五月病(1183文字)
彼は、ひどくくたびれた顔で話し始めた。
「五月がくると、憂鬱になるんです」
「ほうほう」
彼は、大きなため息をつく。
「やっぱり、僕の根が暗いからなんでしょうか。五月になって、カラッとした空が広がるたびに、ああ、僕とは正反対だ。みんな、このような天気が好きなんだろうなぁ……と思うのです」
「なるほど」
彼は、疎ましそうに快晴の空を見上げた。
「春のうちは、まだいいんです。桜が咲いたりする頃であれば、空の晴れ方も、なんというか柔らかいし、僕も素直に綺麗だなと、思えるのです」
「そうかい?」
「ええ。暑くなってくるのが、僕にとってダメなのでしょうね。実は僕、一番好きな季節は冬なのです」
「へぇ、そりゃ意外だ」
彼は、ちょっと嬉しそうな顔をした。
「そうでしょう。でも、理由はシンプルなんです。降りしきる雪なんかにこそ、僕はもっとも共感を抱くのです」
「ははあ。そう聞くと、納得できるな」
「ありがとうございます。やっぱり寒い方が、世界がしんみりしますからね。けれど、周りの友達に言えば、そんな雰囲気が好きだなんて、変なやつだと馬鹿にされる」
「君の友達ならそうかもしれないね」
彼は、何度も頷いた。
「悲しいことです。でも本心なんですよ。爽やかな五月は、僕の肌に合わないんだ。ああ、早く過ぎ去らないだろうか。もしくはもう少し、五月の疎ましさに、共感してくれる人が増えないだろうか……」
「五月病という言葉もあるし、結構いるんじゃないか」
彼は、少しムッとした。
「それとこれとは話が違いますよ。僕が言いたいのは、立場としての話で──」
その時だった。
「……やや、あの影は。おーい!」
「げっ」
彼は、片眉をひきつらせた。
「やあ、奇遇だね。二人が一緒だなんて、珍しいじゃないか。何を話し合ってたんだい?」
「いやね、彼が──」
「ああ、ちょっと!」
「彼が──ぜひ、君ともっと仲良くなりたいと言っていたんだ」
「……は?」
彼は、目を丸くした。
「本当かい? なんだよ、照れくさいな。今だって兄弟みたいな仲だってのに、これ以上なんて、嬉しいね」
「いや、ちが……」
彼は、否定しようとするのだが、すぐ肩を組まれたために強くはねかえせない。
「そうだ! 近くに、また新しい台風の卵が生まれたんだ。一緒に見に行こうよ。生まれたての台風の大雨、君も好きだろ?」
「それは、そうだけど……」
「よし決まり! それじゃあ、四月はどうする?」
「いや、私は遠慮しとくよ。そろそろ、北まで行って、桜の片づけをしなくちゃならない」
「そうか。じゃあここでお別れだね。頑張って!」
「ああ」
「ちょっと、肩から、手を離せ、ってば……!」
仲睦まじそうに六月をひっ連れていく五月の背を、四月はのんびりと見送った。
六月はああいっていたが、いやよいやよも好きの内という言葉もある。
きっといつか、仲良くなれる日がくるだろう。
四月馬鹿という言葉もある通り、四月は楽観的なのだ。




