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ある芸術家の嘆き(841文字)

 ある芸術家の魂が、死してなおもこの世に残り続けていた。


──ああ、なぜ誰も私の芸術を理解してくれないのか!


 幽霊になっても、自分のアトリエだった場所にとどまりながら、毎日嘆いていた。

 彼が死ぬに死にきれない理由は、シンプルだった。

 彼が人生を費やして描いた最高傑作が、まだ後世に見つかっていないからだ。

 その大作は、アトリエの奥の奥の部屋にあった。けれど、度重なる地震や、アトリエの老朽化のせいで、そこへ至る道は閉ざされてしまったのだ。

ちょうど外から見ても分からないぐらい、上手い具合に隠れてしまったものだから、いまだ、誰にも発見されていない。そして皮肉なことに、彼が習作として描いた画の数々はすでに発見されており、『なんて素晴らしい画だ!』と評価されていた。

 彼の口惜しさったらなかった。


──あんな習作を、私の本気だと思われては困るのだ!

──もっと繊細で、壮大な画が、この奥にあるのに!


 芸術家として、当然の悔しさだった。

 習作だけ見るためにアトリエにやってきては帰っていく観光客たちを、幽霊として彼は毎日眺めていた。そのたび唇を噛み切りたくなるほど悔しかった。

 そんな次第であったから、彼が成仏できないのも、無理はなかった。

……ほら、また今日も。

習作目当ての団体客がやってきた。

 自分の声が届かないことなんて知ったうえで、彼は今日も必死に叫んだ。


──なぁ、気づいてくれ! その画なんかじゃないのだ! もっと素晴らしい作品が、君たちからあとほんのちょっと離れた場所に、あるのだ!


 でもやっぱり、声は届かなかった。

 悲しき芸術家の嘆きを知らないまま、団体を引き連れてきた案内役が、得意げに言う。


「さぁ皆さん、ご覧ください。実際に目の当たりにすると、すごいでしょう。これこそ世界遺産にもなっている、古代洞窟の壁画でございます。この躍動感あふれる、荒々しい馬のタッチ……。間違っても、子供みたいな画だと思っちゃあいけませんよ。何千年も前に、こんな画が描ける芸術家がいたということが、素晴らしいんじゃないですか……」


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