表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/52

雨乞いの巫女(1421文字)

 ときは古代。人々がまだ、藁葺きの屋根の下で暮らしていた時代。

 現代では信じられないだろうが、この時代には本物の雨乞い師がいたのだ。

 ──さて、名梨(ななし)村というある小村が、長い間雨に恵まれずにいた。


「こんままじゃ、作物が全部枯れちまって、そのうちみんな飢え死にしちまう」

「んだんだ。ちっと高いが、上等なお布施を用意して、遠くのミヤコ山から雨乞いの巫女様に来ていただくしかねえ」


 んだんだ、と村民の意見が一致した。

 村で一番の織物と、あるだけの銅貨と、珍味の数々を持って、使いがミヤコ山へと向かった。

 その二日後、村の使いは、雨乞いの巫女様と、その従者たちを引きつれて帰ってきた。


「みんなぁ、よろこんでけれぇ。うちの村の惨状をおつたえしたら、巫女様たち、すぐかけつけてくれたぁ」


 わっと村民が湧く。

 まるで天女のような召し物を着た巫女様は、あくまでも謙虚に頭を下げる。


「私は雨神様の思し召しを、ただ皆さまに施すために生きている身。お困りとあらば、いつでも馳せ参じます」


 そうして、さっそく雨乞いの儀式が始まった。従者たちが儀式の場を整えたあと、菖蒲の葉を編んだ仗を振って、その真ん中で巫女様が舞い踊る。その舞はまさに優美で、天におわす神も、きっと見惚れるだろうと思われた。

 舞が終わった。


「あとは、雨神様の恵みを待つのみであります……」


 村人は固唾を飲んだ。空はまだ青く、高く日が照っていたからだ。

 しかし、その中の一人があっと声を上げた。


「あっ、見ろお」


 指さす先はなんと、ミヤコ山の向こうの空。そこから、灰色の雲が昇ってくる。


「ああ、間もなくでございます」


 巫女様が呟いた。村人たちは轟くような歓声を上げた。

 雨雲が村へ届くのを待つ間、村人たちは巫女様へ感謝を述べつつ、更なるもてなしの席を用意した。

 そしてとうとう、日の傾くころには雨が降り出した。


「なんとお礼を言えばいいのか。巫女様、これで村は助かりました」


 雨が降るのを見届けたあとの別れ際、老村長が巫女様の手を固く握り、頭をたれた。

 巫女様はやはり謙虚に首を振った。


「これこそ、雨巫女の本望でございます。また用があれば、いつでも呼んでください」


 村人全員の涙を背に、雨巫女様の一行は村を後にした。

 それから──村が見えなくなった、ミヤコ山へと戻る最中の、道すがら。

 従者の傘の下で、雨巫女様がいう。


「二の月の──十八の日。名梨村にて、夕の刻、雨。秘伝の台帳に、記して置いて頂戴ね」

「はい、姉さま」


 従者は、懐から小さな手帳を取り出して、器用にメモを取る。

 もう一人の従者が、雨巫女様へ耳打ちする。


「それから──もう一件入っていた雨乞いの申し出──江縫えぬ村についてですが、こちらは秘伝台帳を確認すると、過去五十年……一番雨降りの日が重なったのは、二の月の、二十五の日にございます。ミヤコ山からはせいぜい一日で着く距離ですので、他方の用事があるのだと適当に理由をつけて、来訪を遅らせております」

「ありがとう。まったく……名梨村はこれだけ遠いのに、今日が過去五十年で最も雨の降りやすい日だったから……急がされてしまったわ。次のところへはしっかり休んでから、ゆっくり向かうことにしましょう」

「はい、姉さま」


 古代、本物の雨乞い師はたしかに存在した。

 そこには、門外不出、一子相伝の秘術が存在する。

 それは毎年、各地方の気象状況を記録し、蓄積することであり、それらから降雨パターンを読み解き、もっとも降りやすい日に合わせて、村を訪れることであり……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ