宇宙難民(1828文字)
二十二世紀の地球。
ある朝、雲の切れ目から巨大な影が降りてきた。静かに宇宙船が現れたのだ。
最初の交信は礼儀正しかった。代表者が名乗り、故郷の星で起こった紛争と荒廃を淡々と述べてきた。乗員には子供も多いということを教えてくれた。
要件はシンプルだった。難民として、地球に住まわせてくれないかというものだった。
国際連合は臨時会合を開いた。議題はもちろん、受け入れるか否かというところだった。けれど意外なことに、反対は少なかった。むしろ各国の発言は前のめりだった。
「ぜひ我が国で受け入れたい」
「港も住宅も用意しますよ」
「地球文化を学ぶ、教育の場だって設けましょう」
是非を決めるどころかどこが受け入れるかまで議論は発展して、事務局も議事録を取るので手一杯だった。
やがて、代表同士の会談が組まれた。
国連議長と、各国首脳がマンハッタンに揃っていた。
会議の場は色とりどりの国旗で飾られ、心からの歓迎を示していた。各国代表も微笑を揃えていた。だからこそ、宇宙人代表の一行は首をかしげた。
「失礼ながら、こちらに来る前に地球の歴史を調べました。移民や難民の扱いは、どの国も苦心されてきたはずだ。なぜ、我々にはここまで寛容で、迅速なのでしょうか」
国連議長がまとめて答える。
「宇宙航行の経験や、未知の知識。あなたがたから学ばせていただきたい点は非常に多いのです。ぜひとも、それを共有させていただきたい」
そして議長は、言葉を選ぶように小さく咳払いをした。
「それから、もう一つ。直感の話になりますが……皆さんの顔つきを見たときに、きっと友好的な関係を築けると思ったのです」
各国代表も、噛みしめるように頷いた。その後、議長の視線が、来訪者代表の頭部にごく短く向いた。記者たちはメモを取り、通訳は淡々と訳した。
来訪者はしばし沈黙し、やがて頷いた。
「なるほど、理解しました。地球の皆さまは、直感を重んじていらっしゃるのですね」
それから、手筈は素早く整った。難民たちは、歓迎の意思を示した先進国のいくつかに分かれて移り住むことになった。各国は自国の港の一部を改築して、国際保護区に切り替え、無償の専用住宅も用意した。宇宙難民用の特別学校も建設。観光庁はこぞって宇宙人居住区への訪問イベントを打ち出し、一般層との文化的交流も深めようとする。
たとえ居住区へ入れずとも、連日、宇宙人さんたちを一目見ようと、近隣地域に多くの人が訪れた。
宇宙人居住区近くの空港の売店には、新商品のアクセサリーが並ぶようになった。
それは小さなリングの上に三角形が二つ並んだデザイン。色は各国の国旗に合わせられていた。
そして、しばらくの月日が経った。
来訪者たちは、地球の空気が思いのほか心地よいことを知った。居住区はもともと港だったおかげで、風は良く吹いて清々しい。食べ物だって口に合った。特に、地球の海産物は絶品だ。
ほんの少しネックなのは、地球人たちの訪問イベントくらいだ。やけにキャーキャー言って喜んでもらえるのだけど、ちょっとだけそのキンキン声が耳障りだ。
しかし、難民として受け入れてもらった以上、どこかで妥協すべきところがあるのは、宇宙人たちも承知のうえだった。宇宙からやってきた彼らの文化には『足るを知る』という精神があり、毎日ある程度穏やかに過ごせるのであれば、それでよかった。
来訪者の子供たちもやがて土地に慣れたようで、今では元気いっぱいに居住区の中で遊び回っている。一方で大人たちは港の手すりに手をかけて、遠くを眺めながらのんびり過ごしている。彼らは人間と違って、あまりあくせく働こうとしない。
先行きがどうなるかは分からないけれど、どうにかなりそうだという予感を来訪者たちは抱いていた。ありがたいことに、地球人たちは献身的に、生活を助けてくれるわけであるし。
湾内に停留させてもらった巨大な宇宙船の影が、波の合間になじんでほどけていた。
さて、世界中のネットではとある話題が毎日のトレンドを席巻していた。
ニュースサイトは、各国同じ見出しをトップに並べる。
話題を調べる者が辿り着くのは、決まってこの一行だった。
”『ネコミミ宇宙人が地球に来訪。世界中で誘致合戦が激化』”。
『──可愛い!』
『──ぜひ会いに行きたい!』
『──いいや、彼らは静かな生活が好きらしい。それを尊重すべきだ!』
『──彼らの幸せな生活のためなら、僕の一生分の税金を使ってもらって構わないね』
そんなコメントが、ニュースのコメント欄を埋め尽くしていた。




