第53話 あなたが待ってる
ぐわぁああん
——ここは……?!
視界の歪みが収まって周りを見回してみる。そこは見慣れた休憩スペースだった。そして、目の前には古めかしい絵が飾ってある。
——戻ったのか?
周りには誰もいない。ハッタリもメガネさんも、リュウも。ここが歴史が修正された元の世界なのか、それともそうではないのか。早く外に出て確認しなければ。そう思っていると休憩スペースに見覚えのある顔が入ってきた。
「もう、タテノくん! こんなところでサボって! またビッグボスに怒られちゃうよ?」
あかねちゃんの声がする。彼女の顔、声色、話し方、話の内容。これだけでもう僕は元の世界に戻って来られたんだと理解した。自然と顔が綻んでしまう。良かった、良かった。しかし、僕は心配になって、あかねちゃんに確認をしてしまうのだった。
「あ、あかねちゃん?」
「……?」
「あかねちゃんだよね??」
「そ、そうだけど、何? そんな積年の再会みたいに……」
「ぼ、俺達……い、一緒にジェットコースター乗ったよね??」
「え、う……うん。乗ったね?」
「び……ビッグボスの下で一緒に働いてるよね?」
「うん。なんなの、急に?」
「そうだよね?」
「一緒にバイトに入ったときからずっとそうでしょ? 何言ってるの?」
「良かった……」
「え?」
「良かったぁぁぁあ。あ、あかねちゃぁあん!!」
「な、泣いてるの?! なんで?!」
「うわぁぁぁん。もうタテノさんなんて呼ばないでぇええ」
「な、なに?! いつそんな風に呼んだっけ?」
「そうだよね! よかった、本当に良かった!」
僕は思わずあかねちゃんに抱きついてしまっていた。いる。目の前にあかねちゃんがいる。僕のことを知っている、ビッグボスと働いているあかねちゃんがいる。
「あぁ、あったかいなぁ」
「何言ってるの、今日めっちゃ寒いよ」
——そうじゃない……
外の気温なんて関係なかった。そうじゃない、僕は本当に寒くて暗闇の世界にいたんだ。それが急にこんなあったかい場所に来たら、身体がついてこれないのも当たり前だ。
「はやく戻ろう!」
あかねちゃんはそう言うと、僕を休憩スペースから引っ張っていく。その時視界の端っこに絵がちらりと入った。絵は悪戯っぽく笑っているように見えた。おい、絵よ。お前のせいで大変な目に遭ったんだぞ、僕は。
休憩スペースを出た僕はあかねちゃんと共にパークの中を歩いていた。そこにはシャクレエリアでもなく、勿論昔のパークでもなく、いつもの僕たちが働いているパークの様相だった。その光景に懐かしさを感じながら、僕はあかねちゃんに話しかけた。
「ビッグボス、怒ってるかな?」
「どうだろう。ね、ビッグボスが怒りすぎて、ヒーターみたいになってたらどうする?」
「はは! みんな怒ってるビッグボスで暖をとってるかもね!」
「それ、面白すぎるー! 春がきたと勘違いして、つくしが生えてきたりして」
「「あははは!」」
僕らは2人で白い息を吐きながら、あははと笑っていつもの持ち場に戻った。そこに本当に暖をとれるほどの怒りに震えたビッグボスが待ち受けているとも知らずに。僕は「違うんですよ、ビッグボスの為にタイムスリップしていたんですよ」と言い訳をしたかったが、火に油を注ぐことになりそうなのでやめた。
でもここだけの話、ビッグボスに怒られるのが何だか心地よくも感じていた。それがバレると更に怒られそうなので、僕は必死にその気持ちを噛み殺して、ビッグボスに「すいません」と謝っていた。あぁ、本当によかった。神様、この世界にはビッグボスもあかねちゃんもいます。ありがとう、本当にありがとう。




