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9月下旬開催の文化祭を、学院では〔ジェズイット祭〕と言う。
学院の前身であるセミナリオ創設へ携わったイエズス会宣教師達を顕彰する意味のネーミングだが、宗教色はまるでない、他校同様の学校行事だった。今現在2年α組の教室では担任臨席のもと、学祭で発表したい事を提案するロングホームルームが行われようとしている。
花形イベント会議を控えてのインターバルを、一部男子生徒達は雑談に費やしていた。
「最近やたらと熊被害多いよな。街のすぐ近くまで現れたり」
「ほおほお。そんな状況だったか」
「菱木、お前ニュースも見てねぇの? 立て続けで起きてるだろう」
「ヒッキー言うなよ。ぜんっぜん見てない。テレビなんてつまんねーもん」
「人が襲われたりしてネットでもどしどし流れてンだろ、見ろ!」
スマホを彼の眼前へ翳しニュース一覧を示しながら、現状を説明した。後藤修次が言う。
「俺知ってる。全国的ってカンジだもんな。どうしたんだろねえ、急だぜ」
「ぷっ、……くっくくく…………」
黙ってクラスメート達の会話を聞いていた土御門響也が突然吹き出し、声を押さえて体を揺するので周囲は一時顔を見合わせる。ちょっと珍しい。
「なんだよ響也。キメェじゃねーか、イキナシ」
「いやいや。……夕べさ、神社でも熊に寝込みを襲撃されたやつがいたぜ」
「ご主君、どうか…………」
傍で控えていた彩がそれ以上の発言を窘め様としたので、級友達は猶さら興味を惹かれた。
「誰の事だよソレ。面白そーじゃねえの」
「あ、もしかしてぇ、彩ちゃんのコトじゃん? じゃん?」
「いえいえ、その様な事は御座いませんが」
否定する彩自身、失笑しそうな気持ちを必死で抑えていた。
だが家中の者を肴とする戯れは、かつて少女の受けた教育からして憚られる。響也も新しい同居人をイジるのは躊躇する気持ちがあって、以後は冗談で通し話題を逸らした。
そもそも今集っている男子達の中でスーティーベアの存在(ダイヤ・ランドールも含め)を知る者はいなかったし、ジョークで済んだ。
「て言うーことは、たぶん勘解由小路の事よね?」
「宮司さん~〜~。……響~也のぉ、お祖父さんの方かも知れないですよ~~~~~~」
男子達から少し離れた席で彼らの会話を聞いていた風祭美樹の推測を、扇谷要は別の可能性を示唆しおっとり口調で再考を促す。
二人は勘解由小路の座る席へも視線を走らせたが、聞こえない風で澄ましている。宮司の方に添い寝が必要なら、居候を始めて間を置かぬうち済ませている可能性は高い。
加えて彼女が神社へ移った当日の夜であるのを考え合わせると、前後の事情から被害を受けたのは紗夜香で間違いないだろう。
スーティーベアの添い寝ぐせについては以前、遮那堂かほるも彩から相談を受けていた。それは抜け駆けを図るかの様な縫い包みへの噴飯を、赤裸々に訴える内容だった。主君・響也の布団へ夜な夜な潜り込むので、屋根裏から護衛する事すら許されない我が身と引き比べ口惜しい。――大体そういった内容である。
やがて休み時間も過ぎ去りチャイムが鳴った。
担任・烏丸頼子がα組に現れ、教壇横の折り畳み椅子へ腰掛け腕を組んで足を組み、背もたれに上体を預けて座る。
「クラス代表、始めろ」一言指示してからHRが始まった。
「みんな! 首を長くして待った楽しい祭りの二周目がやって参りました。ちゃっちゃっと意見を連ねてくださいね♪」
クラス委員長・遮那堂かほるが《プラネタリウム・太陽系の仲間たち》そう黒板右隅へ大書した。自ら最初の提案をして、続けと促す。
(プラネタリウムは分かっけど〝仲間たち〟ってなんだよ?)少なからぬ男子が思い浮かべた途端、遮那堂はすぐに背中をむけ〝惑星たち〟と書き改める。
皆の表情から読み取った様だ。
文化祭実行委員がチョークを引き継ぎ、どうぞ意見をお願いしまーす、改めて呼びかける。
「焼きそばでしょ、やっぱ」「たこ焼き屋」「マンガとネットカフェ」
「メイド喫茶は?」「アイスクリンもうまいぞ」「手作りお面&わた飴屋」
「から揚げとフライドポテト」「もんじゃ焼き」
「それなら本格的なお好み焼きの方が」
「縁日みてぇ」「つか食い物ばっかだな」
その後も幾つかの提案がなされたが、いずれも模擬店だったので、
保健所の許可がいるぞ。という烏丸の忠告を受けてびびってか面倒、そんな理由か挙手はピタリと停止した。
(いちいち保健所の許可もらって出してるクラスなんかねーよ)
そう内心ツッコミを入れている男子が多数いたが、最近はコンプライアンス的な問題で厳しい状況なのかも知れなかった。
「文化祭だぞ。委員長が提示した様な意見を出す者はいないのか? クラス全員で作り上げるものとかな」
担任がもっと文化的な催し物への流れを誘導する。




