第44話 悪役、暴れだす-2
「俺をヒーローに?」
「はい」
「ははは! 何だキミ、変身ベルトでも授けてくれるって言うのか?」
「いや、そう言うのじゃなくて。みんなを幸せにするヒーローです。イ、インフルエンサーってわかりますか?」
「なんか聞いたことある気がするなぁ。動画投稿したりする人のこと?」
「そ、それも含んだりしますね、正しくは人に影響を与える人のことです」
「人に影響かぁ。確かにそれはなってみたいなぁ」
「お、俺の言うことを聞いてくれればなれます!」
「今初めて会ったばかりの君のことを信じろと?」
シャクレさんが「あはは」と笑った。その顔は与太話を聞いているような軽々しいものだった。
「まぁ、ツリーの飾りのことはスタッフに伝えておくよ。どうもありがとう」
「い、いや待って!」
まずい。俺の成功プランにはシャクレさんが不可欠だ。ツリー点灯式事件を防ぐシャクレさん。それはすごく絵になると思う。かっこいいヒーローそのものだ。バズる予感がする。俺がツリー点灯式事件を防ぐという筋書きもありだが、いかんせん自分には華がない。小バズりが限界だろう。それではダメだ。バズって金持ちに、成功者に、有名になってバカにしてきたやつを見返してやるんだ。
——どうすればシャクレさんを説得できる……
俺は頭を最大限に回転させていた。出来る。俺には出来るはずだ。俺はどちらかと言うと“くりえいてぃぶ”な側の人間だ。インフルエンサーとしての成功の一歩をここで踏み出すんだ。
「俺も忙しいんだ。また面白い話があったら……」
「メガネさんも!!」
「え?」
メガネさんという言葉を出した途端、シャクレさんの表情が変わったのがわかった。頭を振り絞って出した言葉が“メガネさん”だった。
「どうしてメガネのこと知っているの?」
シャクレさんは俺の方を真剣な顔をして見ている。それは先ほどの軽々しいものとは違う真面目モードの顔だった。彼のこういった表情はそんなに見る機会がない。まじまじと見るとちゃんと10年分若いのがよくわかった。目尻や口元の皺が今より少ない。これからの10年で沢山笑ったのだとわかる。
「俺……実は未来から来て……。実はシャクレさんとメガネさんと3人で活動を……」
「は、待って待って。どういうこと?」
「未来から来て……そ、その……俺たちが3人で活動するために……今日シャクレさんが点灯式でツリーの飾りの落下を阻止することが大事なんです」
もう思い切って嘘をつこう。そう思った。俺たち3人……“愛の爆弾”は未来で成功している、そしてその成功の種は今日ここでシャクレさんがツリー点灯式事件から客を守るヒーローになること。そういう筋書きを頭の中で作った。今は嘘でもいい。これを本当に出来るようにこれから俺が組み立てていけばいいのだ。正確にはこの時代に生きている俺が。
「うーん……」
「ま、まだ信じられないですか?」
「そりゃあ、こんな骨董無稽な話を無条件で信じられる程子どもじゃあないよ」
「そ、そうですよね……」
「でも!!」
「え?」
シャクレさんは俺の方に近づいて、肩をガシッと掴む。その顔は満面の笑みだ。あぁ、見たことあるこの笑顔。この人の笑顔には不思議と惹きつけられてしまう何かがある。この人の魅力に惹かれて自分は“愛の爆弾”に参加したのだ。この人となら成功できると思っていたのだ。
「メガネのことを知ってるのが信憑性がある!」
「はい……!」
「これは俺の直感だけど、お前は信頼できるやつな気がするよ! それに……」
「そ、それに?」
「やっぱ男ならさ、一度はなってみたいよな。ヒーローにさ」




