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第42話 あわれなメガネ急いでいけよ

——急がないと……!


 俺はデイちゃんの元を去って、シャクレがいるであろうツリーの近くへと向かっていた。タテノくんにとっては、自分の元いた世界の歴史を取り戻すための大事なタイムスリップだが、俺にとってもこのタイムスリップは大事な物なのだ。もう失ってしまった“愛の爆弾”という居場所。シャクレという親友。インフルエンサーとして成功するに従って、どんどんと変わっていってしまったシャクレとリュウを取り戻すための旅でもある。


——シャクレ……


 学生時代のシャクレをふと思い出す。あいつは良い意味でも悪い意味でも純粋なやつだった。周りに影響されやすい、何色にも染まりやすいやつ。時々暴走するあいつを止めるのが俺の役割だったんだ。


——そうか、俺も悪いのか


 今にして思えば、俺がシャクレとリュウが暴走するのを止める役割を担うべきだった。それを放棄してしまっていた瞬間がこの10年で沢山あった気がする。その結果が今なんだ。“愛の爆弾”がバラバラになってしまったのは俺のせいでもあるんだ。


——違う世界でならやり直せるのかな


 タイムスリップだとか、歴史を変えるだとか、骨董無稽な話をスッと信じたのは、俺がただ信じたかったというだけだったのかもしれない。バカみたいな話にも縋って、過去の自分の過ちをやり直したい。その気持ちが俺をハッタリとタテノくんの元に駆り立てたのか。


 そんなことを思っていると、ツリーの近くに到着した。周りを見回してみるが、シャクレの姿はない。ツリーの前ではスタッフ達が点灯式の準備を行なっていた。


「すいません」


「はい、何でしょう?」


 俺は近くにいた男のスタッフに声をかけてみる。さらりとした髪にキリッとした顔つき。ただ物ではない雰囲気を醸し出していた。この人なら何でも知っているんではないか、と思わせる何かがあった。


「あの……ここはツリー点灯式が行われる場所ですよね?」


「はい、そうですね」


「良かった、スタッフさんありがとうございます」


「いえいえ、私などでも助けになれたのなら何よりです。細かいことを言うと、私はスタッフではなくダンサーなのですけれどね」


「あ、そうなんですね……。ごめんなさい」


「いえいえ、広義では私もパークに携わるスタッフではあるので、間違っているわけではないんですよ。しかしながら、もし貴方が私の応答に不満を持ち、パークに苦情を出した場合、スタッフが〜と言って苦情を出すと、私の元に話は届かずにちゃんと働いていたスタッフさんに迷惑がかかる可能性がある……と思ったので、一応伝えたまでです」


「あ、そうですか……」


 俺は変な人に話しかけてしまったのかもしれないと思った。でも、この人ダンサーって言ってたよな。もしかしたら……。


「あの、もしかしてシャクレのこと知ってますか?」


「シャクレさんですね。勿論知っていますよ。なんだ、彼の知り合いなのですか?」


「良かった。実は探していて……」


「ゾンビ知っていますか?」


「え?」


「ゾンビです。リビングデッド、歩く死体とでも言うのでしょうか。腐ったような姿で闊歩し、生きている人間を噛み、そして噛まれた人間をゾンビにしてしまう」


「ま、まぁ知ってますけど……。それよりシャクレ……」


「私はゾンビがわからないのですよ。実際に見たこともないし、何故死んでも動けるのか。彼らに意思はあるのか」


「あ、あの……なんでゾンビの話に……?」


「実は今年ゾンビナイトというイベントがあったのです。そこでゾンビの役をしたのですが、私はそれを上手く演じることが出来なかったのです」


「あ、ああ。ゾンビナイト。なるほど、シャクレは……」


「シャクレさんもゾンビをやっていたので、助言を求めたんです。でも彼は『ゔぅ……』って何となく漂ってればいいのだと」


「あいつらしい助言だな……」


「しかし私は納得できませんでした。色んなゾンビ映画を見て、書籍を漁り、ゾンビを研究しました。見れば見るほど、調べれば調べる程ゾンビというものがわからない。彼らは何故動くのか、何を求めているのか」


 何でこんなことになったのか、俺は自問自答していた。何となくその辺にいる人に話しかけただけだったのに、謎の人物にゾンビ論について語られる羽目になってしまった。俺はシャクレがどこにいるのか知りたいだけなのに。


「あなたの意見が聞きたい。あなたはゾンビをどう思いますか? 私が彼、もしくは彼女を理解するにはどうすれば良いのでしょうか?」


 ダンサーを名乗る男は真っ直ぐな目で俺を見つめてくる。この男はどうして初対面の俺にこんなにも意見を求められるのだろうか。しかもお客さんである俺に。俺が気難しい客だったら、問題になっている可能性すらあるのに。


——とはいえ……


 本当に困っている、本当に意見を求めているこの男の話を無碍にできず、俺は少し考え込んでいた。ゾンビのことなんて考えたことがないけど……。


「俺もゾンビには詳しくないんですけど……、学生の頃の先輩の言葉があって。相手の気持ちが理解できない時は、相手になりきって考えてみるんだって言うんです」


「ほう」


「だから、ゾンビについて理解したいならゾンビになりきって考えてみるのが良いんじゃないですか?」


「ゾンビになりきる……ですか」


「なんか家とかでそれっぽい格好をして漂ってみるとか……。それこそ自分が納得のいくまで……わかんないですけどね!」


「いえ、成程。納得のいくまで……ですね。」


「まぁ、俺は相手の気持ちになって考えすぎて、結局訳わかんなくなってしまうこともあって。どれだけ考えても、結局鏡を覗きこんでるようなもので、自分でしかないというか」


「鏡……。そうか、ゾンビとは鏡写し……つまり自分の投影なのですね」


「いや、ゾンビが自分の投影かはわからないですけど……」


「いや、今思考が進んだ気がしました。ありがとうございます。非常に有意義な時間でした。私が再度ゾンビ役をやることがあるかは分かりませんが、その時はより深みへと入り込んで、私なりのゾンビというものを表現したいと思います」


「そ、そうですか……。じゃあ、俺はこれで……」


「あ、シャクレさんでしたね。今の議論のお礼も兼ねて、探して声をかけてきますよ。多分、バックヤードのどこかにいると思うので」


「あ、本当ですか! ありがとうございます!」


「いえ、少々お待ちを。親切な眼鏡の男性」


 そう言うとスタスタとダンサーの男は去っていった。早口でペラペラと話し始めた時は完全に話しかけてはいけない人に話しかけたのなと思ったが、結果オーライだ。人には親切にするものだな。俺はツリーを遠巻きに眺めながら、さっきの男がシャクレを連れてきてくれるのを待つことにした。

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