免罪符(860字)
昨今、教会の腐敗が進んでいる。
たとえば、免罪符。お金を払ってこれを買うことで、今までの罪が許されるというシステムだ。最初こそ資金繰りに困った教会が苦し紛れに発行したのであるが、これが儲かると知られてからは、続々と他の教会も真似するようになった。
このエヌ教会も例にもれずであった。免罪符の噂を聞きつけたあるシスターが、さっそくうちでも発行しようと、教会の皆に持ちかけた。このエヌ教会は国の中でも都会の方に建つ、由緒ある教会だから、免罪符の需要は高いと見えた。やはり、神に忠誠を誓ったといえど、結局は人の子。「うちが始めれば、他よりもっと儲かるのよ」。そう聞くと、今まで敬虔だった神父やシスターたちも、賛同してしまうのだった。
そして、皆が免罪符の準備を始めようとしたとき──「馬鹿者!」と教会の中に一喝、大きな怒声が響いた。
皆が声の方を見やれば、教壇にて、言い出しっぺのシスターを、この教会で一番位の高い神父が叱っていた。
彼は、誰もが認めるほど頭の良い神父だ。神学校も首席で卒業している。聖書の一言一句を諳んじることができるし、哲学、理数学に対する知識も深い。だから、信者からの評判もすこぶる良い。
そんな彼に言わせてみれば、『免罪符』というシステムは非常に馬鹿げて見えたのだろう。「そんなものを発行しようとするとは、なんと愚かな」という怒声が、教会の聖堂中に響いてくる。怒られているシスターはもとより、声が届く他のシスターや神父たちも、身を縮こめた。
さらに、かの神父は怒鳴り続ける。
「なんて、もったいない稼ぎ方だろう。そんなやりかたではなく、宝くじのようなシステムで販売するべきじゃないか。そうだ。一回あたり、銀貨一枚くらいの値段にして、百回に一回くらいの確率でしか、免罪符は出ないようにするのだ。『あなたは神の思し召しに恵まれたのだ』とか言ってな。外れくじには、あまった聖書やら、讃美歌の歌詞カードなんかを渡せばいい。そうした方が、信者ももっと金を落とすだろう。何故お前たちは、こんな簡単な稼ぎ方さえ思いつかないのだ……」




