第46話 リュウとリュウ
——あ、いた……!
10年前の俺がいる。この時もよくベイサイドエリアのベンチに座って、撮影したデータを整理していたっけ。まだこの時はネットには動画を投稿していなかった。家に帰って、自分が撮ったものを自分で楽しんでいただけだった。勿体無い。この時から投稿を始めていれば、ある程度成功できていたのに。いや、その後悔を後悔でなく出来る日が今日来たのだ。
「やぁ」
「え、誰ですか?」
「俺は神様だよー」
「え、神様?!」
俺はベンチに座る過去の自分の横に座る。我ながらバカみたいな設定で話しかけたと思う。でも、この時の自分は……。
「すごい! 神様だ!」
「ふふ、そうだろう」
信じるのだ。この時、自分はいつか神様が自分を救ってくれるんじゃないかと思っていた。盲信してたわけじゃない、ただ何となくそう思っていただけだけど。いつか神様みたいな何かの見えざる力が働いて、自分を特別な何かにスペシャルワンにしてくれるんじゃないかと考えていた。
「今日は君にこれを授けに来たんだ」
「これは……? USB?」
俺は過去の俺にUSBメモリを渡す。やっぱり10年前だと全然垢抜けてないな。若い。
「そう、“インフルエンサー絶対成功メソッド”さ」
「インフルエンザ耐性米騒動?」
「いや、“インフルエンサー絶対成功メソッド”」
「……? インフルエンサーって?」
「インフルエンサーは人に影響を与える人のこと。君をインフルエンサーにするための道具だよ」
「人に影響……? 俺が……?」
「そう、今から伝えることを俺が言う通りにやるんだ」
俺は過去の俺に丁寧に説明した。動画を投稿して収益を得る準備をすること。それで作ったチャンネルに、これから起こるツリー点灯式事件の動画を撮影して投稿すること。シャクレさんに声をかけて、愛の爆弾というグループを結成すること。“インフルエンサー絶対成功メソッド”のデータを参考にして動画投稿を続けること。そうすれば、インフルエンサーとして絶対成功して、大金持ちになれるということを伝えた。
「そんなことで成功者に……?」
「なれるよ。君なら!」
何の根拠もない言葉だった。それには自分の願いのようなものもこもっていた。そうなって欲しい、そうあってくれ。過去に来るというまたとないチャンスを得たのだ。あの時こうしていれば、未来が違ったかもしれない。その考えを実行に起こす絶好の機会。これを逃す手はない。
——頼む……! やれることはやった!
後はシャクレさんと俺に願いを託すのみだ。ツリー点灯式事件の動画がバズる。そして、シャクレさんが有名になる。それを足がかりに動画投稿者として名を馳せて、一流インフルエンサーへと上り詰めていく。自分で考えた筋書きながら、絵空事ちっくだなと思った。そうなったら良いなくらいの、細い細い蜘蛛の糸のようだ。しかし、案外うまくいくような気もしていた。それにそう思うことによって、より本当にしていける気がする。
「あ、あとそのUSBメモリと今日話したことは誰にも言っちゃいけないよ。神様との約束だ」
「う、うん! わかった! 言わないよ!」
過去の自分も指切りげんまんをする。我ながら10年前の俺は純粋だな。純粋な過去の自分を見ながら、俺は自分の成功を確信していた。
——よし、これでインフルエンサーだ……
「なるほどな〜。こうゆうことやったって訳や」
ひょい
「……?!」
突然背後から声がする。それと共に背後から手が伸びてきて、USBメモリを過去の俺から奪った。
「な、誰だ!!」
背後を振り向く。そこには探偵のような格好をした謎の怪しい男が立っていた。
「か、返せよ! そのUSB!!」
USBメモリを奪うために手を伸ばす。そのUSBメモリは俺がバズって有名になるために必要なものなんだ! しかし、伸ばした手は変な探偵には届かずに別の奴に捕まった。
ガシッ
——なんだ?!
「今度は絶対に逃さないぞ、リュウ!」




