異界から覗く自我 22-11
11.一歩踏み出せば
エレナはゆっくりと瞼を開いていく。
ハウスの自室だった。
枕元にあった端末を見て日時を確認する。
アリエーとハウスを出て産博会場に向かったところまでは覚えている。そのあとが曖昧だった。何をしていたか思い出せない。
「嫌なこと聞かされたな」
その感覚だけは覚えている。
腹が盛大に鳴った。
アリエーの差し入れが残っていたので腹に入れてから、食堂に向かう。途中二階の洗面所の鏡の中の自分を見るとそこにはエレナがいた。
「嫌な顔」
好きになれるはずがない。嫌な自分がそこに居た。
食堂に行くとペリシアがモーニングビュッフェの準備をしていたのでつまみ食いさせてもらう。
あたしの顔を見たペリシアは驚いて全部食べてもいいと言ってくれたが、朝食を食うことが楽しみだったので辞退している。
それから外に出てアリエーを探した。ランニングしている彼女はすぐに見つかった。
「おはよう」
気さくに声を掛けたつもりだった。通じたかどうかは分からない。
それでも嫌な顔をせずにアリエーは微笑みかけてくれている。
「体調はどう? 身体におかしいところはない?」
「大丈夫だと思う」
「頭の中は?」
「すっきりしないけれど、それは嫌な話を聞かされただけで、調子が悪いわけでも頭痛がする訳でもない。しいて言えば二日酔いみたいな感じかな」
「そう。よかった」
心底ホッとしているようだった。
ありがたい。
「ハウスを出たところから、目が覚めるまで記憶がないんだけれど、何があったの?」
「そうだねぇ。あたしはカーナンの帰還を見守っていただけかな。うまくいったみたいで良かったわ」
アリエー自身説明できることは多くは無かった。
カーナンが『式』を書いたことなど、流れは話して聞かせていたが。
「よくねぇよ。いいようにあいつに使われていたんだろう?」
「そうとも言うわね。うまくいったようだから、結果オーライという事にしましょう」アリエーは笑いながらエレナの肩を叩く。「それよりも、カーナンに何か言われた? 最後に驚愕して絶叫していたんだけれどさ」
「そんなことが……」あの時カーナンに言われた言葉が蘇ってくる。「話すつもりはない。ただ考えたくもないことを言われた」
「そう言うことにしておきましょうか。今日は仕事が出来そう?」
「何とかなるかな。とりあえず腹が減っているので食うつもりだけれど」
「食欲があるのなら大丈夫ね」アリエーは満足げに頷く。「それじゃあ戻りましょうか」
二人は軽く汗をかくとシャワーを浴びて、モーニングビュッフェに向かうのだった。
「どうしたの、フェリウス?」
不思議そうな顔付きで佇むフェリウスにアリエーは訊ねる。
「エレナに睨まれなかったから」小首を傾げている。「昨日病欠したでしょう。まだ調子悪いのかな?」
「大丈夫そうよ」
「それに口調が丸かったのは気のせいかな?」
「気のせいかもしれないわ」アリエーは微笑む。「次に会ったら睨まれるかもしれないし、言葉に棘があるかもね」
「そうかもしれませんね」フェリウスは苦笑する。
「まあ、様子見してみましょう」
アリエーはそう言うとフェリウスとともに歩き始めた。
仕事はまだまだ溜まっている。忙しい一日は続いていくのだった。
<第22話了 第23話に続く>




