第54話 クロノスタシス
——あの時誰に助けてもらったんだっけ。
——あの時誰と話したんだっけ。
——あの時……
——今も時々考える。
——結局あの人は何だったんだろう。
——後から誰に聞いても、そんな人は知らないと言われるばかりだった。
——私、彼の何を知っていたんだろう。
——そんなことを思ってしまう。
——思えばそんなに一緒にいた訳じゃない
——たった数回、たった何日かだけだったのに
——今もあの人の気配が色濃く残って消えない。
——もう顔も名前もよく覚えていない。
——あの時誰に叱咤されたんだっけ。
——でも今日も私はあなたのおかげで元気にやれてます。
——ありがとう。
——あなたがどこかで元気にやってくれてたらいいな。
ピピピピピ
「ん、んんんっ!」
カチッ
目が覚めて、私は目覚まし時計を止めた。そこでテレビをつけたまま寝てしまっていたことに気づいた。
『このタテ縞のハンカチを丸めると〜。じゃ〜ん。一瞬でヨコ縞のハンカチになっちゃいま〜す!』
『あははは!』
プツン
リモコンの電源ボタンを押して、テレビの電源を押す。寝惚け眼で目を擦りながら起き上がった私に飼い猫のヨルちゃんが擦り寄ってくる。
「にゃあ」
私も相当早く起きている方だと思うのだが、ヨルちゃんより早く起きれたことは一度もない。こんな朝早起きの猫ちゃんだと知っていたら、ヨルなんて名前ではなくアサという名前にするべきだったのではないか、と最近よく考える。何かを訴えるように私の顔をのぞいてくるヨルを見て、私は彼の言わんとすることを察した。
「ごめんごめん。お腹すいちゃったんだね」
「にゃあ」
私は急いで餌皿にキャットフードを入れた。忙しくて帰るタイミングがまばらなため、自動餌やり機を購入したのだが、その一回の量では足りないこともあるらしく、時々こうやっておかわりをねだりにくるのだ。このままこの量を食べ続けてしまうとヨルちゃんが太ってしまうのではないかと心配にもなるが、痩せ細ってしまうよりはマシなんじゃないかとも思っていた。
ガッガッガッ
キャットフードにがっつくヨルちゃんを眺めなら、私もコーンフレークを作り、急いでがっついていた。何か夢を見ていたような気がするけど……。何だったっけ。
「にゃあ?」
「ん? どうした、ヨルちゃん」
「にゃあ」
「ううん。何でもないよ、少し考え事してただけだから」
私はそう話しながら、ヨルちゃんを撫でた。彼は私のその様子を見て安心したのか、それとも満腹になって満足したのか、スタスタと自分の寝床に帰って行った。
「あ、もうこんな時間だ」
私は時計に目をやると、立ち上がって支度を始めた。いつの間にかもうクリスマス、年末である。この時期のテーマパークは繁忙期だ。家族連れやカップルでどんどんと賑わってくる。
——よし、今日も頑張るぞ!
軽くメイクをした私は急いで身支度を整えて、出勤の用意を済ませた。
そして、外へと出るために部屋のドアを開いたのだった。
「いってきまーす!」
返事はなかった。ヨルちゃん、また寝たのかな。まぁいいか。職場に着いたら、やることは山積みだ。カウントダウンイベントの用意に、来年始まるイベントの用意に……あぁ考えれば考えるだけやることは増えていく。タテノくんもあかねちゃんにも手伝ってもらわなくちゃ。
——もうすっかり冬だなぁ
私はかじかんだ手に、はぁっと息を吹きかけながらすっかり寒くなった街を歩いていくのだった。




