怠惰(1052文字)
あるところに親の脛ばかり齧る怠け者がいた。
彼はもう、大人になってからずいぶんと経つ。それでも、生まれてこの方、働いたこともなければ、誰かのためになることをやったこともなかった。
じゃあこんな大人になってしまうまでに、なにか同情を誘うような過程があるのかといえば、別段何もない。ただ彼が、度の過ぎた面倒くさがりだったというだけだ。
学生時代はゲームをしたいがためにまともに学校もいかず、退学になった。それからずっと引きこもって、毎日布団の上から動かずゲームをして、これまでを過ごしてきた。
家族からも見放されて、しまいにはこのように、ごくつぶしとなり果てたわけである。
ある深夜のことだ。
それは窓の向こうで、美しく星の輝く夜だった。
流石の怠け者も気分が良くなって、窓を開けて夜風を浴びながら、いつものように夜更かしをしていた。携帯機でやる、対戦ゲームに熱中する。
そのとき、彼の視界の端できらりとなにかが光った。なんだと思って見上げてみれば、たくさんの流れ星が降り始めている。彼のようなごくつぶしにも、息を呑ませるような絶景であった。
そしてふと、彼は傲慢にも思い立った。
流れ星に願い事をしてみよう、と。
こんな生活をしていて、まだ何を望むのかと言いたいところだが、怠け者には怠け者なりの不満があるらしかった。
たとえば、たまに風呂に入らないと体がかゆくなること。それから、いちいちトイレに立つのが面倒なこと。最近で言えば、家族の冷たい視線も鬱陶しいこと。
ああ、ただただ毎日、ゲームだけしていられればなぁ──彼はそんな不満を持っていた。
だから彼は、気紛れに、流れ星に頼むことにした。そのすべてを解消できる願いを。
すると、偶然にも大きな彗星が、とてもゆっくり尾を引きながら、夜空を流れ始めた。十分に、願いを三回唱えられるスピードだ。
彼は、自分のツキにつくづく感心した。これまでまるで苦労してこなかったのに、まさかこんな幸運も引き当てられるとは。だからこそ、まさかとは思いつつも、なんだか本当に願いが叶う気がした。
そして彼は、不格好にも胸の前で手を組み、声に出して願った。
「どうか、もう一生動かずに生きていけますように。どうか、もう一生動かずに生きていけますように。どうか、もう一生動かずに生きていけますように」
そしたら、流れ星がきらりと光った。
怠け者はハッとした。なんだか、理屈で説明できないような予感が、体の中を駆け巡ったのだ。
そして次の瞬間、怠け者は家の屋根を突き破って、夜空へと吹き飛んでいった。
地球は、自転している。




