第56話 かんせいをさがして
「ありがとうございましたっ! 愛の爆弾でしたっ!!」
「ダメだったな。今日も」
シャクレがタオルで汗を拭きながら、そう呟く。俺もメガネを外して、汗を拭きながら「そうだな」なんて返す。
俺達“愛の爆弾”はライブハウスで行われるクリスマスイベントに出演していた。正直盛り上がりはイマイチで、俺達目当てのお客さんはほぼいないように見えた。目当てはほぼ次の若手グループなんだろう。ノルマがなくて助かった。シャクレの人脈で決まったイベントだったため、チケットノルマは免除されていたのだ。
「おつかれさまでーす」
次の出番の用意をするグループ達が挨拶をしてくる。俺は「おつかれー」と言いながら、彼らを見送った。彼らの番が始まると、黄色い声援が楽屋まで聞こえて来た。俺とシャクレみたいなおじさんはもうここでは求められていないとかもな、と思っていた。
◆◆◆
「グッズどうですかー?」
俺はイベントの終演後、物販の長机の前に立ってグッズの販売を行なっていた。若手グループの物販は盛況でチェキを撮ったり、ファンとの交流を楽しんだりしていた。
——こういうイベントも卒業なのかな
そう思っていた。しかし、こういうイベントに出なくて他にどんなイベントに出ればいいのだろう。シャクレと2人、“愛の爆弾”で活動するのは楽しい。音楽活動の助けになればと動画投稿者としての活動をしてみてはいるけど、それがライブの動員に繋がっている気はしない。
「あの……」
「はい?」
想いに耽っている俺に女の子が話しかけてくる。高校生……いや、大学生くらいだろうか。最近の若い子は大人っぽい為年齢を読むのが難しい。とにかく親と子程年齢が離れていそうなのは間違いなかった。
「こ、この缶バッチください」
「え?! あ、ありがとう! 500円になります!」
俺はまさか物販が売れるとは思わず、驚きながら対応をしていた。そういえばこの子さっきライブしている時も端っこの方で見てくれていたな、と思い出した。
「い、いつもYouTubeとか見てます! 今日初めてライブハウスに来て……」
「え、本当ですか!」
「あの、写真とか……」
「いいですよ! 撮りましょう!」
俺は離れたところで談笑しているシャクレを呼んで3人で写真を撮ろうと提案する。シャクレはやってくるなり、「何? 俺たちのファンなの?」と聞いていた。女の子がこくりと頷くと、シャクレは物販のステッカーを拾い上げて女の子に渡した。
「じゃあ今日クリスマスだし、これ!」
「え?!」
「シャクレサンタからのプレゼント! また来てよ!」
「いいんですか?!」
「いいんだよ。なんて言ったってクリスマスなんだから」
「シャクレ……また勝手なこと……」
酒を飲んだであろうシャクレは顔が赤らんでおり、確かにそこはサンタさんのようだなと思っていた。ステッカーも500円……。これも売れていたら多少の活動費の足しになっていたけど……。
「ははっ、いいじゃないか。嬉しかったんだよ」
笑顔で女の子と写真を撮った後、難しい顔をしていた俺にシャクレが話しかける。長い付き合いだ。どうやら、俺の思っていることなどお見通しらしい。
「悪い、これも売れてたら今日の利益500円プラスだったなって思っちゃって」
「まぁまぁ、金とかじゃないだろ?」
「……!」
ふとシャクレが言った一言にハッとする。確かに金じゃないよな。あの女の子の嬉しそうな顔、お客さんの嬉しい顔が見たくてやってるんだ。
——これから。これからだよな
俺ら2人もうおじさんだけど、まだまだ道の途中と言った感じだ。“完成”と“歓声”を探して俺たちはこれからも活動をしていくのかしれないな。
◆◆◆
「じゃあ缶バッチ売れた記念に」
「かんぱ……」
「いや!」
「折角クリスマスだし、メリークリスマスで行こう」
「ははっ、何だよそれ。おじさん2人で……」
「関係ないだろ! しみったれるんじゃねぇよ!!」
「じゃあ……」
「す、すいません! 遅れました!」
「なんだよ、リュウ〜! もう始めるところだったんだぞ〜!」
「お前くるの遅いから、シャクレサンタ見逃しちゃったな」
「な、なんですかそれ! あはは!」
「じゃあ、3人揃ったところで……」
「かんぱ……」
「「メリークリスマス!」」




