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第34話 ピリオド。

「まさか酸化鉄子の部屋に出られるとはなぁ」


——おかしい


「こ、これで僕たちも芸能人の仲間入りっすね……ふふ」


——なんかおかしい


「帰ったらすぐ酸化鉄子の部屋の裏話動画を撮ってあげないとな」


「そ、そうっすね。こういうのはスピードが大事ですから……」


 何かがおかしい。目の前で話すシャクレとリュウを見て、そんな感覚がずっとしていた。ここが自分の居場所じゃないみたいなそんな感じが。いつからかはわからない。最近だったような気もするし、10年前のあの日にシャクレに誘われて動画投稿を始めた時からだったような気もする。


「メガネ! どうしたんだよ、考え込んで!」


「あ、いや……。その……」


「メガネさん、また俺は辞めるとか言い出さないでくださいよ」


「出た出た。メガネの辞める話。結局辞める辞めるって言っても10年も続いてんだから!」


 そうだ。違和感を感じながら続けた10年の活動だった。最初はシャクレに誘われて、インフルエンサー活動を始めた。リュウに言われるがままに色々な企画動画を投稿した。その動画達が軒並みヒット。『⚪︎⚪︎したら即帰宅シリーズ』、『アスレチックで青春シリーズ』、『くじ全部引いてみたシリーズ』などは今でも人気だ。最近ではゲーム実況にも力を入れていて、メインクラフトというゲームをするのも人気だ。人気だけど……。


——俺ってこんなことがやりたかったんだっけ


 最近は何のためにこんなことをしているのかわからなくなってきていた。シャクレと毎日ふざけているだけで大量のお金が手に入る。テレビにCM、案件動画。色々な仕事が毎日のように舞い込んでくる。しかし、富と名声が膨れ上がる度に俺の心は虚しさが積もるばかりだ。やりたくないことをやっているから……というよりも原因が別のところにあるのは自分でも理解していた。


「ついでに今度の動画の打ち合わせしましょう」


「そんなの適当にブランド品紹介の動画でいいんじゃないか?」


「いや、もっと過激なのがいいっすね。例えばブランド品壊されてたらどうなるかドッキリとか」


「いいねー。流石アイデアマン、リュウ!」


「コラボとかもありっすね〜。こいつらとかコラボしたいってDM来てましたよ」


「……。誰こいつら?」


「なんか最近来てるインフルエンサーらしいっすよ? 登録者数も十万超えてて……」


「十万?! すくねー! そんな素人同然のやつとはやらねーよ!」


「でも、俺この子にこの前の飲み会で『愛の爆弾のチャンネルに出るの夢なんです〜』って言われちゃって……。だから、出してやってくださいよー」


「お、それも企画になるんじゃね? 出られると思ったら、チラッと映るだけだったらどうなるかみたいなーー!」


「めっちゃいいっすねー!! それ!!」


 テレビ局のスタジオから帰る道中、2人がずっと話しているのを聞いていた。この2人は変わってしまった。いつからだろう。最初は楽しくしていただけだった。そのうち、動画の再生回数に取り憑かれてどんどんと過激な企画や品のないことに手を出すようになってしまった。視聴者が求めるもの、再生回数が増えるもの。それが第一になってしまっているように感じた。


 何度も話し合いをしようとしたが、その度にリュウは俺を制した。“今は”俺のいう通りにしてください。“今は”我慢してください。俺が“絶対成功メソッド”を持ってるので大丈夫ですと。実際、リュウの言う通りにしているとどんどんと成功していった。成功する度、シャクレやリュウとの心の距離は離れていくように感じた。


◆◆◆


「……辞める」


「やっぱ出たよ、メガネの辞める話!」


 俺たちが動画撮影に使っているマンションの部屋に帰った瞬間、俺は2人に打ち明けた。もう辞めたいと。


「……。やっぱ俺にはこんな活動向いてないんだ。抜けます」


「始まったよ、またメガネが……」


「企画とかもさ……。人を騙すようなのじゃなくて……もっと楽しいやつが……前はもっと俺たち楽しくやってたじゃん」


「あのさー、メガネさん。俺たち日本一のインフルエンサーなんだから。楽しいだけじゃやっていけないんだよ?」


「だからってこんな……ブランド物がどうとか、面白くないだろ」


「メガネー! 多少おもんなくても、おもろいと思って見てくれるやつはいんの! それに毎日投稿するんだから、多少クオリティが上下するのは仕方ないっしょ?」


「その毎日投稿だって、無理してしなくても」


「だからさー、今どんどん新規の人気インフルエンサーが出てきてんの。ぼやぼやしてると追い抜かれちゃうよ?」


「抜かせときゃいいじゃんか! 俺たちは俺たちの道があるはずだろ!」


「あのさー、メガネ。誰のおかげで今食えてると思ってんの? あ?」


「それは……。シャクレとリュウのおかげだけど」


「じゃあさ。黙っててくんないかな?」


——あ、もう無理だ


 ぷつり……と何かが切れる感覚がした。こいつらは俺があの日一緒に居たいと思った人間では無くなってしまったんだ。


「いや、もういい。俺は別に食えるとか食えないとかじゃない。人としてどう生きたいか、だから」


「おいおいメガネ、はやまんなって」


ガチャ


「これ動画のネタになるんじゃないですか? 脱退寸前のメガネさんが戻ってくるまでのドキュメンタリー!」


「リュウーー! めっちゃいいじゃんそれ! 感動しそうー!」


——聞こえてんだよ、馬鹿が


 扉の向こうで騒ぐ2人の声が聞こえてくる。いつから俺たちはこうなってしまったのだろう。シャクレとリュウの言う通りにしてたら、ここまで来た。日本一なんてすごいことだ。凄いことだけど。俺の心はそこに着いていけなかった。シャクレ、今までありがとう。お前は俺の親友だった。そう、だったんだ。

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