第38話 僕は君に恋をする
「なぁ」
「なんや……」
「なんやじゃなくて! 早く絵からタイムスリップしなきゃいけないのに、どうしてクリスマスツリーの後ろに隠れているんだよ!」
メガネさんとハッタリはパークに飾られている巨大なクリスマスツリーの後ろに隠れていた。2人の視線の先には誰かを待っているタテノくんがいた。その表情は何かを決意しているようで前をしっかりと見据えていた。
「さっき言うてたやろ。タテノがあかねちゃんに告白すんねん……」
「だから、そんなの今することなのか? 早く行かないと愛の爆弾が……」
「そんな焦らんでも、タイムスリップは逃げたりせーへんやろ」
「そんなのわからないだろ! まるで経験者みたいに!」
「しっー! あかねちゃんが来たで。頑張れよ、タテノ……!」
◆◆◆
「あかねちゃん!」
「お疲れ様〜。タテノさん、急に呼び出すからびっくりしちゃったよ」
よく知った声の慣れない呼び方に違和感を覚えながら、僕は話を切り出す。
「ちょっといいかな……」
「大丈夫だけど……どうしたの?」
あかねちゃんのようであかねちゃんじゃない目の前の女の子。だけど、見つめるとあかねちゃんそのものでしかない彼女をじっと見て僕は話し始めた。
「ク、クリスマスだね」
「本当ですね〜。時間ってあっという間だよ〜」
「俺たちがバイト始めてもう3ヶ月以上経つんだね」
「ね〜、本当に早い。唯一の同期だもんね」
僕らが話す横でクリスマスツリーがキラキラと輝いている。緑色に赤、そこに白い雪のような装飾がされていてとても綺麗だった。突然子どもの頃のことを思いだした。赤と緑のニットが好きでよく着ていた。クリスマスが過ぎてもずっと着ていた僕をよく周りの人がからかってきた。いつまでクリスマス気分なんだと。僕はクリスマスだから着ていたんじゃなくて、あの柄が好きで着ていたのに。その服がボロボロになって、着られなくなった時、似たような柄の服を買ってもらった。でも、何か違う気がしたんだ。
——僕があかねちゃんが好きな理由は何だろう
「……? どうしたの?」
目の前のあかねちゃんが小首を傾げる。とても可愛い。だけど不思議と心がときめかなかった。いつもならあかねちゃんを目の前にしたら、頭の中はお祭り騒ぎになるはずなのに。今の僕は至って冷静だった。
「やっぱり、君はあかねちゃんじゃないんだね」
「何? どういうこと?」
「休憩室でさ、よく2人で話したよね」
「……話したっけ?」
あかねちゃんが少し怖がった表情で僕を見る。それは元の世界なら僕に向けられない表情だ。
「話した時に決まってビッグボスがやってきて、僕を怒ろうとするんだ」
「ビッグボス……?」
「何で邪魔するんだよって思ったりもしたけど、今にして思えばあれも含めて……。そう、ビッグボスもいたからこその、あかねちゃんとの思い出だったんだと思う」
「ごめん、本当に何言ってるかわからないよ」
「ご、ごめん。そうだよね……」
最初は一目惚れだったんだと思う。見た目が可愛くて、面接で楽しそうに話してるのが輝いて見えた。そう思うと、声も可愛く聞こえて、話し方も魅力的に感じ始めた。ビッグボスの元で2人で働き出した時、そこまでパークに熱のない僕がやる気を出せたのは、あかねちゃんがいたからだった。僕が頑張ることがあかねちゃんの笑顔にも繋がる。そうやって働いて、色んな表情を見た。他愛のない時間もかけがいのないものだった。
「きっと君もそうなんだろうけど……」
「え……?」
「遊園地に行った時、メリーゴーランドから落っこちちゃってさ。最悪だったけど、あかねちゃんが笑ってたから、最高の思い出になったんだ」
「ごめん、それ私じゃないと思うんだけど」
「……」
「……話って何かな……仕事もあるし、早く戻らないと……」
「そうだよね、ごめん。最後に一つだけ!」
そう言って僕はすぅっと息を吸った。緊張はしていない。迷いもない。結果も知っている。でも、言う。
「そんなあかねちゃんが好きです。付き合ってください!」
一瞬時が止まった気がした。ドラマチックな絵に見えるのは、僕らの近くにクリスマスツリーがキラキラと光っているからだろう。こんな綺麗なクリスマスツリーの前で告白するんだから、成功しなきゃツリーに申し訳ない。でも、そうはいかないことはわかっていた。
「……。ごめん、私タテノさんのことよく知らないし……」
「そうだよね……」
「私そろそろ行くね。告白嬉しかったけど……ごめんね」
あかねちゃんはスタスタと去っていった。同時に僕の胸はスッとしていた。もし、これからタイムスリップして、歴史が変えることが出来なくても、この世界で1から関係を築いていけるかもしれないと少しだけ考えていた。何も誰かが死んでいるわけじゃないのだ。これから未来をどうすることだって出来るのだろう。
——でも、それじゃダメだ
僕が好きなのは、あの……元の世界のあかねちゃんなんだ。一緒に働いて、一緒に遊園地に行って、一緒に笑って、一緒に苦労したあのあかねちゃんだ。ずっと一緒にいたあのあかねちゃんのことが好きなんだ。
スタスタ
「見事に振られよったなぁ〜。ハンカチいるか?」
「いらないよ。泣いてないし!」
「タテノくん……気を落とすなよ。振られて振られて男というのは男になっていくものさ」
「メガネさん、ありがとうございます」
ツリーの陰に隠れていたハッタリとメガネさんが出てくる。2人は僕の肩に手を置いて、ポンポンと叩いている。僕はなんか青春映画の1ページみたいだなと思っていた。
「いやぁ、何か青春映画の1ページみたいだったな〜! おじさんになって、こんな経験するなんて!」
「オレもちょっと思うてた! がんばれ、相棒って祈ってまったわ」
「……」
僕はメガネさんとハッタリと全く同じ感覚だったことにショックを受けつつも、そこまで悪い気はしていなかった。
「じゃあ、タテノの気も済んだことやし。行こうか!」
「行こう! 絵はこっちだ!」
僕たちはタイムスリップ出来る絵のある休憩スペースへと駆け出した。




