竜狩り(2130文字)
この星には数多くのドラゴンが住まう。
険しい山岳地帯には岩壁のような肌を持ったファフニールが住み、深い海の方では小島にとぐろを巻いて眠るリヴァイアサンが住み、広大な平野では九つの首を持ったヤマタノオロチが住む。
彼らはこの星の頂点生物として、日々悠々と翼を伸ばし、動物たちの命を貪っている。
そんな星で、戦う男が一人いた。
彼の全身は特殊な機構を仕込んだ、機械の鎧で覆われている。背中にはこれまた機械でできた大剣が背負われている。背中のジェットエンジンを使えば、マッハ10の速度で飛ぶこともできるし、全身の電磁バリア機構で、身を守ることもできる。
その中でも特筆すべきは、右腕の腕甲機構だ。それこそが男の最大の武器。
掌のところに透明な結晶体が組み込まれていて、三秒エネルギーを装填することで、川をも干上がらせる素粒子砲を繰り出せた。この砲撃を耐えることは、いかな竜でもありえなかった。
男はこの星で唯一の、竜を狩ることのできる存在であった。
今まで彼が屠ってきた竜の数は数えきれない。彼は遠くの星で『竜狩りの英雄』と呼ばれていた。
遠くの星というのはつまり、この星にはもう、彼以外の人は暮らしていないということだった。はるか昔には農村も田畑もあったのだけど、今となっては廃村だらけ。人々は、夜空の遥か彼方へと移り住んでしまった。放棄された家畜たちは野生化して、いい竜の餌となっている。
それでも彼だけはこの星に残って生活をし、孤独な戦いを続けている。
ひとえに、彼を英雄と呼んでくれる人々のために。
さて、ある日の、夜明け頃。
英雄は潰れた柵と、枯れた畑を踏み越えていく。
今日彼が向かうのは、ヤマタノオロチの住まう平野であった。
まだ住処まで数キロは距離があるというのに、ヤマタノオロチの姿はすでに見えていた。その体長は、首を伸ばせば、二百メートルくらいになるのだ。朝日を九つの影が覆い隠している。
そして、十八の瞳の全部がすでに、近づいてくる彼の姿を捉えていた。
さすがは竜の中でも特に優れた感知能力。眼光は鋭く、この距離からでも赤い輝きがよく見えた。
両者、まだ互いの間合いに踏み込んではいない。しかし、戦いはすでに始まっていた。ジェットを吹かせば、たかがこの数キロの距離、一瞬で詰めることができるからだ。
ヤマタノオロチの方も、死線の気配を感じ取ったらしい。翼骨の浮き出た広大な翼が、背後の山を覆い隠す。男は足を止めた。背中のジェットが、うなりを上げ、火をちらつかせ始める。
命のやり取りが始まる──。
彼は力いっぱいに大地を踏みしめて、大剣を抜いた。そしてジェットが、爆音を轟かせた。同時に、ヤマタノオロチが咆哮した。
まるで炎の翼をはためかせるように、彼は竜の懐へと、豪突するのであった。
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「お待たせしました。メインディッシュとなります、ネックステーキでございます」
地球近郊の高級居住用衛星の、とある三ツ星レストランにて。
ウェイターが上品な小太りの客へ、火加減が抜群のステーキを振る舞った。
客は感嘆の息をもらした。
「ははぁ、これはこれはなんともいい赤身の色だ。これほどまで輝くような肉は、見たことがない。さて、このネック肉の産地はどこであっただろうか」
「はい。木星系衛星地帯5-6番区域、食肉用ドラゴン養殖衛星デルタにて、広大な平野でのびのびと放牧され育った、ヤマタノオロチ種のネック肉でございます」
「あぁ、そうだった。ド忘れしていたよ。この店と言えば、竜肉はそこからしか仕入れないことで、有名であるというのにね」
うやうやしくウェイターは礼をした。
「ありがとうございます。当店のオーナー兼シェフも、強いこだわりを持ってデルタ星の竜肉を仕入れております。その他の衛星の養殖ドラゴンと違い、デルタ星のドラゴンは自然状態に近い環境で育っていますから、やはり、肉が柔らかく旨味も強く……。それに加え、宇宙一の竜狩り職人が手作業で竜を〆ておりますから、業務的に人工衛星からのビームで殺される竜とは、肉の質も違ってくるのです」
「なるほど、なるほど。彼のことは私も聞いたことがあるぞ。確か、食肉竜を〆るところそれ自体も、エンタメ配信として、若者に人気だそうな」
「はい。ちまたでは、アイドルのような人気も得ているそうで……」
上客とウェイターはそんな風に、美食の間の閑話を楽しんだ。
──恐竜の復元遺伝子に、鳥やマンモスなどの遺伝子を掛け合わせ、生み出された新生物、ドラゴン。
最初こそ観賞用の目的で生み出されたわけだが、肉を食べてみると思いのほか味がよく、また勝手に巨大に育つし、肉の獲れる量も多いことから、多くの宇宙畜産企業が、養殖産業に手を出した。もともと農地用だった衛星デルタも、そのムーヴメントの影響を受けて元あった農地や田畑や従業住民を全部他の星へ移して、食肉用ドラゴン専用の養殖衛星へと姿を変えた。
さらに、衛星デルタを所有する畜産企業は、他との差別化のために、職人自らが〆ていることを売りにした。ある国のエリート軍人を『竜狩りの英雄』という広告塔に仕立て上げた。
結果、衛星中継による毎朝の『竜狩りライブ』は、視聴者数数十万人を誇る、大人気コンテンツとなった。
おかげで、デルタ産の竜肉は高く売れる。




