異界から覗く自我 22-3
3.妖精の声を聴いた
夢を見ていた……はず。
そんな気がしただけだと思いたい。
ほら夢って変なものが出てきたりするじゃないか。
エレナ自身がどことも知れぬ場所に一人立っている。そして、向かいにいるぼんやりとした蜃気楼のような存在から声を掛けられている。これは声なんだろうか?
ただ頭の中に何かが響いているような。
妙に雑音が混じっていて聞き取り辛いし、直接頭に声が浮かんでいる気がしてくる。
それに見姿はぼんやりしているがテーセのように見えなくもない。背中に羽? 鳥のものではなくて昆虫のような羽根を背負っている。
何だろう。学祭のステージ衣装か、それともテーセのコスプレ?
違う? そんなんじゃない? じゃあピクシーかよ? だから分かるように説明してくれよ?
助けろ?
なぜあたしが? しかも何で命令口調なんだよ。
腹が立つな。
えっ? あたしの思考を読み取り口調を真似している?
なんで?
しかもあたしってこんなんなのかよ? 冗談じゃないっていうのかよ!
ほら、その口調? 指摘されると否定できないな……。
くそっ!
自分に腹を立てるなんて愉快な奴だって?
悪かったな。怒りのやり場に困るだろうが。
とはいえ、客観的にみてもこんなひどい口調なのかよ?
何で気が付かないのかって?
あたしはもっとまろやかにマイルドに言っているつもりだったんだよ!
うるさい。口調を指摘され気にしていてもこれかよ。
直すつもりか無いだろう? ありがとな。気付かせてくれよぉ。
えっ? だから、助けろ?
だから誰をだよ? 自分自身をか?
違う? 目の前にいるだろうって? どこにいるのか見えねぇよ。
だいたいお前、誰だよ? あたしでもテーセでもないよな?
名前や固有名詞は存在しない? それでよく個体の識別が付くな?
ちゃんと気持ちを伝達し理解し合えば分かるだろう?
そんな都合の良いモノ、あたしは持ち合わせていないよ。
不便だって? それは仕方がない。そうやって人類は進化してきたんだからな。
だからお前は誰で、何がしたいんだよ。助けろだけで、分かるか!
自慢じゃないがコミュニケーションでは苦労してんだ。何も分からない奴のことなんて知るかってんだ。
よく滅びないな?
そうだな。これだけ自己中で回ってんだから、しぶといんじゃないか?
だったら助けろ? こんなあやふやで危ない世界にいたくない。
確かにそうだが……。
名乗れ。理由を説明しろ。挨拶も無しで誰が話を聞けるか。
あたしはブツブツ文句を言っていく。
痛ぇだろうが! 殴ってくるな!
思いっきり何かをぶつけられたあげく、何度も顔面を叩かれたような気がして、その痛みに目が覚めた。
エレナはベッドの上ではね起きていた。
「夢か?」
部屋を見回すとカーテンから日が差し込んでいる。
「何だってんだよ」
寝癖が出来まくりな髪をガシガシと掻く。
本当に叩かれたのか頭だけでなく頬も痛い気がしてくる。
「赤く腫れているのかな?」左手で頬をさすりながら言う。「夢の中でまで性格や口調が悪くなってんのかよ」
へこむしため息しか出てこない。
枕元にある端末で時刻を確認する。
「アリエーが走り出す時間か」
頭をスッキリさせるためにも一緒に走った方がよさそうだ。
「何で挑もうかな」
かまってもらいたいとアリエーの都合も考えずに、いそいそと着替えを始める。
こういった自己中心的な考え方が、相手に嫌われてしまう原因なのに本人は気付かずにいるのが始末に悪い。
「あんた、どうしたの?」
声を掛けてきたエレナの顔を見た瞬間、アリエーは驚きの声を上げていた。
目は落ち窪み、徹夜明けのように隈が出来ているし、なんで何日も食べていないみたいに頬がこけているのよ? 昨夜は人一倍食っていたはずなのに……。
しかも頬や額は何度も叩かれたように腫れている。
一晩で何があったのだろう?
この変わりようは異常だった。
「えっ? なんかした?」
スッピンのまま来たけれど、いつものことなので驚かれるようなことはないはずだ。
「何、じゃない! 鏡、見ていないの?」
見ていないというエレナにアリエーは短パンのポケットから端末を取り出すと自撮り用の画面にして彼女に突き付けた。
「これ、あたし?」
目を丸くしながらアリエーの端末を見つめていた。
顔や端末を動かすと、その動きから自分だと認識した。
「何があったの?」
アリエーは詰め寄ってくる。
「何ッて……変な夢は見たけれど……」
「変な夢?」
「いや夢っていうか……」
「どんなことでもいいから、詳しく説明しなさい」
夢に出てくるという事は、何かに取り憑かれている?
エレナの右手首をガッチリ掴むと、アリエーは振り解こうとする彼女を力づくで引っ張っていく。




