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第27話 前前最大有心公約数前世論

——もうおしまいだ


 休憩室を出た僕は廊下をふらりふらりと歩いていた。先ほどもらった飴玉はいつの間にか溶けて無くなっていた。世界の終わりとは今日のような日のことなのかもしれない。こうやって世界は終わっていくんだ。


『タイムスリップして、歴史変わっちゃったりしたら怖いじゃないですか?』


 少し時間が経って落ち着いた僕の頭にいつかのはてなさんの話が浮かび上がってくる。もしかして歴史を変えた……僕が?


——え、これ僕のせいなの?


 僕があの絵から『ダイブ』してしまったせいで、あの日マエダさんと関わってしまったせいでこんなにも歴史が変わってしまったのか? いや、あのくらいでこんなに歴史が変わるわけ……。


『いやぁ、それがわからないんですよ! ちょっとしたことで変わるかもしれないから、タイムスリップ物は考察が止まらないんです。例えばBTTFでは……』


 再びはてなさんの言葉が頭に鳴り響く。どうやら、間違いない。僕が……僕がしたちょっとしたことでビッグボスがいなくなり、ハナさんまでいなくなって、挙句の果てにシャクレ一味がパークを占拠する事態になっている。


「くそ!!」


 僕は壁にもたれる。どうすればいい……。この事態に気づいているのは僕だけなのか。僕が再びあの絵から『ダイブ』すれば……。


「そうそう、そしたらさ……」


——あっ……!


 僕がうなだれていると、廊下の向かいから聞き覚えのある声が聞こえてくる。その声は天使そのもの。この世界を救う救世主。その声を聞いただけで、ドロドロになってしまった僕の心を一気にさらさらに漂白してくれる。世界初の肉眼で確認できる愛。地上で唯一出会える神様だ。この世界の終わりみたいな場所で唯一キラキラと輝く君がここにいた。あぁ、出会えて本当によかった。僕の鼓膜は君の声を聞くために、僕の網膜は君を映すために、僕の脳は君を認識するために、君と話したいから言葉が生まれたし、君が立っていられるように地面も生まれたんだ。ありがとう。君がいるから僕はここに立っていられるし、僕がここにいるのも君がいるからなんだ。地球が自転しているのは、宇宙のどの惑星からも君が見えるようになんだ。太陽が赤々と輝いているのも、君がよく見えるように。星々がキラキラと光っているのは、君が光っているのを真似したからなんだ。あぁ、眩しい。眩しいよ。


「あ、あかねちゃん!」


「え?」


「よかった! あかねちゃん!」


「は、はい?」


 僕はあかねちゃんに近づいて、彼女の肩を掴む。


「ビッグボスのこと、みんな知らないって言うんだ! シャクレザライドなんていうふざけたコースターもいつの間にか出来てて、あんなのコースター好きとしては許せないよね? ね? あかねちゃんもそう思うよね?」


「え……いやあの……」


「このままじゃクリスマスデートどころじゃないよ!」


しん……


 嫌な静寂。今日僕はこの嫌な静寂を何度経験してきただろう。この静寂を経験するのが初めてじゃなくて良かった。これが初めてだったなら、僕の精神は崩壊し、足元からガクガクと崩れ落ちて、砂になってしまっていただろう。


「あの……クリスマスデートって何のこと……?」


——嘘だ……


「ビッグボスって誰のことだろう」


——嘘だ……


「何でコースター好きって知ってるの?」


——嘘だ……


 あまりの言葉に崩れ落ちる。かろうじて僕を僕たらしめていた膜がぷちんっと切れてしまったような感覚がした。


「どうしたんですか? タテノさん」


——さん?!


 さんってやめろよ……。タテノくんって……。タテノくんって呼んでくれてたじゃないか。そんな他人みたいな、知り合いみたいな、友達の友達みたいな、名前は知っているけども……みたいな呼び方……。


「もしかして誰かと勘違いしてない?」


——そんなわけない……!


 僕があかねちゃんと誰かを勘違いするなんてことあるわけない。僕は君のことを前前前世なんてレベルじゃない遠くからでも探しあてることが出来て、君が8なら僕は2になって、それで、あの、君は誰も端っこで泣かないように地球をあれして……えっと……その。


「気をつけてね。クリスマスデートするような相手のことを間違えちゃったら、お相手さんに失礼だよ!」


 あかねちゃんはそう言うと、友達のような人と再び向こうに歩いて行った。もう僕にはそれを追うような体力は残されていなかった。HP 0。ゲームオーバー。目の前が真っ暗になりました。


 まさに“絶望”そのもの、と言った感触があった。あんなたかが100メートルから落下することの何が絶望なのだろう。あんな“絶望”はまやかしだ。僕はたった今経験したんだ。本当の絶望というやつを。


 拝啓、サンタクロース殿。私タテノは今後一切遅刻もしませんし、真面目に仕事をします。良い子にします。良い子にしますので、どうかあの世界を。みんながいて、あかねちゃんと僕がいるキラキラとした世界を返して頂けないでしょうか?

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