最終話 また来年になっても
「ハッタリ〜。お前もやっぱり覚えてないのか?」
「知らんねん、そんな話! てか、お前何でこの場所知っとるんや。この場所のことは誰にも言ってへんのに……」
僕はハッタリの隠れ家へとやってきていた。案の定ハッタリもタイムスリップの記憶はないようだ。
「お前の隠れ家なんか、俺の推理力があれば簡単に割り出せるんだよ!」
「んなっ! ただのアホやと油断してたが、お前意外に探偵の才があったんかいな」
「まぁな。ぼやぼやしてるとお前のパーク探偵の座も奪っちゃうかもな」
「そんなことさせるわけないやろ!」
「まぁ、とにかくこの場所のことを知られたくなかったら、口止め料として探偵缶バッチをよこせ! 事件が起きたら連絡してやるから!」
「なっなななな! なんで探偵缶バッチのことも知ってんねん!」
◆◆◆
——あー、愉快だ!
僕はハッタリの隠れ家に入った時の、あいつの驚いた顔を思い出して大笑いしていた。鳩が豆鉄砲を食ったようとはまさにあのことなのだろう。
「あれ、タテノくんなんか嬉しそうだねぇ」
「そう見える? あかねちゃん、無くし物とか事件とかあったら俺に連絡してよ。いつでもハッタリを呼び出してあげられるから」
「え?! なんで?? まさかハッタリさんの相棒にでもなったの?」
「相棒ね、まぁそんなところかな!」
嘘ではないはずだ。なんて言ったって違う世界では僕ら二人は相棒だったのだから。探偵缶バッチも貰ったし、タイムスリップ事件の恩もある。こっちの世界でも相棒にくらいなってやってもいいだろう。
「それにしてもビッグボスの話って何なんだろう」
そう、僕達はバックヤードでビッグボスを待っていた。この休憩室で待っているように言っていたけど、遅いなぁ。
「さっきビッグボスに会ったんだけど、なんか怒られるような雰囲気じゃなかったよ。楽しみにしててねみたいな感じだった」
「私もさっき会ったんだけど、やたらと秘密だって。何なんだろう」
僕とあかねちゃんはお互いに首を傾げていた。そんなに秘密にするほどのことって何なんだろう。
「あー、それにしてもクリスマス限定コースターどんなのだったんだろう。乗りたかったなぁ〜」
「そ、そうだね。残念だったね……」
タイミングがなくて聞けなかったけど、クリスマス限定コースターって一体何なんだろう。クリスマスにしか乗れないジェットコースターなのか? 他の日は普通のジェットコースターだけど、クリスマスだけ飾り付けがされて、クリスマス仕様になっているとかなのか。それは怖さとかに影響するのだろうか。気になる。
「うん、そうだね。でも、今日は別に良かったかなと思って」
——ジェットコースターに乗れなくて良かったってこと?
あかねちゃんの発言に僕は驚いていた。あかねちゃんは叶うならば一日中二十四時間コースターに乗っていたい人なのだと思っていたからだ。それが乗れなくてもいいなんて……。一体どういうことなのだろう。
「え?! ど、どうして?」
「今日ずっとね。来年タテノくんとどこのコースターに行こうかって考えてたの。クリスマスコースターもさ、きっと来年もあると思うんだ。だから、焦って制覇しなくてもこれからゆっくり乗っていけばいいかなって」
——えっ
あかねちゃんが、今日ずっと、来年僕と、どこのコースターに行こうかって、考えていた。え、それってどういうことだ? あかねちゃんが僕と二人で来年も色々なコースターに乗りたいってこと? あかねちゃんが大好きなコースターに一緒に僕が乗るってことは、それはもう最高で、好きで。え? 好きってこと? それはもう家族ってこと? あかねちゃんと僕は家族同然ってことなのか?
「また来年になっても二人で……」
あかねちゃんが僕の方を見つめる。いつ見ても吸い込まれそうな程綺麗な瞳だ。本当に素敵な女性。僕はそのキラキラを見て、いつかのメリーゴーランドを思い出していた。あの日みたいな、世界が僕らを中心に光り輝いているみたいな、あのキラキラ。
——考える前に動け!
ビッグボスにもらったメモの文字が頭によぎる。そうだ、今だ。今しかない。クリスマス、聖夜。クリスマスツリーよりも今この空間はキラキラなんだ。僕の気持ちを。あかねちゃんに伝えるんだ。
「あの!! あかねちゃん、僕、あかねちゃんのことが……」
ガチャ
「さぁ、みんな!! ケーキ用意したわよー!」
「あ……」
「え……」
「え、何この雰囲気……?」
僕とあかねちゃんは目をまんまるにして、入り口から入ってきたビッグボスを見つめていた。勢いよく入ってきたビッグボスはレストランなどで使われる配膳ワゴンのような物を押していた。その上にはクリスマスらしくデコレーションされたケーキが二つ皿と共に乗せられていた。一つは白いクリームで飾られた苺のケーキ、もう一つは丸太の形をしたチョコのブッシュドノエルだ。
「クリスマスも頑張ってくれた皆にケーキを持ってきたわよ!」
「あ……ありがとうございます」
「わ……わぁ。美味しそう!」
「何よ、何でそんなに言葉に詰まってるの?」
「い、いや……それは……」
僕は「今まさにあかねちゃんに告白しようとしていたところにビッグボスが入ってきたからです」とは言えずに「あの……その……」と何と意味もない言葉を繰り返していた。そして、あかねちゃんの顔も見れずにいた。あかねちゃんは僕が告白しかけていたことに気付いていたのだろうか。それとも、僕の話をただ聞いていただけ……。考えを巡らしている僕に向かってビッグボスが問いかけてくる。
「あれ、二人だけ?」
「あ、はい。二人です」
「あれぇ〜。おっかしいわねぇ。ハナ達にも声かけてたのに……」
ガタン
ビッグボスがそう言うと、部屋の奥の方から音がする。そちらに目をやると、長机の陰からハナさんとゾンビさんがゆっくりと出てくるのだった。
「ほ、ほうほーう」
「おー! 美味しそうなケーキだにゃー」
「え?! ゾンビさんにハナさん、いつからそこに……」
僕があかねちゃんの二人きりだと思っていたこの空間に、ゾンビさんとハナさんが潜んでいたということなのか? というか、この二人は僕達の会話を聞いていたのか?
「いや、違うんだよ諸君。私たちもビッグボスに言われて残ってたんだけど、後からタテノっち達が入ってきたから、驚かそうと思って隠れてたんだけど、若いもん二人がにゃーんか聖夜に良い雰囲気だから出るに出られなくて、ねぇ?」
「ほうほーう」
早口で弁明するハナさんとサンタの笑い方をするゾンビさん。そんなことはどうでもいい。
「ど、どこからどこまで聞いてたんですか?」
「ほうほーう」
「んにゃ。なんにも聞いてないよ! わ、私達も年かにゃ〜。耳が遠くて敵わんよ。ねぇ、ゾンビさん?」
「ほうほーう。サンタは老人だほーう」
「嘘だ! き、聞いてたんでしょ??」
すっとぼける二人に僕は詰め寄る。
「聞いてたって何? タテノとあかねちゃん何の話をしてたの?」
「何の話というか、そのー。またコースター乗りに行こうね、みたいな話だよね? ね?」
あかねちゃんが少し慌てた様子で弁明する。あかねちゃんの慌てた様子を見て、なぜだか僕も調子を合わせて慌ててしまう。
「そ、そうそう。クリスマスのコースター、乗れなかったから来年は行けるといいねみたいな。あはは」
「ビッグボス、あたしゃ情けないよ。あんなに悪いタイミングで入ってくる人を見たことがないよ」
「ほうほーう。メリーバッドタイミングマース」
「え、悪いタイミングって……。え、まさか」
ビッグボスはそう言うと、口に手を当ててニヤニヤとしながら僕の方を見た。いや、その前にハナさんの発言に僕は引っかかっていた。
「……! ハナさん! そう言うってことはやっぱり聞いてたんじゃないですか!!」
「タテノっち、もう腹を括りな。私達は一旦出ていくから、何もなかったと思ってさっきの続きを……」
「そんなの出来るか! 雰囲気台無しだろ!」
「えー、そうだったの……。悪いことしちゃった。私そんなことになってるとは……」
ガチャ
「すまんすまん! ビッグボスのネェちゃん、遅れてすまんな。ちょっと野暮用が……、なんや! ケーキかいな!!」
大荒れの部屋にハッタリが入ってくる。ビッグボス、ハッタリまで呼んでいたのか。ハッタリは入ってくるなり、ケーキに近づいて嬉しそうに舌なめずりをしていた。
「なんや、皆ケーキ食わへんのか? 先にいただくで?」
「待って! ハッタリくん! ろうそくも貰ってきたから、暗くして皆でクリスマスの歌を歌って、火を消しましょう!」
「ほうほーう」
「タテノっち、暗くなった時に、端っこに行ってちゃちゃっとあかねちゃんに……」
「そんなちゃちゃっとしませんよ!」
「あかねちゃんもタテノっちが何言おうとしたか気になるだろう??」
「ななななななな、別にわわわ私はそんなんじゃ……!! もうやめてください! け、ケーキ! ケーキ食べましょう!! あ、火! 火つけましょう!!」
「火ならオレにまかしとき! 探偵秘密道具の探偵マッチがあるんや」
「ハッタリくん、ライター借りてきたから別にマッチじゃなくても」
「ほうほーう」
「あはははっ!」
休憩室は、さっきまであかねちゃんと二人で静かに話していたのが嘘のように賑やかになってしまっていた。僕はそれを見て思わず笑ってしまった。結局あかねちゃんに告白できなかったけど……。タイムスリップして、歴史を変えなければ見ることのできない景色だ。良かった。こんなに楽しい人たちと働けて、一緒に笑える世界になって本当によかった。
結局、それからもビッグボス主催の騒々しいクリスマスパーティは続いた。僕もあかねちゃんもさっきまで何を話そうとしていたのかは口に出さなかった。でもきっと大丈夫だ。明日も明後日も賑やかなパークは続いていく。それは来年になってもそうだ。あかねちゃんとのジェットコースターデートも近いうちに行けるだろう。
僕はビッグボスが持ってきたクリスマスケーキを頬張りながら、こんな楽しい時間がいつまでも続けばいいなと考えるのだった。
【終】




