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文化保護の観点から(2091文字)

 鋼鉄の船が、暗い宇宙の中に浮かんでいる。銀河帝国エックスの精鋭部隊が、太陽系まで調査に来ていた。地球からでも望遠鏡を使えば見える位置にあったが、そこは銀河帝国の技術力。高度なステルス技術によって、普通のレンズでは見えない仕様になっていた。

 宇宙船のコックピットには、ところせましと操作設備が並んでいる。座席は二つあって、二人の乗組員がいろんなレバーやらボタンを操作していた。望遠カメラや座標スキャナーを使って、太陽系周辺を解析しているのである。

 エージェントCが、コックピットにて言った。


「やっぱり、太陽周辺を破壊するしかありませんね」


 モニターに映っているのは、太陽系を横断するように敷かれた、巨大なレールの仮想イメージ図。エージェントBも言った。


「そうだな。Ω-102銀河方面への、超高速ワープ経路を作るためには、どうしてもこのあたりを通らなきゃならない」


 エージェントCは先輩の言葉を聞いて、ちょっと申し訳なさそうに呟いた。


「となると、太陽付近に存在するあの地球という星も、壊してしまうことになりますね。あの星には知的生命体の生存が確認されています。一方的に消すことになると、心が痛みますね……」


 エージェントBのため息にも、同情と共感が込められていた。


「仕方ないよ。上からの命令なんだから。銀河開拓法の第五条、第六項において、宇宙間文化レベルが5に満たない星の占領・破壊は無許可で行ってよいとされている。地球の推定文化レベルは2だ。可哀そうだが、我らが銀河帝国の発展のため、犠牲となってもらうほかない」

「そうですね……苦しみがないのが、唯一の救いか……」


 エージェントCは、億劫そうにしながらも、操縦席の引き出しからカギを出した。

 そのカギを、操作盤の中のある鍵穴に差す。するとフタが開いて、新たなタッチパネルが現れる。エージェント二人が、二重認証の暗唱番号を入力した。すると、タッチパネルの表示が切り替わる。

『亜光速粒子砲を起動しますか?』

その文字列の下に、『起動』と『中止』のボタンが表示された。

 太陽系くらいちっぽけな惑星系であれば、彼らのステルス宇宙船一隻で、すぐ消滅させることが可能だ。銀河帝国に帰るためにより正確な座標データが必要なことだし、今すぐ太陽系を消した方がよかった。

 エージェントCは、ため息にも似た、大きな深呼吸をおこなった。

 エージェントBも言葉を発さず、粒子砲発射の瞬間を待った。

 二人とも、黙とうを捧げる心構えはできていた。

 そのときだった。

 この船のリーダーである、エージェントAが焦った様子で駆け込んできた。


「おーい、中止だ。中止!」


 エージェントBとCは驚いたが、命令通り、すぐ『中止』ボタンを押した。

 太陽系消滅が、指先一本分の距離で回避されたわけである。

 さて、太陽系の危機が去ったところで、当然エージェントBが問いかける。


「いったい何故です。上層部からも、あの文化レベルの星なら、即刻破壊して構わないと通達が出ていたはずです」


 エージェントBが聞くと、エージェントAが息を切らしながら首を振る。


「いやあ、ぬかったよ」


 そして笑った。


「我ら銀河帝国精鋭部隊の、教養が足りなかったのだ」


「どういうことですか?」とエージェントCが訝しんで首を捻る。

 エージェントAが逆に問い返す。「我らが銀河帝国の、友好惑星として存在する、小国家エスのことは知っているかい」、と。

 エージェントBが数秒考えたのち、思い当たった顔をした。


「ああ……あの未だに原始的な生活を重んじる、独特な星のことですね」

「そうだ」Aが頷く。


「我らが銀河帝国の援助を全く受けず、自然豊かな星で科学と距離を置いて暮らす……原子民族の国だ」


 ここで、エージェントCが小さく手を挙げた。


「そして、科学を持たない希少な文化ゆえに──文明レベルが0に等しいながら、我らが銀河帝国の特別保護指定と、不可侵条約が結ばれている──あのエス国ですよね。その星が、いったいどうしたと言うのですか」


 話が早くて助かるCとBに、Aは苦笑いを浮かべた。


()()だよ」


 Aは腕を組んでコックピットの向こう、赤く光る太陽を眺めた。


「エス国で最も大事な、『星座崇拝文化』において……あの太陽は、『かみさま座』の、右手の位置に当たる星だったのだ。本部のオペレーターの一人が無類の星座好きで、すんでのところで気づいて、連絡してくれたわけだ。もし気づかなければ……我々は小惑星文化保護団体から、『文化破壊だ!』と糾弾されるところだった」

「あぁ、クレームをつけることにだけは一丁前な、あの団体ですか……」


 エージェントBもその真相を聞いて、苦笑いした。

 文化保護団体は、いつだって政府の目の上のたんこぶなのだった。自然豊かな暮らしをする小惑星エスは彼らにとってのアイドル的存在だから、もし至らぬことをしたら、どれほど批難を浴びせられるか、想像もしたくない。

──そのため、太陽系の破壊は取りやめとなり、十分に距離の取られた迂回路が取られることとなった。

 宇宙船は銀河帝国エックスへと引き返していった。

 当然のことながら、宇宙の遥か彼方に存在する小惑星エスは、地球から見えない。


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