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 やんわり忠告したつもりの烏丸頼子だが、神父の尊大な姿勢は全く揺らがなかった。



「この国に教会の存在は不要だと!? まったく生意気な。……いけ好かない女性だ」


 懺悔室の前で一人残された神父は、親指の爪を噛みつつ眉を顰めて苛立ちを表し、およそ聖職者のイメージとかけ離れたセリフを吐き捨てた。そんな彼の背中へ声が掛かる。


「ファーザー・ドミニコ」


「! シスター、クリスティーナ…………」


 我を取り戻した神父は金具に指をかけ眼鏡の位置を直す。気遣わしい口調で、まったく不意の事だった。


「いやあ、この学院は先生も生徒も随分と個性的な面々がお揃いの様ですね、ふふっ……」


 ばつの悪い笑みを浮かべつつ、取り繕うような台詞を発した。


「迷える者は自らの意思で集うものですよ。校舎は教職員の領域と割り切って、私達は教会内だけで子羊たちを待てばよろしいのでは」


「シスター……あなたも【異端審問官の校内パトロール】的な見方をしているのですか? 元々この学院は神学校セミナリオが前身で、敷地内はすべて教会の聖域ですよ。教員たちこそ教導師の奉仕活動を妨害するべきではない」


 ドミニコも自分の行動が教職員や生徒達から煙たがられる事は充分承知していた。それでも異教徒の土地こそ布教価値は高く、より強力な信仰心の表明となる。益してやいま此処で横たわっているルイス・フロイス師が臨んだ苛烈な時代と比べれば、周りの無知・無理解や命の心配もない中傷など如何ほどのものか。会派発足時の理念を思えば、より積極的な行動へと自らを駆り立てねばならない。



「ああ見ましたよ。コ、イ、ツ、とか(苦笑して小突き返す隣りの生徒を示して)クラスのやつらも一緒に。すごい状況だったね。2年生の女子が刀でもって切りかかったりして。怪獣を光の中へ落としてやっつけたのもその子らしい。あとで顔を見に行ったけど、あの日遠めで見た印象よりずっと背丈が小さくて、カワイイ感じの子だった」



「あの時の光景って、教室内のクラスメートが全員見たはずですよ。倒れた友達も含めて。先生たちだって……そもそも体調を崩したキッカケがバケモノを見たせいだったし。保健室が超満員だったって事は、学院中の生徒が見たんですよ、結局。―――― 集団で見る幻覚ですかぁ? うう~~ん……さあ。そこまで言われると、私たち自身ではもう分らないことなんでしょう? そういうのって、しょっちゅう起こるコトなんですかぁ、神父さん」



「俺も見てます。黄金の光と怪物の件だけじゃなくて、彩ちゃんが住んでる神社へ行って。……神父さん知ってます? 〝九尾のキツネ〟っての。それと会ったこともあった。ほらほら、コレコレ。(スマホの動画を見せながら)実際会話も出来たし、見た感じも現代人の女の子と全然違いがなくて。でも尻尾が九つあって、耳もちゃんと自然な動きだし、まじまじ観察してこれ実際生えていると思った。女子連中も意気投合してたけど、その場で金色の光に包まれて、あれよあれよという態で空へ消えちゃった。彩ちゃんから天国に帰ったって聞いたけどね」



 ――まったく。どうかしてるんじゃないのか? ……何なんだ、2年α組の生徒達はっ! しかも、なぜ九尾のキツネなんて話が出てくる?! 頭がおかしいか、そろいも揃って真性の妄想集団じゃないか。


 関わらぬ方がよい、そう警告を受けた噂の中心へもドミニコは敢えて迫った。彼は校庭前のベンチの上で昼食後の残り時間をのんびりと寛ぐ二人を捉えて接近した。


 神父の姿を見て取った彼は居住まいを正して小さく「あ、ども」――軽く挨拶して迎えた。


「キミは土御門響也くんだね。神社の息子だと聞いてますよ」


「はあ。よくご存知で」


「ミス烏丸が担当するα組でも、取分け問題のある生徒の話は強く印象に残るんですよ」


「ああナルホドね」


 ウチのクラスって問題児が集められたって時折聞くけど、本当なんだ。響也はそう思った。

 彩は穏やかな微笑を浮かべ、漆塗りの弁当箱を〝主君〟との間へ置いて距離を保ちつつ、同じベンチで腰を下ろしている。


 (これが霧隠彩…………流言すべての発信源。生徒達の話通り、外見はどうという事のない普通の女子生徒だが。しかし、私は騙されんぞ)


 彼女は、変わり者だらけの2年α組の生徒達の中でもとびきり、深刻な問題児だ。

 この女子は、同じクラスに所属する男子生徒・土御門響也の家来と名乗っていて、実際下僕として振る舞い続けている様だ。理由は、以前使えていた主人の450年後の子孫が彼であり…………。人が聞いても何を言っているのか首を捻るだろうが、要は自分が遠い過去から現代へタイムスリップして来たのだと本気で思い込み、主張し続けている。

 ――だが。……今回は顔見せの会話だ。まずは友好的な雰囲気を醸し出さなければ。彼らは異教徒ではあるが無神論者ではない。どこか通じる部分だってあるだろう。

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