しいただきありがとうございます」ハリューリはお腹の辺りで両手をあてて背筋を伸ばしながら正確な角度で挨拶している。「パピオンショールームを総括しています。ハリューリ・ヴィクトラムと申します」
見事な挨拶だった。
彼女の後ろに控えている五名のコンパニオンもそれに合わせて礼節をとっている。
「トラッティン産業博覧会推進課のクロカワです。本日はよろしくお願いします」隣にいるハスガヤからマスコットキャラの入った箱を受け取りながら挨拶をしている。「これがご希望されていましたマスコットキャラのグッズ類であります」
「ありがとうございます。早速使わせていただきますね」
箱を開けながら、中にあるマスコットキャラのひとつを掴むと後ろに控えている担当者に渡して指示をだしている。
「それからこちらが」
推進課課長のクロカワは隣のハスガヤをハリューリに紹介する。
「ジプコTDFパビリオンを担当させていただいていますハスガヤです」
「あら。髪型を変えて眼鏡を掛けていらっしゃいますが、フェリウスやクリスと紀行番組に出ていらした方ですよね?」
「よ、よくお分かりで……」
「ハリューリ課長は一目見ただけで顔を覚えてしまう方ですから」
フェリウスはハリューリを紹介しながらクロカワとハスガヤに苦笑するように説明する。彼女の記憶力も尋常ではないと理解しているからだ。
「かなり細かいBC処理で顔を変えていない限り分かります」にこりとしながらハリューリは微笑みかけていた。「ハスガヤ様は先日もトラッティン民放放送局が放送した産業博覧会のグルメ紀行番組でフェリウス、クリスと共演なさっていましたから覚えていますよ」
「それは忘れて下さい」顔を真っ赤にしながらハスガヤは俯く。
色々と撮影中のやらかしもあったので本当に恥ずかしいのだろう。
「卑下しないでください。本当に良い番組でした。ハスガヤ様がいてくれたおかげでクリスもうまくお話しで来ていたと思います」
「本当に恥ずかしいので忘れて下さい」
いまだにハスガヤ自身が映った番組はろくに観れていない。
確かにインパクトはあったのだろう。トラッティン在住の遠縁の親戚だけではなく、疎遠になっていたハイスクールや大学の同級生からまで放送を見たという連絡が来てしまった程である。幾人かはその後会って近況を話すことになってしまっていた。
「はめられてしまったっていうか、乗せられたって言うか……」
呟くようにハスガヤは言う。
「そんなことはありません」フェリウスは言う。「ハスガヤさんがいてくれて私たちは助けられていましたからね。自信を持って下さい。好評なので三回目もあるそうですから」
「そうなのですか? えっ、三回目?」
「そういえばそんな企画が昨日届いていたね」
「断って下さい。私抜きにして下さい」
「それは無理かもしれません。私もクリスもハスガヤさんとでしたらとお答えしていますので」
ハスガヤの肩を叩くフェリウスだった。
「そ、そんな~」
「好評だし、宣伝になるから我々としても断れないね」
クロカワも番組を押しているようだ。
「TDFパビリオンがここまで脚光を浴びたのは産業博覧会推進課の助力があってこそのものがあると私は感じています。感謝しかありませんわ」
ハスガヤの手を取りハリューリは言う。
「もっと自信を持って、ハスガヤ様がヒロインだと思って出演なさってください」
「は、はい」
ハリューリに優しく励まされると少しだけ自身もわいてくるような気がした。
顔出しが増えて番組の評価が上がるほど、ハスガヤは周囲からTDF関係者と近い間柄だと認識され、アリエーやディ、フェリウスのサインまで求められることになってしまっていた。
端末のサイン画面だけでなく色紙まで渡されてしまうのであった。
芸能人になった覚えはないが、それ近い存在になっていると感じるハスガヤである。裏方なのにと。
「クロカワ様も一瞬ではありますが、私は見ていますので覚えていますから問題ありません」
「それは恐縮です」クロカワは照れながら応えている。「ハスガヤ君は自己評価が低すぎます。放送各社からもレポーターとしてだけでなくミドルやジュニアスクール生のガイド役の話も舞い込んでいるのですよ」
「そ、それは知りません。でも私はこの仕事が」
「だから推進課としても仕事に支障がない限り、受けるようにしています」
「覚悟します」心の中で涙を流しているハスガヤだった。
「知名度を上げるチャンスですからね」クロカワはご満悦のようだった。「グッズには一メートル以上の大きさのものもあります。置物だけではなくバルーンになるクリッケンも存在していますから、それらが必要であればこちらにお持ちします」
「狛犬やシーサーのような感じに設置できますね。それにバルーンですか、ここは天井も高いですから、あげることも可能ですね。いっそコラボいたしますか?」
面白そうだとハリューリは考える。
「コラボですか。そう言うのも面白いかもしれませんね」クロカワも乗ってきた。「シーサーというものは分かりませんが、神社に置かれている狛犬は分かります」
トラッティンへの移住者の中にはその文化圏のものたちもいたのである。
「それではクリッケンのリアルな像をうちに通信機器の前にお守りのように置いて見せましょう」
新たなアイディアを思い描きながらハリューリはイメージを膨らませていく。
「よろしくお願いします」
クロカワは言う。
「それでは本邦初公開のショールームをご覧に入れましょう」
フェリウスはハリューリの案内を参考にしようと彼女の動きや話し方に聞き入っている。実際に彼女はショールーム担当者に講義をしてきたが、実地と講義は違う。案内しながら担当者も見て参考にして欲しいとハリューリは思うのである。




