第31話 Orphans
「なるほどなるほど……」
ハッタリ野郎は手帳のようなものにメモをとりながら僕の話を聞いていた。僕もこんなやつに頼るなんて、世界の終わりが来ない限りないだろうと思っていたが、シャクレエリアなどというものが生まれ、ビッグボスもいない、あかねちゃんも僕と仲良くないという世界の終わりのような状況になれば、頼らざるを得ないのだなと思った。
「休憩スペースの絵から過去になぁ……。びっくり仰天やなぁ……」
「お前、やけに俺の話をそのまま信じてくれるんだな」
「そりゃそうやろ」
「医務室の先生なんか、俺をめちゃくちゃ疑っていたのに……」
「……。まぁ、相棒やからな……」
そう言うとハッタリは帽子のつばを下げて、目を隠した。そして話すのだった。
「お前は覚えとらんのやろうけど、こっちの世界ではオレはお前を信頼しとったんや。それに足る相棒やった」
「へ、へぇ……」
「タテノ、お前にその記憶がなくてもオレにはあるんや。お前がそんな嘘を言うやつやないってことはオレにはよくわかる……それに……」
「それに……?」
「タイムスリップ事件を解決するなんて、探偵人生で一度あるかないかやろ? わっくわくすんねん!」
ハッタリはそう言うと、目をキラキラとさせてこちらを見ていた。まるでジャンピースのルディみたいだな……と思った。そんなことこいつに言っても伝わらないか。あぁ……あかねちゃんにだったら伝わるのに……。
「お前の話をまとめると不可解な点があんねん」
「え……不可解な点?」
「あぁ、そうや」
ハッタリは手帳をパタリと閉じて、空を仰いだ。人差し指をトントンと額に当てて、考え込んでいるようだ。
「お前がタイムスリップして、歴史が変わってしまった。まぁそれは多分そうなんやろう」
「それは俺が言っただろ」
「アホ。お前が言う前からオレも思うとったわ」
「んなっ! そんなの後出しジャンケンだろ」
「まぁそうつっかかってくんなや。オレが推理するにお前の世界とこの世界で大きく違う点は2つある」
「お前……俺の話聞いてたのか? 違う点は2つどころじゃ……」
「お前こそオレの話を聞け! 源流を辿れば2つやねん」
「源流……?」
「そうや。一つはマエダさんことビッグボスやな」
ハッタリは人差し指をピンと立てて話し始めた。
「お前の言うビッグボスという人の特徴にこの世界のマエダさんは当てはまらへん。マエダさんはビッグボスみたいにビシバシ人を指導したり、仕切ったりするような人やあらへん。仕事は一生懸命やっとるけどな」
「そうなのか……」
僕は理路整然と話すハッタリを不覚にも探偵みたいだなと思って見てしまっていた。この世界のマエダさん……。ビッグボスという名前にならなかったマエダさん……一体どうしてなんだ……。
「原因はコレやろうな」
ハッタリはそう言うと、スマートフォンを僕の前に差し出した。そして、動画を再生し始めた。それはツリー点灯式の動画だった。
「これは“愛の爆弾チャンネル”に上がってる10年前のツリー点灯式事件の動画や」
——ツリー点灯式事件……
僕が最後のタイムスリップで見たツリー点灯式。そうだ、あの日ビッグボスが事件を未然に防ぐ様子を見ようと思っていたけど、見られなかったんだ。
『危ない!! お客様はこの俺、シャクレが守るぅ!!』
動画から男の声がする。これは……。
「そう、タテノ。お前はビッグボスが事件を防ぐ様子を見たかった言うてたけど、実際には事件を未然に防いだのは愛の爆弾のメンバー……当時パークのダンサーやったシャクレや」
——なっ……
そうだ。あの日10年前から現代に戻る時、遠くから男の声が聞こえていた……。あの声はシャクレだったんだ……。あれが歴史が変わってしまうターニングポイントだったのか……?
「この事件が原因で歴史が……? でもなんでシャクレが……」
「そこやねん。シャクレはこの事件の動画がアップされ、ネットでパークを救ったヒーローとして、ネットミーム化。それがきっかけでインフルエンサーとして名を馳せていくんや」
「そうなのか……。俺がいた世界ではこの事件はビッグボス……マエダさんが防いだことになってたんだ。ここが分岐点……?」
確かにハッタリの言う通り、この事件が世界がまるっきり変わってしまった分岐点のような気がする。僕が過去に介入したせいで、ここまで世界が変わってしまった……。
「俺の……俺のせいで……」
「いや、そこやねん」
「そこ……?」
「タテノ1人のせいだけで、ここまで世界が変わるもんなんやろうか」
「何言ってるんだアホ探偵。実際変わってるだろうが……」
「百歩譲って、ツリー点灯式事件のヒーローがシャクレに変わるのはわかる。でもそこからの人気の差が異常や。お前の世界では人気はほぼないんやろ?」
「そ、そうだけど……。確か登録者も数百人とかだった気が……」
「こんな人気になれるような奴らやったんなら、元の世界でもチャンスがなかったにしても、それなりに活躍できてると思うんや」
——たしかに……
愛の爆弾達のこの世界での人気は異常だ。パークのエリアになる、コラボする、テレビに出る。そこまでになるポテンシャルを秘めていたとは正直……。
「じゃあ、ハッタリ。お前は俺がやった以外に何か過去が変わっちゃうような要素が何かあったって考えてるってことか……?」
「ま、まぁそうやな……」
「それはどういう要素なんだ?」
「えーと、それはやな……。そのー……」
「……?」
突然口篭るハッタリ。急に歯切れ悪いな、なんだこいつ。まさか……。
「まさか、お前ここから先はまだ思いついてないのか?」
「ばばばばばかか、お前は! オレの頭の中ではもう解決しとるわ!」
「嘘つけよ、めっちゃ焦ってるじゃないか!」
「誰が焦ってるゆーねん。オレは天才パーク探偵やぞ!」
「うるさい、ハッタリ野郎! 天才なら早く推理しろ!」
「うっさいうっさい! 今考えとんねん!」
明らかに目が泳ぎ始めるハッタリ。やはり、ここからは何も思いついてないのだろう。僕が思いついてない要素……。何か僕が過去の世界で他にしてしまったことがあるのだろうか。それとも僕以外のタイムトラベラーがいるのか? いるとしたらそれは誰なんだ……。
「ま、まぁ。とにかく事件解決のためには聞き込みや!」
「聞き込み……って言ったって誰に……」
「そんなの決まっとるやろ」
ハッタリはそう言うと僕の手を引いて走り始めた。やめろ。僕の手を握るな。僕の手はあかねちゃんの手を握るために……。
「そんなに急いでどこにいくんだ??」
「まずは問題の人物……マエダさんに話を聞くしかないやろ!」




