第58話 メモリーズ・カスタム-2
——うーん。
僕は休憩スペースに飾られた絵を見ながら、ここ一ヶ月くらいの出来事を思い出していた。全てはこの絵が見せた幻想なのか? 頼むからどうか教えておくれ。
「なによ、こんなところで」
「なっ!! ビ、ビッグボス?!」
「そんなにビックリすることないでしょう? そんな鬼を見たみたいに……」
「い、いや、鬼なんてそんな! どっちかと言うとサンタというかーそのー。ほら、今日はクリスマスですよ! 節分じゃないんですから」
「何? 二月の節分の時期だったら、鬼に見えるとでも?」
「違いますって! とにかく! 急に話しかけられたからビックリしただけですよ!」
「ふーん。まぁいいけど。タテノもこの絵良く見るの?」
「え、ま、まぁ。見るというか、入ったと言うか……」
「入った? どういうこと?」
「いや、なんでもないです……」
僕はしどろもどろになってしまっていた。そして、ビッグボスが仕事後に残るように言っていたことを思い出した。まずい、これも怒りの材料になるんじゃないのか。心配になった僕は少しだけ探りを入れてみる。
「ち、ちなみにービッグボス? 今日残ってくれって話らしいですけど……。どんな話ですか?」
僕は恐る恐る聞いてみる。しかし、ビッグボスはそんな僕を見て、にっこりとした笑顔を見せてきた。
「ふふふ。それは……まだ秘密でーす!」
「え、秘密?!」
「うん、秘密! 残ってみてのお楽しみと言ったところね」
いつになく嬉しそうに笑うビッグボス。僕はこれが良いことなのか、それとも悪いことの前兆なのかを測りかねていた。もしかして怒られないのか? いや、とびっきり怒る前におかしくなって笑ってしまっている状態なのか。
「まぁ、それはいいとして……。はい! タテノ、これあげるわ」
笑っているビッグボスに戸惑っていると、ビッグボスは手帳から何かを取り出して僕に渡して来た。
「これは……?」
「タテノ、うじうじとしてる時あるでしょう? 迷った時はこの紙を思い出して動きなさい。何かあったらすぐ動くことね」
そう言うビッグボスの手には古びた紙が挟まれていた。古くてボロボロになったそれには殴り書きで『考える前に動け!』と書いてあった。
「それ。私も働いて間もない頃、迷ったらそれを見て、とにかく動いてきたのよ。うじうじと考えちゃいそうな時にね」
「うじうじと……ですか?」
「そう、タテノもあんまりうじうじしてると……あかねちゃんがどこかに行っちゃうかもよ?」
「え?!」
「ほら、二人ともいつまでもいるとも限らないんだから。何が起きるかわからないし。タイミングを伺ってばかりも良くないわよ」
そう話すビッグボスの顔は何だか切ないような表情をしていた。その表情はビッグボスというよりもマエダさんのようにも見えた。
——いや! ていうか、これって……
僕はビッグボスに手渡されたメモを見つめる。これって、前の世界でビッグボスからもらったものを10年前のパークでマエダさんに渡したものだよな? それが今僕の元に返ってきた? ……ってことはタイムスリップは夢なんかじゃなく……。
「まぁ、そういうわけだから。残りの時間もちゃんと仕事するのよ」
そう言うと、ビッグボスは休憩スペースから出ていくのだった。僕は手元に残った古びたメモと目の前の絵を交互に見つめるのだった。
——やっぱりあれは夢なんかじゃないんだ……!
僕は「そうだよね? 夢じゃなかったんだよね?」と絵に問いかけてみるが、絵は頷くでもなく、何を答える様子もなく、ただただそこに飾ってあるだけなのだった。




