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第57話 メモリーズ・カスタム-1

 『ダイブ』によるツリー点灯式事件から帰ってきてから数日、僕はタイムスリップ事件なんてなかったかのように普通に働いていた。気付けば今日はクリスマス当日。そう、クリスマス当日なのだが……。


「はぁ……」


 本来であれば、今日はあかねちゃんとのクリスマスデートのはずだった。しかし、僕が『ダイブ』してしまった影響なのか、クリスマス当日にはシフトが入れてしまわれており、あかねちゃんとのデートは叶わなかった。


 あかねちゃんも同じくシフトが入っており、クリスマス限定コースターに乗ることが出来ないとわかった彼女は大層落ち込んでいた。落ち込んでいるあかねちゃんもそれはそれは可愛かった。


——クリスマスデートが……


 そりゃあ、僕も落ち込んだ。だけど、案外僕はそこまで悪い気はしていなかった。デートは残念だけど、あかねちゃんとクリスマスにパークで働くのは、それはそれは特別感がある。一緒にいられないよりは遥かにマシだ。今でも時々、あかねちゃんが僕のことを知らないという悪夢に襲われそうになる。あんな絶望はもうごめんだ。


「お疲れ様、どうしたの?」


「え?! いや、何でもないよ。クリスマス限定コースター残念だったなぁって考えてただけ」


「本当だよねぇ。ビッグボスに急にシフト入れられちゃって……。あ、そういえばビッグボスが今日仕事終わったら残っておいてほしいって」


「え、居残り?!」


 僕はここ数日の自分の行動を思い返していた。何か悪いことをしたのだろうか、また怒られてしまうのか。しかし、思い当たることは何もない。不安な顔をする僕に向かって、あかねちゃんも不安そうな顔で話を続けてくる。


「実は私も残るように言われてて……。私達何かしたかなぁ。考えてるんだけど、何も心当たりがなくて」


「あかねちゃんもなんだ。それなら怒られるとしても怒りが分散するから、いつもよりはマシかもなー!」


「いや、怒りが分散どころか、2人いることにより増大するかもよ?」


「か、勘弁してくれぇ」


「ま、これ以上ビッグボスの怒りを買わないためにも、私たちに今できることはサボらずに働くことだね! 私向こう行ってきます!」


「た、たしかに……。わかった、いってらっしゃい!」


 確かにあかねちゃんの言うとおりだ。もし怒られることが確定しているとしたら、今僕たちに出来ることはこれ以上怒りの種を増やさないためにも、必死に頑張って働くことしかない。今頑張ればビッグボスも「怒ろうと思ってたけど、頑張ってたから帳消しにしてあげるわ」と褒めてくれるかもしれないし。


「あ、タテノくん」


「デイちゃん、メリークリスマス!」


「うん、メリークリスマス。しかし、今日は寒いよねぇ」


 あかねちゃんが去って、作業をしていた僕の元にデイちゃんがやってきた。クリスマスでもこの人はパークにやってきているのだ。流石パークにエブリデイ来ているデイちゃん。今日もいつも通りの平常運転だ。


「クリスマスまで働いて大丈夫? この前も変なこと言ってたし、疲れてるんじゃない? 疲れたなら休んだ方がいいわよ?」


「いやいや、大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」


 毎日パークに来ているデイちゃんの方が心配なんだけど、と僕は思ったが決して口には出さなかった。仲良くなったとはいえ、僕はスタッフ、デイちゃんはお客様だ。非日常を味わいに来ているお客様には一定の距離感を保つ必要がある……気がする。馴れ馴れしくしすぎるのも良くないと思っている。


——変なことかぁ……。


 デイちゃんの言っている『変なこと』とは、先日僕が話しかけた時のことを言っている。タイムスリップ事件のことを覚えているかどうか、確認してみた時のことである。


◆◆◆


「あ、デイちゃん! 良かった、帰ってきましたよ!」


「あら、タテノくん。帰ってきたって……どこか旅行に行ってたの?」


「何言ってるんですか! タイムスリップのことですよ」


「なにそれ?」


「え?」


 僕はデイちゃんにあれこれ話した。なんせ歴史が変わってしまい、シャクレエリアが出来た世界で唯一話が通じた人なのだ。今回もきっと記憶が残っているだろうと確信していた。しかし、そんな確信は全く当てにならず、色々な話をしても「そんなことは知らない」の一点張りであった。


「なに? そんな話に騙されると思ってるの?」


「え、で、でも! ほら10年前のパークでシール渡した話とか……」


「うーん。シール? 何だっけそれ。あったような、なかったような……」


——そ、そんなぁ


 どうやら本当に覚えていないようだ。じゃあ、あのことを覚えている人って僕以外にいないのだろうか? あと、記憶がある可能性があるのはハッタリとメガネさんくらい? でもデイちゃんが覚えてないのならこの2人も……。


「話は聞かせてもらいましたよ」


「あ、はてなさん」


 僕とデイちゃんが話していると、はてなさんがいつかのように話に入ってくる。


「さっきから“バックトゥザ・フューチャー”みたいな話してますね?」


「まぁ、確かにタイムスリップの話ですけど……」


「私、タイムスリップ話になるとうるさいですよ。今の話で言うと、歴史による修正の力が働いた説がありますね」


「修正の力……ですか?」


「はい、みんながみんなタイムスリップした記憶を持続して持ってしまうと混乱や矛盾が生じるんです。だから、歴史の力がその矛盾を解消するために、記憶を都合の良いように修正したんですよ」


「そんな力あるんですか? 都合が良すぎるというか……」


「そう!! これはあまりに都合が良すぎるんです!!」


 突然声を荒げるはてなさんに僕もデイちゃんも驚く。


「そう、これはタイムスリップにとってあまりに都合が良い。タイムスリップはあまりに矛盾を孕んでいるんです。これが示す結論は一つです」


「一つって何ですか?」


 はてなさんは人差し指をまっすぐに立てて、「ふふふ」と笑っている。その笑みを浮かべたまま、僕の質問に答える。


「タイムスリップなんて、存在し得ないと言うことです」


「は?!」


「何だやっぱりそうなのね。タテノくん、私を騙そうとしたのね」


「いやっ、違っ! 本当なんですよ!」


「残念でしたね。タテノさん。デイちゃん一人なら騙せたかもしれませんが、タイムスリップ物を見漁っている私に話を聞かれてしまっては……」


「いやぁ、はてなさんが居てくれて助かったわ〜」


◆◆◆


 ……とこの調子でデイちゃんは何も覚えてないわ、はてなさんに論破されるわで大変だった。僕は本当のことを話しただけだったのに。


——もしかしてあれは夢?


 あのことを覚えている人は今のところ誰もいない。何か世界が変わっている雰囲気もない。全ては僕の見た夢で、世界が変わってるなんてことはないような気もしている。


「じゃあ、私はそろそろ行くわね。クリスマスはレストランでコースを食べるって決めているの」


「あ、いってらっしゃいませ。良いクリスマスを!」


 僕はデイちゃんをレストランの方へと見送る。レストランでコースか……。パーク内のあのレストラン中々良い値段するんだけど、デイちゃんって毎日パークに来て、どうやってお金を工面しているんだろう。

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