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第55話 ビッグボスとタテノくん

「見つかりますかね」


「見つかるわよ。あの人が何年潜ってると……」


ちゃぽん


「あっ、出てきた」


 僕とビッグボスはパークの中心にある池を見ていた。今ウェットスーツを着た人がひょっこりと水面から顔を出したところだ。高く掲げた右手にはカメラを持っている。多分あれが落とし物なのだろう。


「おー! 見つかったみたいですね!」


 パークが静まり返った時間、僕はビッグボスに連れられてベイサイドエリアにやって来ていた。パークの池に落ちた落とし物を拾う専門の仕事、所謂潜水チームのダイバーさんが潜る為立ち会ってほしいとのことだった。


「こんな仕事があるんですねぇ」


「そうなのよ。お客様が落とし物をした時なんかは、その場で拾ったりするんだけど。ちょっと色々立て込んでて忘れてたのよ」


 何でも10月にカメラの落とし物があったのを、拾うように連絡するのを多忙ですっかり忘れていたらしい。ビッグボスにしては珍しいミスだと思った。落とした人も困っていたんじゃないか、とも思ったが、どうやら落とした本人は自分のではないと主張していたらしく、何やら込み入った事情があるようだった。


「でも、どうして僕だったんですか?」


「リュウがカメラを落とした時、タテノもいたでしょう?」


「え、あれリュウのカメラなんですか? てか、僕いないですよ、その時」


「あれ? そうだっけ」


「はい、誰かと勘違いしてるんじゃ。酷いっすね!」


「あれぇ、そうだっけ。ベイサイドエリアでタテノって記憶が……なんだっけ……あれ違うか……」


 僕は頭を抱えるビッグボスを見ていた。一体ビッグボスが誰と勘違いしているのか。もしかして、僕がヨコイだと気づいたんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたが、別にそういうわけじゃないらしい。「まぁ誰だったとしても、こういう仕事があるってのは知っておいて損はないわよ」と言って、ビッグボスは笑っていた。


「いやぁ、他にも落ちてるものがあって、色々拾ってたら時間かかりましたよ。ついでなので、一気に拾っちゃおうと思いまして、ははっ!」


 戻ってきたダイバーさんが笑いながら僕らに話しかける。カメラの他にも持っているものがあり、その中の一つに僕は目を奪われた。


「あれ、これは……」


「USBメモリですかね? 珍しい落とし物ですね〜。何でこんなの落としたんだろう」


 それはあの日、10年前のパークで僕が投げたUSBメモリだった。リュウが過去のリュウに渡そうとしたあのUSBメモリ。


「……」


「タテノ? どうしたの、そのUSBメモリなんか気になるの?」


 ビッグボスが僕に覗き込んで言う。「僕がこのUSBメモリを池にぶん投げたおかげで、今あなたはビッグボスなんですよ」と言いたくなったが、やめておいた。


「そうですね。これ、実は僕が前に落としたやつで……」


「タテノぉ〜、何やってんの! 落としたんならその時にすぐ言いなさいよ!」


「ご、ごめんなさい! その時は言えなかったというか……。そのー、ビッグボスもいなかったというか……」


 言い訳してしどろもどろになる僕にビッグボスが怒りを露わにしていた。その様子を見て、僕は嬉しくてニヤニヤと笑ってしまっていた。


「な、何よ。人が怒っている時にニヤニヤしちゃって」


「いや、なんか怒られて嬉しくて! もっと怒ってください! ビッグボス!」


「嬉しいって何よ、怒られないようにちゃんとしなさい!」


「ははは、そうですよね。すいません、あはは」


「変なこと言うな! 怒られないように頑張れ! バカタテノ!」


——めっちゃいつも通りだ……


 僕はいつも通りビッグボスに怒られている幸せを噛み締めていた。そのうちこのいつも通りが本当に日常に感じるようになる前に、怒られる幸せを噛み締めておこうと思った。怒られる幸せって何だよ、とも思うけど。

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