31 異端者
「人間は土くれから創られた存在です! 有機体だから、これは科学的な事実ですっ」
「カトリックは不滅の魂の存在を肯定していますでしょう。肉体は塵芥で出来ていても、そこへ魂が載っている。…………真言仏教の教義と特段の矛盾はございませんわ」
「神の子はイエス・キリストただお一人だ! ヒトが神の分身とは、許容し難い冒涜だ!」
「彩ちゃんは神様の栄光を借りて悪魔を消滅させる事ができたんですから、褒められてもいいくらいじゃないですか?! あれこそハルマゲドンと千年紀を経た後、サタンを待ち受ける制裁だわ」
(マズイですわね)風祭美樹が彩を庇うため放った咄嗟の言葉。雪城舞は顔を曇らせる。
相手が相手だ。その手の弁護では、返って火に油を注ぐだろう。
「ふっふっふっふっふっ……はあ――――はっ、はっははははは…………!」
案の定、ファーザー・ドミニコは自らのひたいを押さえつつ、勝ち誇った様子で嘲笑った。
「クリスチャンでもない多神教を信奉する娘が、全能の唯一神たる父から栄光を受けたと考えるなんて呆れたものですねぇ。それこそ異端の信仰だ。サタンの最終的な処断方法をご存知なのは神だけで、今巷へ片鱗でも見せる訳がない。また教義を異教でアレンジ? キミねぇ、それを混成宗教と言うのだよ。君等は地獄の炎で焼かれる、永遠の苦痛を望んでいるのかね?」
「でも実際、全校生徒の殆んどが見たんだもの」
「だから、それこそが集団ヒステリーの見せた幻覚で、異端だと言うんです! 主は言われた。あなたの間に自分の息子、娘に火の中を通らせる者、占い師、ト者、易者、呪術者、呪文唱者、口寄せ、霊媒、死人に伺いを立てる者などがあってはならない。(申命記18章10節~)以上、そう記述されている。ご存知ですよね?!」
「あの、聖書の内容(興味無いし)……実はそれほど詳しくは知らなくて」
「キミねえ! ……」
さすがの神父もガクリとした。
キリスト教系学校の生徒だからといって、皆が聖書を読み込んでいる訳ではない。この学院でも哲学の授業はあるが、聖書研究といった教科はない。最も信仰熱心を自負する会派の人間とすれば派遣された甲斐も無い。
だが『宣教師』は、忽ち自らを奮い立たせた。
――いや、さればこそだ。主が此処へ私を差し向けて、迷える子羊達を導けと仰せなのだ。
「 場所をわきまえて頂きたい。神父 」
聞き知った声が掛かった。気付かぬうち、2年α組担任が渋めの表情を浮かべ立っている。
神父は少し顔を向ける形で雪城舞を示して言う。
「ミス烏丸。この女子もそうだが……ひょっとしてあなたは生徒に指示して、校内を見張らせてでもいるんですか? 随分と都合よいタイミングで現れるものだ。感心しましたよ」
「職員室へ知らせてくれるものが居たんですよ。あなたが廊下なんぞで異端審問を始めるもんだから。……異変を感じた生徒が何人も通り過ぎている。ご存知じゃなかったんですか?」
「ふん、異端審問とは。いったい何時の時代の話をしているんだね? くだらない」
サムズアップで後方廊下を示しながら、烏丸頼子は神父に対し同行を促す。
「さあこれから大好きな懺悔室へお越し願おうか。あなたとは常々、じっくり話し合いたいと思っていたんでね」
「それは望むところだ。あなたの告解なら心して傾聴いたしましょうか」
満足気な含み笑いを浮かべたドミニコ神父は彼女の後ろに続き、生徒達への関心を失った。
「沙織~~だいじょうぶでしたか~~~~~~~~?」
「う……うん」
「ああ怖かった……。 あれじゃまるで宗教警察じゃないの!」
「まるでではなくて、そのものですわよ一応。イエズズ会が彼を派遣して来たのですから」
「うわは~~~、マジでぇ~~~~~~~!?」
担任・神父の両名が去ったので、雪城舞は自身の抱き続けた疑問を、風祭に問いかけてみた。
「ところで美樹、あの光の正体を彩ちゃんから説明されていましたの? トコヨとは、多分『常世』のことですわよね。いわゆる《異界の門》といった感じでしょうか」
「知らなかったの? 舞はもう彩ちゃんから教えてもらってると思ってた」
「黄金色の光の正体までは聞いていませんでしたわ。神父さんへの説明はあなたが言った彩ちゃんの解説と合わせ推量した内容を話したのですけれど。そう……あれは御神体…………」
(神が地球のみならず、全宇宙を――人間が未だ知らない様々な法則も含めて張り巡らし、動かし始めたのだとしたら、そのスケールの大きさは人類の想像を絶するものですが。それでも、泡沫以下の存在とはいえ創造主の分身である以上、人は光属性であるという事ですわね)
雪城舞には、異教の信仰内容への拒否意識がまったく無かった。クリスチャンではあるが、むしろ抱いた疑問を補完するヒントになるかもとすら考えている。




