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第30話 名探偵ハッタリ

『事件や、いつもの場所で集合』


 ハッタリ野郎はその言葉だけを残して、電話をぷつりと切った。


——いつもの場所ってどこだよ


 僕は医務室を飛び出し、パークの中を走り回った。いつもの場所というなんの手がかりもない情報だったが、とにかく今は何か馴染みの顔に会いたかった。あいつは何か覚えているのだろうか? 僕とジェットコースターに乗って対決した記憶はあるのか? 確かめたいことは色々ある。この世界でお前はあかねちゃんとはどういう関係なんだ。


「いや、ていうか!!」


 僕はぐるりとパークを一周して思わず呟く。いや、叫びに近かった。


「いつもの場所ってどこだよ! クソ探偵野郎!!」


 パークのどこを探してもあの探偵野郎は見当たらない。バカみたいな探偵格好をしているからすぐにわかると思ったのに。ていうか、お前と僕が集まるいつもの場所なんてないだろ! どこにいるんだよ! 不親切探偵!


「クソ探偵野郎とは“けったい”やなぁ。親愛なるワトソンくんにそんなこと言われるとはなぁ」


 耳障りの悪い声が後ろから聞こえてくる。あぁ、懐かしいこの声。僕のあかねちゃんをのうのうと相棒とぬかしたこの関西弁野郎。後からノコノコ出てきたくせにあかねちゃんと仲良くしやがった探偵野郎。


「まさか……いつもの場所もわからんようになってるとはな」


「お前とのいつもの場所なんて知るかよ!」


 振り返ると奴がいた。絵本から、漫画からそのまんま出てきたみたいな探偵野郎。シャーロックホームズがそのまま飛び出してきたみたいな格好をしやがって。現実にはこんな探偵いないだろ!


「ほんまに記憶喪失みたいやな。改めて自己紹介させてもらおうか」


「しなくていいって!」


 ハッタリは鹿撃ち帽をクイっと人差し指で上げ、踵を揃えてポーズをとった。どこからともなく取り出したキセルのようなものも持っている。いつの間に取り出したんだ、こいつは。


 茶色のチェック柄のような丈の短いコートが風に揺れる。僕はこれをインバネスコートということを知っている。なぜなら、探偵野郎と初めて会った後に気になって調べたからだ。不覚にも「あの格好って何ていう服装なんだろう」と思ってしまった。何で僕がこいつの格好について調べなきゃいけないのか。全くもって時間の無駄だったと言える。今すぐ時間を返せ。利子もつけてな。


「オレの名はハッタリ。西の天才パーク探偵や。オレに解決できひん事件は……ない!」


「……」


 僕は呆れて沈黙していた。しかし、そんな僕の事など全く意に介す様子もなく、ハッタリは探偵の決めポーズのようなものを決めている。いや、お決まりの……といった具合でポーズを決めているが、別に探偵にお決まりのポーズなんてないし、そもそも全然決まってないし、こいつはただのハッタリ野郎だし。何をやっているんだこいつは。バカなのか、アホなのか。もしくはその両方なのか。


「どうぞ、よろしゅう」


「別によろしくしないけどさ……」


「記憶喪失……って聞いたんやが、このパーク探偵のことは覚えとるみたいやな」


「パーク探偵なんておもしろ職業のやつを忘れられるわけないだろ!」


「おもしろ職業ちゃうわ!」


——いや、おもしろ職業だろ


 一体この世の何人が「ワテはパーク探偵や!」と名乗られて「はい、そうですか」と納得できるというのだろう。笑われる事間違いなし。もし職務質問で聞かれたならば、尿検査待ったなし、陽性間違いなしだろう。完全に頭がおかしいやつだと思われるに違いない。僕が警察官ならもう逮捕している。職業捏造罪だ。逮捕逮捕!!


「むぅ……」


「そんな恋敵を見るような目で相棒を睨むなや……。何があったか話してみぃ。なんで記憶喪失になったんや……」


「相棒じゃないし、記憶喪失でもないわ!」


「あんなに数々の事件を2人で解決してきたやないか。お前はオレの相棒で相方で弟子でパートナーやと思ってたのに……」


「はぁ。お前は気楽でいいな」


 僕はまるっきり変わってしまったようなこの世界で、変わらず憎たらしい様子のこいつを見て少しだけ平常心を取り戻していることに気づいた。


「なんや、急にしおらしいやないか」


「別にしおらしくはないわ……」


 そろそろこの探偵野郎の言動を否定するのにも疲れてきた頃合いだ。僕は確認したかったことを口に出してみた。


「なぁ、探偵野郎。ビッグボスって名前に心当たりはないか? 僕とあかねちゃんを懸けてジェットコースター対決をした記憶は? お前があかねちゃんと迷子犬探しをした記憶はないか?」


「急にペラペラと喋り出したと思ったら、訳のわからんことを……」


◆◆◆


 その後、ハッタリは話しはじめた。ビッグボスという名前に心当たりはないことや、あかねちゃんとは話したこともないこと。そして、迷子犬探しに関しては、あかねちゃんとではなく僕と事件解決にあたったという話だった。


「……って感じやったなぁ。あの時のお前は相棒として完璧な動きやった! ワトソンくんとして申し分のない働きやったで」


「何から何まで俺の記憶とは違うな……」


 起きた事件や人物が少しずつ噛み合ってはいるが、その仔細は僕がいた世界と異なっている。これが僕が歴史を変えてしまった影響なのだろうか。少しビッグボ……マエダさんと仲良くして別れただけでここまで世界が変わってしまうのだろうか。


「さっき医務室の先生に聞いたんだけど、マエダさんはいるんだよな?」


「おぅ、マエダさんな。知っとるで」


「そうか……」


 マエダさんことビッグボスはこの世界にも存在している。恐らくここはマエダさんにビッグボスというあだ名がつけられなくなってしまった世界なのだろう。その原因が僕のタイムスリップ……という訳なのか……?


 探偵野郎と話しているうちに僕の頭が探偵脳になってきたのか、状況を把握するために脳が推理を始めだした。


「わかったで」


「は?」


 僕が考えをまとめていると、目の前の探偵野郎が目をキラキラとさせながら呟いた。何言ってるんだ、こいつは。この大馬鹿探偵野郎に何がわかるって言うんだ。


「お前の言動をまとめると……そのビッグボスゆーんはマエダさんのことや。お前の記憶ではマエダさんのことをビッグボスと呼んでたんやな」


「そ、そうだけど……」


「そして、お前の話ではオレの相棒はあかねちゃん。そこもオレの記憶と食い違っとる」


「おい、その探偵口調やめろよ」


「更に……!! お前は色々な記憶がない。これらのことを総合すると一つの仮説が成り立つわけや」


「俺は別にお前に推理して欲しいなんて言ってないんだけど……」


 僕の言う事など全く聞かない様子でペラペラと話し始める探偵野郎。こいつはあかねちゃんとの時もこんな感じだったのか? 可哀想なあかねちゃん……。僕が守ってあげるからね。


「そう……それはお前が……」


 探偵野郎は先ほどのように決めポーズをとった。それはまるで犯人を言い当てる事件解決のポーズのようだった。彼はシュバっと僕にキセルを向けて言い放って見せるのだった。


「パラレルワールドから来た異世界人って事やな!」


「は……? パラレルワールド……?」


 トンチキな事を言い始めやがったこいつ。パラレルワールドなんてものをいい年して信じてやがるのか……。そんなものはサンタクロースを信じる年頃には卒業しておけよ! エセ探偵!


「言わばこれはテーマパークパラレルワールド事件……いや、語呂が悪いな。パラレルパークワールド事件……いや、うーん」


「いや、事件の名前なんてどうでもいいわ! パラレルワールドじゃないし……俺は異世界人でもないから!」


「じゃあ何やねん」


「……。だから、俺はタイムスリップして歴史を変えちゃったかもしれないの!」


「……! ピカーン!」


——え、今こいつ口でピカーンって言った?!


 探偵野郎は何か閃いた様子で、人差し指を立てている。漫画だったら豆電球でもピカーンと光っているのだろうが、こいつはそれを表現したいのか口でピカーンと発したのだ。バカなのか? いや、バカなのだろう。


「さぁ、行こうか。ワトソンくん」


「行こうかってどこに……電話で言ってた事件の話か? 今はお前の事件に関わってる場合じゃ……」


「アホか、お前は。オレが言ってた事件っちゅーのはお前のことじゃ」


「は……? どういう……」


「お前のそれは何や」


「それって……」


「タイムスリップがどうこうゆーてるやろ。ずっとその話してんねんから!」


 探偵野郎が呆れた様子で僕に言い放つ。そしてその顔は長年追い続けてきた幻の食材を目にした美食ハンターのようなキラキラとした期待感に満ちた表情になっていた。そのまま探偵野郎は僕に詰め寄ってくる。


「それが事件かそうちゃうんかって聞いとんねん、アホが!」


「んなっ、さっきからアホって何だよ!」


「アホやろうが、お前の前におるのが誰やと思ってんねん」


「誰ってハッタリ野郎……」


「そうや、オレの名はハッタリ。それが事件っちゅーなら、この西の天才パーク探偵にお任せや」


 そう言うとハッタリは再び決めポーズを取るための準備動作に入った。こいつこの短い間に何回決めポーズするんだよ。普通ここぞという時に一回だけするものだろう。いや、普通決めポーズなんてとらないけど。


「なぜなら……オレに解決できひん事件はないからや!」


ドン!!


「……」


——いや、決まったみたいな顔してるけど……


 誇らしげな顔をして立っているハッタリ。いつもなら憎たらしくて苛立っているところだが、今はなぜだか少し頼もしく感じてしまっていた。もしかしたら、こいつとならこの歴史が変わってしまった世界を解決できるのかもしれない。そんな期待感があった。そんな僕の様子を察してか、ハッタリは僕の肩に腕を回して話すのだった。


「相棒……いや、タテノ。お前のそのタイムスリップ事件……オレにまかしときぃ!!」

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