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ラータ星の未来(2348文字)

 ラータ星の原始人たちは、結構すごい奴らだった。


「うーん、物々交換を繰り返すのは、モノがかさばるし、運ぶのが重いし、不便だな。あ、そうだ。後で払うという約束が分かるような、目印を渡し合えば良いのではないか。例えば、絵を描いた粘土玉とか……」

「おお、なんていいアイデア。しかし思ったのだが、絵っていうのは大変じゃないか。『誰が/いつ/どこで』を分かりやすくするには、もっと絵を省略して、ほとんど線の集合体みたいにしてはどうだろうか」

「そりゃ名案だ。なんなら、幾つかの記号を作ってそれを組み合わせることでいろんな意味を表せるようにしてもいいな。……やや、どうしたんだろう。村長の息子が走って来たぞ」

「おーい、みんな聞いてくれ。僕ら親子三代で毎日空模様を記録した結果、ついに分かったんだ。この世は三百六十五日かけて一周を繰り返しているということが。ひとまずこれを『一年』と呼ぼうと思う。そしてすごいぞ、一年の中には必ず雨が降りやすい時期が来るから、これからはもっと簡単に農作物が作れるようになる……」


 ラータ星の原始人は、やんややんやと盛り上がっていた。この星は地球と比べてちょっとだけ気圧が低かったおかげで、進化の途中、脳が大きく育ちやすかったのだ。

 彼らが新人類として文明を起こしてから、まだ千年も経っていなかった。それなのに、田畑は立派に管理され、衣服も住居も整っていた。もちろん、水道だって通っている。ラータ星の未来は明るいと言って、間違いないだろう。


 そんなある日のことだった。


「やや、あれはなんだ」


 ピカピカと、集落の向こう側で輝きを放つものがあった。みんな気になって、行ってみる。するとそこには、一人の倒れている青年。まばゆい光を放っていたのは、彼の着る白いローブだった。


「大丈夫かい」


 村長の息子が声を掛け、肩を叩くと、ぱちりと目が開く。すると白いローブが強い光を放つのをやめた。代わりに、丁度クラゲの傘みたいに、虹色に淡く煌き始めた。


「ああ、失礼。こんなところで眠ってしまっていたようだ」


 彼はむくりと起き上がった。男も女も息を呑むような、美青年であった。


「初めまして。私はサイクと言います。あなたたちはここから少し離れた、エヌ集落の方々ですね」

「なんと。私たちの集落を知っているんですね。うちの集落では、見知らぬ顔なのに……」

「はい、集落どころか、皆さんのことも、知っております。あなたの名前はコルマさん、その後ろがイタマさん、その隣がカールさん……」

「ええっ、なんで分かるのだ」

「私が、皆さんのもとへ、『大事な教え』を届けに来たからですよ。天からの教えを」

「天って、どこのことだ」

「もちろん、神さまの住まう場所です」


 エヌ集落の人々は、呆気にとられながらも、サイクの言葉に聞き入った。突拍子も無い話だったけれど、彼の声音には人を惹きつける響きがあり、不思議とすんなり頭に入ってくる。彼がひととおり天国のことについて話した後にはもう、皆サイクのことが好きになって、もっと話を聞きたくなっていた。彼らはサイクを集落に案内する。

 集落に着いた後、「ああ、病人の声がする。ちょっと寄らせてくださいな」と言ってサイクは、集落の端っこのみすぼらしい家に向かった。その家には、本当に病気にかかった女性がいた。


「サイクさん。いったいどうするんです」

「もちろん、この苦しみを取り除くのです」


 そういって、サイクが彼女の口元に手をかざせば、病気はたちまち治った。


「すごい」

「なんの、これくらい」


 そして、病人の夫がせめてものお礼にと綺麗な水を振舞えば、「いえいえ、とんでもない」と言ってからコップに手をかざす。「どうぞ、病気が治ったお祝いにお飲みください」といって病人に渡し、飲ませると、病人は目を丸くした。


「なんて美味しい。ぶどうジュースの味がするわ」

「ええっ、そんなはずが」


 サイクについてきた人たちも、気になってコップを貰い、その透明な水を舐めてみる。

 すると確かに、ぶどうジュースの味がする。

 もう、誰もサイクがただものじゃないことを疑わなかった。

 ずっとサイクの隣にいた村長の息子は、目をキラキラさせながら、床に片膝をついた。


「これまで失礼しました。サイクさん……いや、サイク様。あなたは間違いなく、あなたのおっしゃる『天の国』から来られた方だ。私は感服しました。ぜひ、私も天の国に行きたいと思う。それで、サイク様……あなたが初めにおっしゃられていた、『大事な教え』とはなんですか」


 この言葉を言い終わらないうちに、続々と周りの者も、床に片膝をついたり、座ったり、サイクに敬意を示した。

 皆の視線が、一身に注がれる。

 それに動じることもなく、サイクは美しい笑顔を浮かべながら、こういった。


「それはたった一つ。『()()()()()()()()』です」


 **


 同時刻、ラータ星の遥か遥か上空──つまり、宇宙空間にて。

 一隻の宇宙船が、静かに浮かんでいた。

 コックピットの中で、二人のエージェントがモニターを見つめている。


「よし、『異星人懐柔用ロボット:sic』は、ちゃんと動作していますね」

「うん。『文明停止プロトコル:宗教の自由』も、上手く広めてくれているな。あと数世紀もすれば『反出生教』が各地に広まり、ラータ星の人類は平和的に滅んでくれるだろう」

「いやぁ、それにしても賢い奴らでしたね。千年後くらいにはもう、宇宙に進出してきそうな気配さえあった」

「ああ。まったく、宇宙人権保護団体がうるさいせいで武力制圧できないのが、歯がゆいよ。しかし、これは遥か未来への投資だ。地球の脅威となりうる宇宙人にはゆっくり平和に滅んでもらい、その後ラータ星に残った資源は、我々の子孫が有効に活用する。すべては、地球だけが輝かしい未来を手にするために必要なことだ……」

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