第33話 はじまり
「どうやった?」
マエダさんの元を去った僕にハッタリが駆け寄ってくる。てか、お前今まで何やってたんだよ。僕と一緒にマエダさんに話を聞けばよかったのに。
「いや、やっぱりビッグボスじゃなかった」
「そうか……オレも聞き込みしてたんやけど、彼女は10年前のことをすごい後悔してるみたいやな」
そうか、今日マエダさんと直接話して僕も少しわかったことがある。過去の何かが今の彼女に影を落としているのだろう。そして、それはハッタリの言う通り10年前のツリー点灯式事件のことなのだと思う。真面目な彼女のことだ。自分が動けなかったことで自責の念に駆られていたのかもしれない。
「……んで、あと1人。オレに心当たりがあるんや。何か情報を持ってるかもしれへん」
「もう1人……?」
◆◆◆
「あれ……? デイちゃん?」
「あ……タテノくんとハッタリくん。どうも……」
ハッタリの心当たりとはデイちゃんのことだった。なるほど。毎日パークに来ているデイちゃんなら、何かわかることがあるかもしれない。
「ちょっとデイちゃんに聞きたいことがあんねんけど、お邪魔してええか?」
「え、ええ。構わないけど……」
「ほんなら失礼っと」
ガラガラ
僕とハッタリはデイちゃんがいつものように休憩しているテラス席へとお邪魔した。周りの人はどう思っているのだろう。カフェのテラス席に探偵姿の不審者が現れたことについて。コスプレだと思われているのだろうか。
「聞きたいのはシャクレとマエダさんのことについてやねん……」
「……めて」
「ん? なんや??」
「……やめて! 勘弁して!!」
デイちゃんが突然叫ぶ。僕はあまりの突然のことに驚いてしまう。ハッタリはなぜか平常心だった。女の人が急に取り乱してるんだからちょっとは焦ろよ。
「で、デイちゃん? どうしたんですか? 急に……」
「シャクレシャクレシャクレって……いつからこのパークはシャクレに染まっちゃったのよ……」
「え?」
僕は思わず声を出す。するとそれに応じるようにデイちゃんも声をだすのだった。
「え?」
——え? どういうことだ?
「で、デイちゃん? それはどういうこと?」
「あなたも私がおかしくなったって言うんでしょう……。嘘みたいな話だけど、昨日からこのパークは変になっちゃったのよ……。変だ変だよ、ヘンダーランドってわけ……」
「あっえっえっ?!」
「ほら……誰も信じちゃくれないの……。いつもいるオタク仲間のカルーアちゃん達も見当たらないし……。私がおかしくなっちゃったのよ……。しまいにはリュウくんが……」
「ビッグボス!」
僕は思わず声をあげる。その声を聞いたデイちゃんは目を見開いてこちらを見るのだった。
「ビッグボス!」
僕はもう一度言う。するとデイちゃんは涙目になりながら僕の方に向いて話す。
「タテノくん……。あなたもしかして……び、ビッグボスを知っているの?」
「知ってます! 知ってますとも!! 忘れるわけないですよ!」
「「う、うわぁぁぁぁ!!」」
「な、なんや2人でずっと……。ちゃんとオレにも説明せいや」
◆◆◆
「よ、よがっだぁあ。私が……私だけがおかしくなっちゃったのかと……。私だけが違う世界に来てしまったのかと……。私がぁ、私がタテノくんに写真なんて頼んだからぁぁあ」
「大丈夫ですよぉお。僕もぉお。僕も僕だけなのかと……。よかったぁあ。うわぁぁ」
「……ちょっと話をまとめてええか? つまりデイちゃんもタテノと同じように世界が変わる前の記憶を持っているということなんやな?」
「……うぅ。そうです……。ビッグボスを知ってます……」
「うわぁ、嬉しい。この世界で初めてビッグボスって単語が伝わった……。嬉しいなぁ」
「えっ、タテノくんは私が知ってるタテノくんなんだよね? タイムスリップしてたタテノくんだよね?」
「そうです! ゾンビナイトのオールナイトでも道案内したタテノですよ!」
「うわぁぁ!! すごい!! 嬉しい!!」
「ちょっとお二人さん、一旦落ち着いてくれるか?」
「え、シャクレエリアの挨拶見た時どう思った?」
「あれはびっくりしました! みんな『シャクレ!』って言ってて……」
「ねぇ〜! 私も何?どゆこと?って思って……」
「ちょ、ちょっと2人とも落ち着いてくれるか?! 話を整理したいんや!!」
「あぁ、ごめんごめん。なんか地元の人に会ったみたいな嬉しさが……」
「あぁ、やっぱりそうですよね? 俺もなんかそんな感じしてました」
「こっちじゃ誰にも話通じないのよ……。ねぇ、こっちじゃノベルナイトも解散してて……」
「えっ?! マジですか?!」
「ちょっ……!! 一旦黙れ!! 2人とも!!」
◆◆◆
「つまり話をまとめると、タテノくんが過去に干渉したせいで歴史が変わって、このパークになっちゃったってこと?」
「その可能性が高いです……」
「そうなんやけど、それだけにしては不可解な点があるねん。それが、さっきから話してるシャクレの“愛の爆弾”達や」
「シャクレ!」
デイちゃんが突然顎をぐいっと出して、シャクレの挨拶を真似する。その顔のおかしさに僕は思わず吹き出してしまう。
「あはは! デイちゃん、その顔やばいです!」
「え、そう? ちゃんとできてる? シャクレ!」
「あっはっは、やばいやばい。上手です!」
「……ふざけるんやったら、もうこの事件解決せぇへんぞ」
「「すいません」」
珍しくハッタリが怒った様子だった。探偵が機嫌で事件を解決しないというのはどうなんだと思ったが、何も言わないでおいた。こいつはこっちの世界での数少ない味方だ。
「……んで、二つの世界での“愛の爆弾”の人気の差は異常や。ツリー点灯式事件のこともあるし、“愛の爆弾”の誰かが何か情報を知っとるやないかと思ってるねん」
「なるほど……。それでどうして私のところに来たの?」
デイちゃんはグッと身を乗り出して、ハッタリの方を見る。
「デイちゃんは昔からの情報通やから、連絡取ってたりしないかなと思ったんやけど……。今の話聞く分にはなんの記憶もないよな……?」
「悪いわね。前の世界ではリュウとは知り合いだったんだけど、こっちだとケータイの連絡先にも名前がないみたいなの」
「そうかぁ。アテが外れたなぁ……」
ハッタリはため息をつきながら、机に突っ伏した。デイちゃんは申し訳なさそうにしながらも、机に落ちていたカップに手を伸ばし、冷め切ってしまったコーヒーを飲もうとしていた。
「あの……」
突然後ろから声がした。
「今の話本当ですか?」
僕たちは声の主の方をゆっくりと見てみる。高そうなブランド物の服に身を包んだその男は、メガネをかけていた。
「俺、ちょっと力になれるかもしれないです。今の話」
「お、お前は……!」
ハッタリがその男を指差す。そう、その男は“愛の爆弾”のメンバーのメガネさんに違いなかった。




