表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/13

4話 ロナルドからの贈り物

 季節は秋を迎え、風が涼しくなってきた頃――


「また、ロナルド様からだわ」


 嬉しそうに微笑んだヴィオレッタは、窓辺の椅子に腰を下ろし、茶色の小包をそっと開いた。


 結婚してから毎月、邸を空けてばかりのロナルドからは異国製のブレンドティーが送られてきた。“子宝に恵まれる”お茶だそうだ。

 それを、ヴィオレッタは毎日嬉しそうに口にした。


(このお茶のおかげで、すぐに赤ちゃんが来てくれたりして……)


 彼女は「ふふっ」と小さく微笑むと、ふわりと広がる不思議な薬草の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。


「ロナルド様……」


 ヴィオレッタは、小包に添えられた小さな紙の切れ端をそっと指先で撫でた。

 そこには、『私たちの可愛い子ができるように』と彼の字で綴られていた。


『お忙しくても、ロナルド様はわたくしを気遣ってくださる。お優しいあの方のためにも、早くわたくしたちの子どもが欲しいわ……』


 ヴィオレッタは日記を綴ると、メッセージが書かれた紙の切れ端を榛色のリボンで優しく束ねた。そのリボンは、彼から贈られた小包に結ばれていたものだった。


 彼女は、日記帳と紙の切れ端の束、そしてブレンドティーの小包を大切そうに抱き締めると、白いチェストに仕舞った。


「奥様、私たちがやりますから」

「わたくしにさせてちょうだい」


 ロナルドが帰ってくる日。

 ヴィオレッタはメイドたちを下がらせると、寝室に癒しの効能のある香を焚いた。

 そして、上質な肉と新鮮な野菜に、疲労回復に良いとされるハーブを入れたスープを早朝から煮込んだ。

 ハーブは、ヴィオレッタが効能を調べ、自ら庭園に植えて大切に育てたものだった。


「ロナルド様、今日は少しだけお話を――」

「疲れてるんだ。今日は早く休みたい」


 せっかく久しぶりに帰ってきたというのに、夜になってもヴィオレッタに指一本触れずにロナルドは眠りに就いた。

 けれど、彼女は不満げな顔も見せず暖かな微笑みを浮かべた。


 大きな寝台に静かに体を横たえると、傍らの夫にそっと囁く。


「おやすみなさい、ロナルド様。良い夢を」


 柔らかく落ちたヴィオレッタの声に眉をひそめると、ロナルドは愛するリリアーヌを想いながら瞼を閉じた。


(ロナルド様……今夜もこちらを向いてはくださらないのね)


 ヴィオレッタは、彼の背中を見て小さくため息を吐いた。

 彼はいつも、ヴィオレッタに背を向けて眠った。

 それを淋しく思いながらも、ヴィオレッタはただ微笑んで彼を想い、見つめ続けた――


 ◇


 侯爵領の街外れにある、小さな白い邸。

 その邸の庭は真新しい銀色の柵に囲まれ、淡いピンク色の薔薇で埋め尽くされていた。


 邸が夕日に照らされる頃――

 柵の外に馬車が止まり、黒い外套を纏った一人の男が降り立った。

 邸に近付いた男に、門を守っていた騎士たちが道を開ける。


「リリアーヌ、今帰ったよ」

「ロナルド様! お帰りなさい」


 白いドレスの裾を翻して駆け寄るリリアーヌを、ロナルドは抱き締めた。

 黒いフードを下ろして、リリアーヌを愛しげに見つめる。


「リリアーヌ……また庭で私を待っていたのか?」

「はい。リリアーヌはロナルド様に会えるのが待ち遠しくて……」

「馬鹿だな……いつも帰っているだろう?」


 邸とリリアーヌを守るようにロナルドから命じられている騎士たちは、表情を変えぬままで佇んでいた。


 邸の中は、美しい調度品や上質な家具が並び、リリアーヌのためにメイドが数名雇われていた。

 二人は象牙色のソファに腰掛け、寄り添って過ごした。


「リリアーヌ、どうしたんだ……」

「…………」


 「元気がないようだ」と頬にそっと触れたロナルドを、リリアーヌは大きな青い瞳で見上げた。


「ヴィオレッタ様は、伯爵家のご出身なのでしょう? 羨ましいわ……」


 「わたしのお母様も貴族だったら、ロナルド様の花嫁になれたのかしら……」と瞳を潤ませるリリアーヌを、ロナルドは抱き寄せた。


「妻とはただの政略結婚だ。……私のすべてはお前のものだと、いつも言っているだろう?」


 甘く囁いても浮かない顔のリリアーヌを、ロナルドは心配そうに見つめる。


「そうだ……リリアーヌ、何が欲しい?」


 優しく微笑むロナルドを、リリアーヌは澄んだ眼差しで見つめ返す。


「わたしは……ロナルド様がお傍にいてくださるのなら、何も望みませんわ」

「全く……お前はいつもそうだな」


 「よし。私が最高の宝石を贈ろう」と笑ったロナルドに、リリアーヌは小さく微笑んだ。


「……どこに連れて行ってくださるのですか?」

「『アンバー』だ。あの店の宝石は間違いないからな」


 侯爵領で一番だと名を馳せる宝石店の名前に、リリアーヌは少しだけ背筋を伸ばした。


「でも……わたしなんかが……」

「私の愛するリリアーヌには、最高のものを与えたいんだ」


 抱き寄せられたリリアーヌは、ロナルドの胸元に頬を寄せて微笑んだ。

 弧を描いた青い瞳に、彼は気付いていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ