〈寂しい〉殺人事件(1133文字)
昨夜、〈寂しい〉が何者かによって殺害された。被害者の性格上、関わりのあった容疑者が多く、捜査は難航している。
〈疑い〉警部は、まず〈怒り〉に取調べを行った。
「お前がやったんじゃないか、〈怒り〉。奴からはよく、『寂しい、寂しい、私も喜怒哀楽の仲間に入れておくれ』、と頼み込まれていたんだろう。とてもしつこくな。お前らしく、ついカッとなってやったんじゃないのか」
〈怒り〉はカッと目を見開いた。
「バカ言うんじゃねえ。確かに俺はすぐ頭にくる性格だが、そういうときは本人に直接気持ちをぶつけるぜ。アイツは度が過ぎるくらい、人懐っこいだけだったってことを、俺は知ってる。くそ、まさか殺されるなんてな……腹が立つぜ……」
警部は、む、と口をつぐんだ。
「確かに……お前は〈喜び〉、〈哀しい〉、〈楽しい〉とつるめるような、柔軟な奴だったな。凶行には及ぶまい……」
「ふん」
〈疑い〉警部は〈怒り〉を捜査線上から外した。
次に取り調べを行ったのは、〈憎い〉だった。
「お前がやったんじゃないか。喜怒哀楽たちと同じくらい、お前は有名なやつだからな。寂しがりの〈寂しい〉は、有名なやつと仲良くしたがるところがあった。たとえば、〈怖い〉、〈苦しい〉……そしてお前、〈憎い〉だ。特にお前と〈寂しい〉は、一緒にいるところをよく目撃されている。奴が『一緒にいてくれ』と言って、お前が『うっとうしい、どこかへ消えろ』と罵る、そんな光景を私でも見たことがあるぞ。さて、どうなんだ」
〈憎い〉は、凶器のように鋭い目つきで、疑い警部を睨んだ。
「俺があいつを殺すだと……? あんたを殺してやりたいくらいに思うぜ、警部。確かにあいつのふるまいは憎たらしかったが、俺にとっては、アイツだけが唯一、俺なんかと一緒にいようとしてくれる奴だった。あいつが俺の一番近くにいたから、俺の憎しみはあいつにばかり向かっていた。これからは、他の奴らに俺の憎しみが向くだろう。すると俺はより嫌われて、俺の憎しみはより強くなる……。ああ憎い……犯人が憎いぜ……」
そして重い沈黙に至った〈憎い〉を、〈疑い〉警部はもう問い詰めることができなかった。
「さて、残る容疑者は〈嫌い〉くらいだが、〈好き〉とずっと一緒にいるあいつに、殺すのは難しいだろうからなぁ……」
警部は頭を抱えた。動機があり、アリバイのない容疑者に見当がつかない。もちろん、〈寂しい〉と犯人はある程度親しい関係にあったと思われるのだが……。
「あっ!」
そのとき、〈疑い〉警部は閃いた。
何故気づかなかったのだろう、いるではないか、奴が。
その二日後、事件は急展開を迎えた。
取調室にて犯人が、自白したのである。
「淋しかったんです。双子のような存在だったのに、あいつばっかり有名になっていくのが……」




