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25 新生活

 道場手前の参道付近で追い付いた響也は、勘解由小路を呼び止める。振り向いた彼女はゆっくりお辞儀して顔を上げ、神妙な様子で応じた。


「……響也さん」


「あんた……何考えてるんだ?! いったい何が目的で来た?」


「…………」


「まさか、神社ウチで働きたいとか、ジイさんに頼んだりしてねぇよな!?」


「はい。申し入れをしました」


「どーいう神経してんだよ!」


 彼はどの面下げてと憤懣やるかたない勢いだったが、相手の態度は至って真摯だった。


 「図々しいお願いだったのは承知しております。でも恥ずかしい話ですが、父の遺言で鎌倉を訪れた時は住み込んで家事を手伝い、どの様な形でも土御門神社で奉職する約束……いえ、決意でしたので……」


「ぐっ」(それって花嫁修業をするハズだった・・・ってことかよ!)


 元来響也はディベート下手な男子で、理詰めで議論したり相手との丁々発止のやり取りは苦手だった。結果として質問という形で追求する方向へ流れる。


「いくら何だって、変わり身が速すぎるんじゃねぇの? どういった心境の変化だ?」


「あの後自分を省みて、考えを改めたのです」


「そんなの信用できるわけねーだろ」


「はい。口先だけではとても信じて頂けないと思いますので、行いを通して誠意を示したいと思い至って奉職をお願いしました。……もし総帥さ……空夜様の許可が下りた場合は、どうか響也さん。そして霧隠さんにも、一度だけ機会を頂きたいと思います」


 何卒よろしくお願いします。深々と頭を下げる彼女の姿を見ているうち、響也はそれ以上の言葉を失った。祖父が許可するとは思えなかった事も、追求不足を招いた要因と言えるが。

 考えの甘さを彼が知るまで、然程時間は掛らなかった。



 翌日。

 早くも勘解由小路紗夜香の土御門神社への奉職が決定された。

 宮司・土御門空夜は、彼女の鎌倉での滞在費用が今以上嵩まない様、配慮したらしい。

 当日の午後、学院の放課後をもって紗夜香は現在までの仮住まいを出て、神社母屋と枯山水の庭を挟んだ道場の一角を襖で仕切り、八畳程のプライベートスペースを確保した。此処で寝起きしながら、学業と神社での奉職に勤しむ生活が始まる。

 当然、食事などは母屋へ集い全員で摂る訳だ。


 バッグ一つ、身の回りの品のみを持ち込んだ少女が、到着の挨拶の為に母屋を訪れ玄関から中廊下へ進もうとした時、阻む者達が居た。


「おまいが新顔の居候デシか?」


「……そういうあなたは…………先輩の居候さん?」


 立ち塞がったのは、生き人形ダイヤ・ランドールとその従者で、同じく生けるぬいぐるみであるスーティーベアのヨシツネ(チャドバレー製)だった。

 ドールはフリル付きの白いエプロンをけ、お玉を携えていた。


「今日から面倒をお掛けします。勘解由小路紗夜香です」


「我が名はダイヤ・ランドール。まあ、分からない事があったら我に聞きやがれデシ。先輩として指導してやるデシ」


「よろしくお願いします」


 彼女は頭を下げた。何より人形や縫いぐるみが言葉を話し、動いている事実をあっさり受け入れ、取り立てて驚く様子は見せなかった。


「丁度これから自家製チャーシューの仕込みをする所デシ。荷物を置いたらそこのキッチンへ顔を出しやがれデシ。お前にもすべて伝授してやるデシ」


「はい」



 2年α組ではクラス委員長の遮那堂かほるが、際坂きわさか怜奈や小鳥遊たかなし恵理子など、今回の件以降も比較的中立的な態度を取り続けている女子生徒数名への申し入れを行っていた。それは今後クラス内で孤立する懼れが充分ある勘解由小路紗夜香と、なるべく積極的なコミニケーションを計って欲しい――達ての要望と言った内容だった。


「お願い! あの子は今、生きるか死ぬかの瀬戸際だと思う」


 これを、手を合わせ伏し拝む勢いで訴える。

 紗夜香を厳しく叱責した委員長自身は出来ない立場。際坂怜奈もそれを認識していた。まず被害者・霧隠彩の手前がある。勘解由小路を嫌悪する女子が大半で、中でも叶仁子、日浦咲からどんな反応があるかも気懸かり。自分までハブられる怖れ。だから躊躇い、即答を避けた。


 小鳥遊恵理子も同様の危惧を抱いてはいたが、やってみる。約束して遮那堂を感激させた。他の子達は、少なくても静観してくれる様自分が説得する。はっきり保障したクラス委員長兼生徒会長の言葉に力を得て。


 教室への電撃復帰を果たした勘解由小路紗夜香。その衝撃も覚めやらぬ内、女子数人が彼女を取り巻く場面が現出し、早速物議を醸す。遮那堂の依頼で行われた事実は、直ぐ様知れた。


「遮那、あんたどういうつもりなんだ」


「咲……。あの時の態度だけを見て、紗夜香の人格を決め付けて否定するのは危険だと思う。事は婚約者が係わる問題だったし…………立場を入れ替えて考えれば、彼女の気持ちが鬼みたいになったとしても無理はない」

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