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たこ焼き(1946文字)

「タコが高すぎる」


 20XX年。ある大阪人がそう呟いた。

 他の大阪人も、みな同じことを考えていた。

 大阪のソウルフードたる、たこ焼きの価格は現在、かつてと比べて二倍、三倍と上がっていた。たこ焼きは大阪の魂と言えるが、安くて美味いものを求めるケチ根性も、また大阪の魂。このままではたこ焼きが大阪人たちの心から離れ、『全大阪府民世帯たこ焼き機一台所持の法則』が、崩れてしまいかねない。

 ときの大阪府知事は考えた。


「たこ焼きは大阪の不滅の伝統だ。どんなに予算を使っても、守らなければならない。けれど、大金を使ってただ海外産のタコを買い占めるだけじゃ、その場しのぎなだけだ。恒久的に安いたこ焼きが提供できるようにするならば、国産養殖に力を入れるべきだ……」


 そう思って、府知事は大阪大学に勤めるなじみの天才生物学者に話を持ちかけた。

 その生物学者も生粋の大阪人であった。一も二もなく、府知事の思いに共感してくれた。


「まったくです。たこ焼きのない大阪なんて、大阪ではないですからね。ええ、私も全力をもって、その養殖プロジェクトに協力しますよ。そしてですね、府知事。生命力があって、味がよくて、育てやすくて、繁殖力も強いタコなんていうのは、実はこの二十一世紀の科学力があれば、作れんこともないのですよ。しかし……実際に作ろうとすると、法律が邪魔になるわけです。遺伝子編集規制うんぬん……とかね。だから我々も、今まで実行に移せなかったのですよ……」


 生物学者が困った顔をすると、府知事は有無を言わさぬような力強さで、答えた。


「ええ、この際、ちょっとくらい法律なんて無視しましょう。この計画の本懐は、大阪に生まれ、大阪に育った大阪府民たちなら、理解してくれるはずだ。大阪には、政界、経済界、産業界、様々な業界の、重鎮たちがいる。そんな彼らにも協力を仰ぎ、みんなで口裏を合わせれば、超法規的なタコ養殖プロジェクトだって、大阪の外の誰にも知られないように進めることが、できますよ」


 そう言って、府知事は生物学者の肩を力強く掴んだ。生物学者もまた、晴れやかな笑顔になった。


「なんて心強い。府知事がそうおっしゃるなら、私も遠慮なく、究極のタコを作れますよ。一世代ごとに倍々ゲームで数を増やしていくような、大阪の魂を守るタコをね。ああ、楽しみだなぁ……たこ焼き六個入りが百円で買えるような時代が、戻ってくるのが……」


 府知事と生物学者は固い握手を交わし、次の日からすぐ、究極のタコ養殖計画が始まった。

 その計画に関わったすべての大阪人が、秘密を守り、全力で協力した。


 **


 ときは、はるか、はるか、未来のこと。

 かつて大阪府庁舎があった場所に、今この時代では、かの20XX年の大阪府知事と、かの天才生物学者の銅像が、並んで建っている。

 あれから二人は、究極のタコ養殖計画を成功させたのだ。錚々たる大阪の有力者たちの力を借り、さらには並み居る大阪庶民たちの助力もあって、大阪湾に巨大なタコ養殖場を建設し、タコの供給量を最も落ち込んでいた時代の十倍にまで跳ね上げた。たこ焼きは夢の六個入り百円どころか、十二個入り百円で提供されるようになった。そのころにはさすがに、超法規的にタコの遺伝子編集をやったことが全国にばれていたのだけど、お詫びとしてタダ同然で全国に真ダコを供給したから、なんとか許してもらった。

 そして後世、二人の功績が讃えられ、立派な銅像を建てられるまでになったのである。

 ある親子連れが、その近くを通りかかった。

 娘の方が、銅像を指差す。


「ねえママー。あれはなにー」

「あれはねえ、えらい人だよ。昔、とても賢いタコをつくった、すごい人なの」


 母は答えてあげた。すると、娘は眉をひそめる。


「えー、えらい人なのー? 怖い人じゃなくてー?」


 娘はちょっと怖がったように、母の後ろに隠れる。母は微笑みながら、小さく首を振る。

 実は、母親は大学時代に歴史学を専攻していた。そのため、はるか昔の大阪府知事たちの功績について、造詣が深かったのである。


「実はね、あの人たちのおかげで、私たちが生まれたとも言えるのよ。大昔に私たちを食べていた種族でもあったし、ちょっと前まではとても憎まれていたから、怖いと思うのも無理ないけど……最近では功績が見直されてきているわ。お母さんも、あの人たちには感謝すべきだと思うの。食べるためとはいえ、私たちのために全力を注いでくれたことは本当よ……」


 娘の方は、わかったようなわかっていないような感じで、「ふーん」とだけ呟いた。

母親の方は、つい語りに熱が入ってしまった自分に苦笑しながら、いつか娘にも、私たちの歴史を深く学んでほしいなと願った。

 それから母親は、娘の触手をさりげなく握った。娘の方も母のあたたかい触手を、ぎゅっと握り返した。


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